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13 結末と転落ー4

「今日はどうする? また店に来るの?」


 翌日も放課後はバイトがあった為、早めに教室を出る事に。そして前日と同じ問題に衝突した。


「……どうしよっかな。今日も夜までシフト入ってるんだよね?」


「まぁ。お客さんの入りが少なかったら早めに帰してもらえるかもしれないけど」


「う~ん…」


 さすがに2日続けて長時間も1人で過ごすのは退屈でしかない。友達と遊びに行く案を勧めたが彼女はその意見をあっさり一蹴。家族から距離を置かれてしまった事により疑心暗鬼へと陥っていた。


「……あ」


「久しぶり、雅人くんに華恋さん」


「どもども」


 考え事をしていると廊下でバッタリ顔見知りに遭遇する。年末年始を共に過ごした同級生に。


「2人で一緒に帰り? 相変わらず仲良いんですね」


「あぁ、うん。といっても僕はこれからバイトなんだけど」


「あ、そうなんだ。またあの喫茶店に行くわけだね」


「そうそう。これからまたお客さん相手に頭下げる労働をしてきます」


「大変だね。受験やら何やらで忙しいこの時期にさ」


 立ち止まって簡単な世間話を開始。生徒の通行の妨げにならないように端の方に移動した。


「あの……小田桐さん、これから暇?」


「へ? 特に予定は無いけれど」


「良かった。なら一緒に遊びに行ってやってくれない?」


「え……でも雅人くんはバイトなんじゃ」


「うん。だから僕じゃなくてこっちと」


 突発的な提案を掲げながら強く押す。隣に立っていた相方の背中を。


「え? え?」


「……華恋さんと」


「1人で時間を持て余してるみたいなんだよね。だから小田桐さんさえ良かったら一緒に付き合ってあげてくれないかなぁと思ってさ」


「ちょ、ちょっと…」


「本当にどこでも構わないから。なんなら商店街で買い食いとかしてくれても良いし」


「あは、あはは…」


「文句垂れたら迷わずビンタしちゃって良いよ。ワガママ言ってきたら後で教えて、お仕置きするんで」


「雅人!」


 腕を引っ張っられながらも話を続行。空気を読めていない事は承知の上での行動だった。


「……わかった、なら今日は華恋さんとデートしてこようかな」


「よ、よろしく……茜ちゃん」


「それじゃあ私達は行くね。雅人くんもバイト頑張って」


「お願いね~」


 校門を出た所で2人と別れる。軽く手を振りながら。


「大丈夫そうかな…」


 歩幅を合わせて歩く後ろ姿を見ながら独り言を呟いた。不安な心の中で微かに抱いた安堵感を。


 喫茶店に向かった後は意識を切り替えて働く。そしてシフトを終わらせた後は寄り道せずに真っ直ぐ帰宅した。




「どこ行って来たの。駅の方に歩いて行くのが見えたけど」


「……本屋。2人でしばらく立ち読みしてた」


「へ、へぇ……それはまた変わった時間の潰し方で」


「それからCDとかDVD見て廻ったり。当てもなくブラブラしてたかな」


「そかそか。楽しそうで何より」


 客間で放課後の様子について尋ねてみる。どうやら上手くやれていたらしい。


「……あの子って結構明るい性格してたんだね。うちに泊まりに来た時は口数少なかったから意外だった」


「冬休みの時は遠慮してたんだよ。無理言って人の家に上がり込ませてもらってたわけだから」


「なんかどんどんイメージ変わって行くなぁ。最初は憎ったらしかったのに」


「あはは、僕も最初は華恋の事が嫌いだったよ」


「む…」


「ご、ごめんなさい…」


 壁にもたれかかっていた彼女が視線を床に移動。落胆するように顔を足元にうずめてしまった。


「いや、でもそんなものなんだよ。第一印象は最悪でも好意的に変わっていく時もあるんだって」


「……なら逆は」


「逆?」


「うん。好かれてた人に嫌われちゃったとしたら」


「そういうパターンか…」


 まさに今の自分達が置かれている状況下。大好きだった人達から避けられている現実が目の前にあった。


 嫌いな人を好きになる事は容易では無い。そして絶対に無理という訳でもない。けれど信じてくれていた人達を裏切った場合、もう一度その信頼を取り戻す事は果たして可能なのだろうか。


「私ね、今日あの子といて思ったんだ…」


「何を?」


「この子だったら雅人と付き合ったりしても誰にも文句言われないんだなぁって」


「それは…」


「私もただの同級生が良かった。家族とか妹じゃなく、普通のクラスメートが」


「……ん」


 空気が変化する。数日前を彷彿とさせる暗い物に。


「茜ちゃんみたいになりたい。あの子と入れ替わりたいよぉ」


「華恋…」


「智沙とか紫緒ちゃんとか優奈でも構わない。自分以外の誰かになりたい…」


「誰か…」


「そうすればこんなに苦しまなくて済んだハズなのに」


「む…」


「なんで……なんで私だけがダメなの」


 彼女が自虐的な台詞を連発。慰めてあげようとしたが何を言えば良いのかが分からなかった。


「茜ちゃんがさ、冬休みに泊めてくれた事を感謝してたよ」


「……そっか」


「なんとなく気付いちゃった。この子、まだ雅人の事が好きなんだなぁって」


「どうかな…」


「あの時は楽しかったね。皆で初詣に行ったりしてさ」


「……うん」


 それはほんの数日しか経過してない思い出。まだ家族が家族の体を成していた頃の記憶だった。


 そして二度と戻れない気がする。誕生日やクリスマスを共に過ごし、文化祭にだって足を運んでくれたあの日の自分達に。

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