8 敵意と悪意ー1
「ねぇ、部屋から漫画持っていかなかった?」
「え?」
週末の夜、リビングで家族に話しかける。ソファに寝転がってテレビを見ていた妹に。
「も、持ってってないよ」
「あれ? おかしいな…」
「どうかしたの?」
「1冊だけ間が抜けてる」
両親は既に就寝済みで、華恋さんは入浴中。明日が日曜日という事でいつも以上にだらけた気分に浸っていた。
「どこかに置いたまま忘れちゃったとか?」
「自分の部屋でしか読まないから無くすハズがないんだよ。やっぱり香織が持っていったんじゃないの?」
「だから違うってば。私じゃないもん」
「なら部屋を探索してきて良い?」
「ダメーーッ!! だめだめ駄目ぇ!!」
「うわっ!?」
彼女が喚きながら飛びかかってくる。持っていた雑誌を投げ捨てて。
「どうしたんですか?」
「あ…」
言い争いを繰り広げているとバスルームからパジャマ姿の女の子が登場。風呂上がりの華恋さんが声をかけてきた。
「聞いてくださいよ、華恋さん。まーくんが濡れ衣を着せてくるんですよぉ」
「濡れ衣って…」
「私が部屋の漫画持っていったって。そんな事してないのに」
方向転換した香織が彼女に泣きつく。最近は困った事があるといつもこう。同居人を自分の味方に引き込んでいた。
「あはは、それは大変ですねぇ」
「華恋さんからも何か言ってくださいよ~」
「大丈夫ですよ、雅人さんも本気で疑ったりなんかしてませんから。ね? 雅人さん」
「え? ま、まぁね」
同意を求められ反射的に頷いてしまう。目を逸らしながら。
「……はぁ」
このままここにいるのは居心地が悪い。溜め息をついて廊下へと移動した。
「あれ? 戻っちゃうの?」
「ん。漫画探してくる」
「私の部屋に入らないでよ~」
「はいはい、承知しましたぁ」
最近この2人は本当に仲が良い。疎外感を感じてしまう程に。年下に懐かれる状況に華恋さんもまんざらでもない様子。いつの間にか女2人のチームが作られていた。
「ん、んん?」
自室に戻って本棚を確認する。だがやはり1冊だけ足りない。
「絶対持っていったって、これ…」
盗人みたいな真似しなくても言えば貸してあげるのに。なぜ無断で部屋に忍び込んだりするのか。
不信感を抱きながら続けて体を壁に密着。そのまま本棚の裏の隙間を覗き見た。
「……こっちは大丈夫かな」
もし発見されてたとしたら色々とマズい。やはりドアに付ける鍵を増やすべきか。今のロックはコツさえ掴めば外側からでも解除が可能だから。
しかしそんな事をしたら怪しまれるのは確実。部屋に隠し事があると暴露しているも同然だった。




