14 ゼロとリセットー6
「だからどうしてアンタ達はいつもいつも大事な要件をアタシに話さないで内緒にしてるのよ!」
「ご、ごめん。うっかり忘れてた」
翌日、通学途中の電車内で叱責を受ける。不機嫌な女の友人から。
「んでもう大丈夫なの? 退院したって事は綺麗サッパリ治ったわけ?」
「うん、平気。それに別に病気で入院してたわけじゃないし」
「雅人にバットで殴られたらしいじゃん。ヤバそうなら警察行った方が良いんじゃないの?」
「あのさぁ…」
「あはは…」
いつも通りの通学。友人がいて妹がいて、そして華恋がいて。
教室へとやって来るとクラスメート達による盛大な歓迎イベントが発生。華恋と仲の良い女子グループや、普段はあまり会話もしないような生徒達まで騒ぎ始めてしまった。
「良かったじゃん。白鷺さん、退院出来たみたいで」
「うん。一時はどうなる事かと思ったけど」
「え? そんなに重症だったの?」
「あ……いや、あんまり入院が長引くと留年する可能性もあったのかなぁって意味」
「その場合は多分、後で補習受ければ大丈夫だと思うよ。さすがに卒業間近で怪我を理由に留年させたりはしないと思うし」
「へぇ、そうなんだ」
「マル、詳しいじゃん」
「へへへ…」
男子グループで遠巻きに様子を眺める。ヒーロー扱いされている妹を。
「でも利き腕が使えないんじゃ不便だよな。字を書いたり箸使ったりが出来ない訳だし」
「友達がノートとってくれてるみたい。交代で」
「俺も何かしてあげよっかな。力になってあげたいわ」
「とりあえず様子見ててあげて。もし困った事になったら向こうから助けを求めてくるだろうから」
「おっしゃ、了解」
鬼頭くんが握り締めた拳で胸部を殴打。力強い返事が頼もしく感じた。
「そういや俺、これからマルと一緒に学食行くけど赤井くんはどうする?」
「えっと、どうしようかな…」
会話しながら視線を移す。大勢の生徒が群がっている人垣に。
昨日までは鬼頭くん達と昼を共にしていたが今日は利き腕が使えない妹がいる。やはり側についていてあげないとダメだろう。
「あ、あれ…」
直接話しかけにいくのが面倒なのでメッセージを送信。しばらくすると『今日は別々で良い』と記された文面が届いた。
「……大丈夫なのかな」
右腕が使えないのにどうするつもりなのか。パンでも買ってきて食べるか、友達に助けを借りるつもりなのかもしれない。
不安はあったものの本人の意思を無視する訳にもいかず。この日は華恋と離れて鬼頭くんや丸山くん達と昼休みを過ごした。
「うぉりゃあっ!! じゃあお前らまた明日な、うぉりゃあっ!!」
放課後になると担任が大声で叫ぶ。訳の分からない掛け声を。
「帰ろ、華恋」
「んんしょ……っと」
「大丈夫? 手伝ってあげようか?」
「へ、平気。自分でやるから」
寄り道せず妹の席へと直行。彼女は左手一本で教科書や筆記用具を鞄の中に放り込んでいた。
「私がやったげるよ。貸して」
「あ……ごめん。ありがと」
「ん。どういたしまして」
観察していると近付いてきたクラスメートが代打を名乗り出る。彼女は机の中に入っていた私物を綺麗に鞄の中へと仕舞ってくれた。
「下まで持っていってあげる。片腕だと大変だし」
「本当にごめんね。ノートまでとってもらっちゃったのに」
「良いって事よ。友達なんだから気にすんな」
「ふふっ、ありがと」
2人が会話しながら教室を出る。その後を追いかける形で自分も廊下に移動した。
「ほい。重たいから気を付けてね」
「サンキュー、助かっちゃった」
「んじゃまたね、バイバ~イ」
そして下駄箱までやって来ると解散する流れに。優しい女子生徒は陽気な笑顔を振りまきつつ校庭へと飛び出して行った。
「大丈夫? 持ってあげよっか?」
「うぅん、平気」
「いやいや、そんな遠慮いらないって。貸してみなよ」
「良いってば。大丈夫だって言ってるじゃん」
「どうせ同じ家に帰るんだからさ。登校する時だって持ってあげたんだし、ほら」
「ちょっと離してってば。私が平気だって言ってんだから平気なの!」
「……あ」
彼女の鞄に手にかける。しかしすぐに奪い取られてしまった。
「なにさ、人が親切にしてあげてるのに」
「ちゃんと自分の荷物ぐらい自分で持てるよ。だからあんまり気を遣わないで」
「……はいはい、分かりました」
「ごめんね」
先を行く華恋から数歩分の距離を置いて歩き出す。友達には甘えるクセに2人きりになると強気な態度。その区別がどこか気に入らない。
彼女の強情っぷりは帰宅してからも継続。着替えを手伝う事も拒まれ、食事中のサポートも拒否。慣れない左手で必死にスプーンを使ってシチューを頬張っていた。
脱衣場でも1人で試行錯誤を繰り返し無事に入浴。トイレに付いて行こうとしたら回し蹴りを喰らわせてきたのが痛かった。




