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12 錯覚と発覚ー1

「ゴッホ、ゴホゴホッ!」


 天井を仰ぎながら大きくむせる。何度も咳を繰り返して酷使した喉から空気を吐き出す為に。


「大丈夫?」


「うん……何とか」


 問い掛けに対してかすれた声で返事をした。心配そうに上から顔を覗かせている華恋に向かって。彼女を不安にさせないよう強気に答えたが本当は辛かった。


「はぁ…」


 現在この家には自分達2人しかいない。両親は香織を連れて実家へと帰省中。普段は会えない親の顔を見る為に年末年始の休みを使って遠出をしていた。


「熱は? 体温計ってみる?」


「さっき計ったからいいや。それに昨日よりはマシになってきてるし」


「調子乗ってアイスをバクバク食べるもんで。だから風邪引くのよ、まったく」


「……面目ないです」


 家族で里帰りする当日の朝に風邪を発症。さすがに長旅に耐えられる元気は無かったので自宅療養する事に。


 話し合った結果、両親には予定通り実家へと帰ってもらう事で決定。そして看病の為に華恋が残ってくれていた。


「ゲホッ、ゲホッ!」


 年明けには小田桐さんも家へと帰還。いつまでも世話になるのは忍びないからという理由で。


 当然、働けないからバイトは欠勤。周りの人達に迷惑をかけてしまっている状況が申し訳なくて辛かった。


「おかゆとおじやだったらどっちが良い?」


「おじやで。おかゆだと後でお腹空いちゃうんだよね」


「ほいほ~い。なら残ったおかゆは私が食べちゃって、後で作ってこようかしらね」


「そうしてくれると助かる。悪いね、いろいろ迷惑かけちゃって」


「良いのよ、だって家族なんだし。それに珍しく家で雅人と2人っきりになれたんだから」


「あ、あの…」


 華恋が意味深な目で見つめてくる。冗談なのか本気なのか分かりにくい発言も付け加えて。


 昨日、1日中寝ていたおかげか症状のピークは通過。高かった熱も下がり、頭痛もあまり感じられなかった。


「ねぇ。一昨年、私が風邪引いた時の事って覚えてる?」


「ん? 覚えてるよ。確か華恋がバイト始めたばかりの頃だったよね」


「そうそう。んで雅人が学校を早退して看病しに帰って来てくれてさ」


「後にも先にも授業をサボったのはあの時1回だけだ」


「何度思い返しても胸熱。病に倒れた私を颯爽と助けに現れたんだったわよね~」


「よく考えたらあの時の華恋、へっちゃらそうだったから帰って来なくても良かったんじゃないかと思うんだ」


「……あぁん?」


 ジョークに対して鋭い視線が飛んでくる。邪気を含んだ強烈な睨みが。


 怯えていたが手を出される事なく終了。さすがに病人に乱暴する非常識人ではなかった。


「しっかしあの頃は横暴だったよね。ワガママし放題っていうか」


「う、うっさいなぁ。あの時はまだアンタの事が嫌いだったんだから仕方ないでしょうが」


「だからってあの態度はないでしょ。他の人と露骨に差別してくれちゃって」


「……だっていきなり知らない男と同じ家で過ごす事になったんだもん。警戒もするっての」


「しかもセクハラまがいの不手際まであったし。嫌われて当然かぁ」


 まだ1年半しか経っていない記憶なのに懐かしく感じる。笑い話として語り合えるくだらない思い出が。


「でも風邪引いた時に献身的に看病してくれたし、いろいろな事を手助けされてるうちに何か良い奴に思えてきちゃってさ」


「い、いやぁ…」


「いつの間にか雅人の事ばっかり考えるようになってて。んで後とか付け回したりとか」


「へ?」


「こんな話してる時だから告白するけど、実は雅人の写真を隠し撮りして待ち受けにしてたんだよね」


「はぁ!?」


 衝撃の事実が発覚。自分は同居人にストーカーされていた。


「ま、まぁ若気の至りってヤツ? あの頃は私も血気盛んだったから」


「それは知らなかった…」


「だってバレたら恥ずかしいじゃん。だから内緒で撮影してやったの」


「はいはい…」


 怖い気はするが嫌な気分にはならない。それは互いに信頼を置けるパートナーになっているから。

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