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2 渇きと潤いー1

「……うぐぐっ」


 布団から手を伸ばして時計に手をかける。ゾンビのようにベッドの上を這いずって。


「もう朝か…」


 アラームを止めると自身が置かれた状況を認識。カーテンの隙間から射し込む朝日を顔に浴びた。


「……ふぁ~あ」


 寝返りと共に口から大きな欠伸を放出。ついでに指先で頬を擦りながら。


 夢から覚めたハズなのに違和感が満載。まるで現実から引き離されたような感覚が意識の中に漂っていた。


「う~ん…」


 恐らく寝不足が原因なのだろう。学校からの帰宅後に睡魔に襲われたので1時間ほど仮眠。結果、夜になかなか寝付けず全身にダルさを付加させていた。


「よっ……と」


 このままでは二度寝してしまいそうなので重い体を起こす事に。腕を伸ばして窓からの光を遮断していたカーテンをスライドさせた。


「……眩しっ」


 ガラス越しに射し込んでくる光に目が眩んでしまう。しかし慣れるまでに要する時間は僅か数秒。ついでに窓を開けて部屋の空気を入れ替えた。


「う~、やだなぁ…」


 机と向かい合うとケータイを手に取り、届いていたメッセージを確認する。適当な内容を打ち込み送信。そのまま壁に近付きハンガーを掴んだ。夏仕様に変わったばかりの高校の制服を。


「はぁ…」


 朝の登校なんて億劫でしかない。眠いし面倒くさいしでデメリットの連続。


 それでもサボりろうとは思わなかった。親や教師に叱られる方が遥かに厄介だと理解していたから。


「ん?」


 冷たい衣類が良い眠気覚ましになる。着替え終わると部屋を出て廊下に移動。


「う、うわあぁあぁぁっ!!」


 そのまま階段までやって来るがアクシデントに見舞われた。足を踏み外して転落するという事故に。


「ぐえっ!?」


 背中に言いようのない痛みが走る。そしてトイレ横の壁に激突するまで地獄は続いた。


「……いったぁ」


 床に手を突きフラフラと立ち上がる。軽く足首を捻りはしたが幸いな事に怪我は無し。


 強打した腰を手で押さえながらもどうにかしてリビングへとやって来た。家族が集う場へと。


 そこにいたのは世間一般的に両親と呼ばれる生き物。椅子に座ってケータイを弄っている父親と、キッチンにいる母親に挨拶をした。


「お、おはよう」


「おう。凄い音したけど大丈夫か?」


「うちの階段、急すぎない? いつも滑り落ちちゃうんだけど」


「確かにな。やはり危険だからハシゴの方が良かったかもしれない」


「言ってる意味理解してる?」


 父親の向かいの席に座る。日常会話を交わしながら。


「仕事って忙しい?」


「あぁ。サボりたいぐらいだ」


「分かる分かる。学校や会社に通わなくて済む人生があったら楽そうだよね」


「いや、父さんはもう一度学生に戻って女の子にラブレターを出しまくりたいぞ」


「……何を言ってるの?」


 画面を激しく操作している父親が大笑い。見た目は真面目そうだが厳格という言葉からは程遠い性格をしていた。


「あぁ……眠たい」


 うちの両親は2人揃って医療関係の職に付いている。土日にも一部診療している珍しい病院。要領の悪い息子と違ってエリートだった。


 だけど順風満帆な家庭かと言われたらそうでもない。その原因は3年前に再婚した夫婦という関係性。しかも理由は不明だが親戚から猛反対された上での婚姻だった。


 2人とも宿直勤務したり、寮に泊まる事も多いから帰って来ない日も珍しくはない。自分が起きるより前に家を出て行く場合もある。なのでこうして朝から揃って食事をとる事は一般家庭の平均に比べて少なかった。


雅人(まさと)香織(かおり)起こしてきて」


「え?」


 テーブルにもたれかかっていると名前を呼ばれる。血の繋がっていない母親に。


「誰それ?」


「なに寝ぼけた事言ってんのよ。私の可愛い娘でアンタの愛しい愛しい妹でしょうが」


「そんな奴いたかな…」


「いいから早く。母さん、手が離せないんだから」


 その内容は再び二階に向かえという物。ここにはいないもう1人の家族を起こしに行けという命令だった。


「やだよ、そのうち起きて来るでしょ。それに腰が痛くて動きたくないし」


「あの子、目覚まし鳴っててもなかなか気付かないから。だからアンタが起こしに行ってきて」


「どうしていつもいつも…」


 文句を垂らしながら立ち上がる。今しがた歩いて来たばかりの廊下を目指して。


「あ~あ…」


 両親が再婚した際、もう1人だけ家族が増えた。1つ年下の女の子が。


 世間一般的に妹と呼ばれる生き物。ただし特に可愛くもなく、美人でもない顔の持ち主。おさげ髪で田舎にいる中学生のような風貌だった。

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