14 ゼロとリセットー7
「はぁ…」
自室にこもると机にうつ伏せになる。脱力感満載の様相で。
別に子供みたいに甘えろとまでは言わないがもう少し頼ってきてほしい。これだと何の為の家族なのかが分からなかった。
全てを1人でこなそうとしているならまだ良い。自分の気遣いだけが払いのけられている気がした。
「お?」
考え事をしている最中、ドアがノックされる。その音に反応して弾かれるように廊下へと移動した。
「……なんだ、香織か」
「何、そのガッカリした顔。泣くよ?」
「泣いちゃえ泣いちゃえ。泣いて跪くといいよ」
「だあっ!」
「ぐふっ!?」
訪問者に対して投げやりな態度で対応する。手首をブラブラさせていると強力な右ストレートが腹部に飛んできた。
「ぐ、ぐああぁあぁっ!!」
「ふんっ。跪く事になったのはそっちの方だったね」
「い、いきなり何するのさ…」
「華恋さんに教えてもらったの。まーくんがイジメてきたらお腹の辺りを殴ってやれって」
「そんな…」
床に倒れてもがき苦しむ。頭上から聞こえる無慈悲な台詞を耳に入れながら。
「た、助けて…」
「嫌だ」
「えぇ…」
「シュッ、シュシュッ!」
技が綺麗に決まったからか彼女は上機嫌に。シャドーボクシングのスタイルで素早く立ち去ってしまった。
「何しに来たんだ、一体…」
用事があって訪ねてきたハズなのに。これではただ暴行しに来ただけでしかない。
「うぐぐっ…」
これからは華恋だけでなく香織にも気を遣って生活しないといけないと判明する。理不尽な暴力が原因で。この家での自分の立場が肩身の狭い物へと変化していた。
「フンフンフ~ン」
休日、華恋と2人して近所を歩く。バイトも無い平和な昼下がりを堪能しながら。
「もう腕は痛くないの?」
「うん、だいぶマシになってきたかな。物は持ったり出来ないけど動かしても痛みを感じなくなってきたし」
「そかそか。良かったじゃん」
体調も良いみたいで彼女は家を出る時からずっとご機嫌。あとは右手首が完治するのを待つのみだった。
「そういえばもうすぐ試験だね。雅人はちゃんと勉強してる?」
「それなりには。ちょっと自信ないけど」
「私はどうしよっかな。大学に行かなくても良い気がしてきちゃった」
「えぇ? 2人で同じ学校に行こうって約束したじゃないか。今更なに言い出してるの?」
「うん、そうなんだけどさぁ…」
進学せずどうするというのか。勉強がしたくないから進路を就職に変更したくなったのかもしれない。
「いらっしゃいませ~」
コンビニに入った後は目的の漫画雑誌を購入。ついでにお茶のペットボトルと適当な菓子類も買って店を出た。
「もう少ししたら皆に会えなくなっちゃうんだなぁ。淋しいや」
「連絡取り合えば良いって分かっててもやっぱり名残惜しくなるよね。バラバラになったら疎遠になっちゃうのかな」
「はぁ……卒業かぁ」
「智沙は地元が同じだからすぐ会えるよ。颯太も卒業したらこっちの実家に戻って来るって言ってたし」
「そうだね…」
漂う空気が変化する。儚くてしんみりとした物に。
「卒業してもまた新しい友達出来るかな…」
「出来るさ。華恋は人見知りしないタイプなんだし」
「……だといいけど」
「それに大丈夫だって。どういう風になっても僕だけはずっと側にいるから」
「うん…」
彼女の視線が綺麗な雲を映し出している空に移動。その横顔からは淋しそうな感情がハッキリと見て取れた。
「嫌っ!!」
「え?」
手を握ろうと腕を伸ばす。その瞬間に予想外の事態が起きた。
「あ…」
「……えと」
気まずい雰囲気が出現。指先が触れた途端に強く振り払われてしまった。
「ごめん……私、もうアンタの事好きじゃないかも」
「……え」
続けざまに彼女が有り得ない台詞を吐き出す。脳内の思考を停止に追い込んでくる言葉を。
「そんな…」
記憶の欠落や身体の後遺症もなく復活。奇跡と言っても過言ではないレベルで。
ただ1つだけ計算外だったのはゴールの到達点。華恋は入院する前ではなく出会ったばかりの頃に戻っていた。




