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13 結末と転落ー5

「はあぁ…」


 平日、学校の渡り廊下で1人淋しく休憩をとる。用もないのにウロついていた。


「もうすぐ卒業かぁ…」


 今、目にしている風景は少し経てば二度と拝めない。留年でもしない限りは。愛着があるわけでもないのに寂寥感が湧き出してくる。見るもの全てが懐かしく感じてきていた。


「……あ」


 校舎を観察している途中で三階に見知った人物を発見する。何やら慌てふためいた顔付きで廊下を走っている友人を。


「颯太…」


 彼にも現状を打ち明けていない。全てを話したら絶交されそうで怖かったから。


 普段どれだけ仲良くしている人物でも事情を知れば軽蔑して当然。自分達が行ってきた禁忌はそういう類いの物だった。


「赤井くん」


「ん?」


「こんな所にいたら風邪引くよ。ついこの間、体調崩したばっかりなんでしょ?」


 物思いにふけっていると背後から声をかけられる。メガネをかけた男子生徒に。


「あはは……少し頭を冷やしたくてさ」


「考え事?」


「ま、まぁ…」


「受験の事かな。僕で良かったら相談に乗るけど」


「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」


 流れで立ち話を開始。場所が場所だけに辺りには誰もいなかった。


「丸山くんって兄弟いる?」


「うぅん、いないよ。1人っ子」


「そっか…」


「ん?」


 温厚な性格の彼も自分と華恋の秘密を知ったら離れていくかもしれない。嫌悪感を剥き出しにして。


「む…」


 もう誰も信用出来ない。そんな気持ちが自虐的な思考を生み出していった。


「あのさ、今までずっと隠してた事があるんだよね」


「隠してた事?」


「実は妹と……華恋と付き合ってるんだよ」


「え?」


「変でしょ。実の妹を好きになっちゃうなんて」


「ど、どういう事…」


 なんの気構えも無しに暴露する。非現実で歪な繋がりを。


「従姉妹同士で交際してるの?」


「そうじゃなくて本当は双子の兄妹なんだ」


「え、え…」


 躊躇いを抱きながらも告白を続行。ほとんどの同級生に秘密にしていた事情を打ち明けた。


「ビックリした? いきなりこんな話を聞かされて」


「……まぁ、うん。驚いたかって聞かれたら驚いたかな」


「ドン引きでしょ。リアルなブラコンシスコン見せつけられて」


「いや、それよりも羨ましいって思ったよ」


「え?」


 返ってきた答えに戸惑う。内容が予想外だったので。


「僕さ、兄弟もいないし付き合ってる女子もいないし羨ましいっていうか」


「憧れって事?」


「かな? 自分に姉や妹がいないからかもだけど、やっぱりそういう人がいたら良いなぁとは思うよ」


「で、でも普通そういう関係で付き合うのって変じゃない? 自分で言うのもなんだけど異常だよ」


「う~ん……確かに平均的な人間の行動ではないかもしれないけど、それはあくまでも多数派の人から見た意見だから」


「多数派…」


 中庭に向けていた視線を隣に移動。友人と正面から向かい合った。


「例えば同級生が10歳とか20歳年齢が離れてる人と付き合ってたら驚くでしょ? けどそれが慣例化したら違和感は失われてしまうんだよ」


「いや、それは年齢差があるけど結婚出来るカップルの場合で僕達のとは違うし」


「でも日本では認められてない同姓カップルの婚約も海外では認められてたりする。何がダメで何が良いのかなんて曖昧なんだよ」


「……まぁルールなんて所詮、人の決めた物だからね」


 彼の言いたい事も分からなくもない。だがそれでこの不満を納得させるには理由が希薄で脆弱だった。


「とりあえず僕と華恋が付き合ってる事に関しては何も思わないの?」


「周りがとやかく言う話じゃないもん。お互いが満足してるならそれでも構わないんじゃないかな」


「満足か…」


 確かに幸せだった。特殊な繋がりではあったが普遍的な毎日が。


「けど親に反対されちゃってさぁ」


「え? 正直に打ち明けたの!?」


「……うん。打ち明けたっていうかバレちゃった」


「あらま…」


「もしかしたら別れて暮らさなくちゃならないかもしれない。華恋と」


 駆け落ちでもするしかないのだろうか。今まで育ててくれた大切な人達を捨てて。


「家族の人は何て?」


「自分達でしばらく考えろって。それでもし今までの行いを反省出来ないようなら強制的に別れさせるってさ」


「そうなんだ。なら事実婚として認めてもらったら?」


「何それ?」


「正式に籍は入れてないけど事実上この2人は婚約関係にありますよっていう法律……あれ、法律だっけか」


「そ、それって兄妹でも可能なの!?」


 唐突な言葉に強く食い付く。思わず腕に掴みかかった。


「確か。兄弟姉妹の場合は近親婚っていうんじゃなかったかな」


「なら妹と……華恋とこれからも一緒にいても問題はないって事!?」


「いててっ、爪が食い込んでるよ」


「あ、ごめん」


 手を離して距離を置く。無意識に力を込めてしまっていたらしい。


「別に結婚出来るって意味じゃないよ? ただあくまでもそういう関係にあると示されるだけで」


「でも家族間での恋愛をした人達が他にもいるって事だよね? そういう言葉があるって事は」


「まぁ歴史を遡ったら山ほど出てくると思うよ。推奨してた国もあったらしいし」


「近親婚か…」


 予想もしていなかった展開に大興奮。先程までのへこみようが嘘みたいなレベルで。


 事態は以前窮地のまま。何も進展なんかしていない。それなのに不思議と心の奥底から期待感が湧き出していた。


「ありがとうね、助かったよ」


「あ……うん」


「うっし!」


 華恋に早く伝えてあげたい。立ちはだかる壁を打破出来るかもしれない可能性の存在を。


 放課後は真っ直ぐ喫茶店へと出向いて労働。時間を気にしながらも真面目に働いた。

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