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15 強制と矯正ー4

「行ってきます」


 そして2日後、単独で自宅を出発する。すっかり必需品となってしまった手袋を装着して。


 マフラーは付けていない。何故か購入した本人に奪い取られてしまった。


「えっと…」


 駅から電車に乗ると待ち合わせへ場所へやって来る。若者が多く利用する街に。


「まだ来てないのかな…」


 周りを見回すがターゲットの姿が見当たらない。休憩しようと近くにあった自販機に歩み寄った。


「だ~れだ?」


「おわっ!?」


 側面にもたれかかろうとした瞬間に突然両目を塞がれる。毛糸製の衣類に包まれた手によって。


「ちょっ……離して!」


「誰だか当てられたら離してあげる。さて私は誰でしょう」


「小田桐さんでしょ? 声で分かるから」


「はい、正解。よく出来ました」


 抵抗の意思を見せながらもクイズに返答。称賛の台詞と共に暗かった視界が開けた。


「……あぁ、ビックリした」


「雅人くん、驚きすぎ。子供じゃないんだからそこまでパニックにならなくても」


「いきなり目を塞がれたら誰だって驚くよ。せめてやる前に言ってくれれば良いのに」


「やる前に言ったら意味ないじゃん」


「まぁね」


 まさかこんな定番ネタを使ってくるなんて。覚悟をしていなかった分、破壊力は抜群だった。


「でも良かったぁ。ちゃんと今日の約束守ってくれて」


「だって小田桐さんがあんな事言うから…」


「あれ? 私、何か言ったっけ?」


「デートの約束守ってくれなかったら一生付きまとってやるってヤツ。メールで言ってたじゃないか」


「ふっふっふっ、どうやら効果があったみたいね」


「メチャクチャあるよ…」


 アクティブな性格を考えたら冗談に聞こえない。今までの言動から推測しても本気でやりかねなかった。


「んで、どこに行く? 雅人くんが決めてくれて良いよ」


「う~ん……映画は前に行ったしなぁ」


「また行く?」


「ジッとしてるの苦手なんで勘弁してください」


「寒いから外を出歩くのもね。遊園地や動物園もやめといた方が良いかな」


「となると屋内施設か…」


 2人で行き先を話し合う。電車の通過音を耳に入れながら。


 協議の結果、近くのボウリング場に向かう事に。カラオケやゲーセンもあるし、時間潰しには最適だからという理由での決定だった。


「私、ボウリングって初めてなんだけど」


「あれ? そうなんだ」


「教えてくれる? ルールとか投げ方とかいろいろ」


「いや、僕もあんまり得意な方ではないし」


 少々の緊張感はあるが嫌な気はしない。隣の歩く人物はいつの間にか気軽に話せる友人の1人になっていた。


「は~い、着いた着いた」


「寒ぅ…」


 かじかんだ手を擦り合わせる。暖房が効いた施設内で。


 中へ入るが平日なのでお客さんは少なめ。受付を済ませるとボールとシューズを持ってレーンに向かった。


「いぇ~い、またまたストライク」


「おぉ!」


 相方がピースサインを頭上に掲げる。全て倒れたピンを背に。


「う、上手いね。これでもう5回目じゃん」


「えへへ、ありがとう。今日はとっても調子良いみたい」


「素人とは思えないよ。本当に今までボウリングやった事ないの?」


「た、多分…」


「ん?」


 それから2人してゲームに没頭。その間、対戦相手はストライクやスペアを連発。全てを投げ終わる頃には絶望的なぐらいに差がついていた。


「おかしいって、これ! 絶対初めてじゃないでしょ」


「……あはは、バレちゃった?」


「初心者がストライクこんな連発なんて有り得ないから。僕と100点以上も差がついてるじゃないか」


「で、でも雅人くんも上手だったよ。2ゲーム目には100点超えてたじゃない」


「誰かさんは3ゲーム合わせて500点近いスコアを叩き出してたけどね…」


 ボールの持ち方といい、投げる時のフォームといい、明らかに常連と分かる仕草。序盤は教えを乞おうとしていたのに、後半は自分があれこれ指導を受ける立場だった。


「どうしてあんな嘘ついたのさ。ボウリング未経験だって」


「だ、だって女子が男の子より上手かったらマズいじゃん。雅人くんだって女の子に負けたら嫌な気分になるでしょ?」


「まぁ…」


「だから下手なフリしたんだよ。でも思ったよりも絶好調だったからつい本気出しちゃって…」


「なるほど…」


 気を遣って素人な彼女役を演じてくれたのだろう。その配慮は嬉しいが、招いた結果は悲惨で凄惨。


 続けてカラオケに行ったのだがまたしても精神的ダメージを負う羽目に。音痴な自分と違って小田桐さんはかなりの歌唱力の持ち主だった。


「はい、交代」


「……いや、もう良いです」


「え? 何でよ」


「だって何を歌っても点数が10点近く離れてるし、小田桐さんの歌声を聴いてたらどんどん自信を失っていくっていうか…」


「そんなの気にしてたらいつまで経っても上手くならないじゃん。嫌なら採点切るけど?」


「え、え~と…」


 差し出されマイクを渋々握る。諦め半分、ヤケクソ半分な気分で。


「ふぅ…」


「は~い、お疲れ様でした」


「どうも…」


 歌い終えた後は静かに着席。入れ違いに次の曲を入れていた相方が立ち上がった。


「……ポジティブだなぁ」


 かつての目の前にいる人物と交えたやり取りを思い出す。ボロボロと泣いていた時の姿を。


 彼女は自分よりずっとずっと波乱万丈な人生を経験。それなのに今は不幸さを微塵も感じさせない様子で笑っていた。

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