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10 雪の日と別れの日ー8

「どうして…」


「僕が呼んだんだよ」


「先輩が?」


「前に言ってたんだ。家族で過ごせる最後のクリスマスだって」


 彼はこちらに気付いていない。待ち合わせ場所を少しズレた所に指定していたので。


「寂しがってたよ。遠くに行って会えなくなる事を」


「……アイツ」


「抵抗あるかもしれないけど付き合ってあげてよ。兄妹喧嘩だってもうする事が出来なくなっちゃうんだからさ」


「ん…」


 1年前の自分もそうだった。何度も言い争いをしていた妹との別れ。いなくなってから初めて気付いた。毎日側にいた人と会えなくなる生活がどれだけ辛い物なのかを。


「はぁ……せっかくのイブなのにどうして兄妹で過ごさなくちゃいけないかなぁ」


「そ、それ言われると辛いんですが。たまにはそんなのも悪くないと思います、はい」


「先輩達はお互い了承の上だから良いじゃないですか。私達の場合と違います」


「……すんません」


「あ~あ、仕方ないから付き合ってあげようかな。本当は面倒くさいんだけど」


 彼女があからさまな悪態をつく。気のせいでなければ微かに表情を緩ませながら。


 吐く息が白い。積もっている雪と違い、一瞬で消えてしまう儚さだった。


「先輩……ありがとうございました」


「お礼を言うのはこっちの方だよ。今までありがとうね」


「先輩にはいろいろお世話になりました。お兄ちゃんとの事やバイト先の事、それに知り合ってから今日までの毎日を」


「そ、それは少し大袈裟だって」


「楽しかったです。先輩とするお喋りも、妹さんとする喧嘩も」


「ははは」


 それは決して嫌味なんかではない。いつの間にか仲良くなっていたライバルへの賛辞だった。


「絶対に忘れません。こんな愉快な高校生活」


「僕もだよ。凄く楽しかった」


「向こうに行っても頑張れそうな気がします。辛い事があっても、心の中の思い出がきっと未来の私を励ましてくれますから」


「うん」


「さようなら……先輩」


 最後に頭を下げ合う。初めてとなる握手も付け加えて。


 その後、目の前の人物は即席の待ち合わせ相手の元に移動。人混みの中へ消えていく2人分の後ろ姿を静かに見送った。


「……行っちゃった」


 彼女が最後に望んだのは絆。遠く離れていても恋人なら連絡を取り合える。いつか果たせる再会を約束して。けれど自分はその意思さえ拒絶。救いを求めてきた手を突き放してしまった。




「ただいま…」


 物思いにふけりながら再び自宅へと帰ってくる。孤独感が漂う心を押し殺しながら。


「あれ? もう帰ってきた」


「おかえり、雅人。早かったじゃない」


 いつもより重く感じる扉を開けて奥へと進入。リビングで楽しそうにハシャいでいる家族に出迎えられた。


「まーくんは友達と出かけたっていうからケーキ4等分しちゃったのに。まさか帰って来るなんて」


「えぇ…」


「ウソウソ。ちゃんと残してあるよ」


「アンタ、晩御飯は? 何か口の中に入れたの?」


「いや、何も」


「なら手洗ってきて座りなさい。料理冷める前に食べちゃって」


 母親に促されて加わる。豪勢な料理が並べられたパーティーに。


「ただいま」


「あ……お、おかえりなさい」


「マフラー、サンキューね。寒かったから助かったよ」


「それは良かった…」


 隣にいた華恋と視線が衝突。声をかけると戸惑う反応が返ってきた。


 プレゼント交換は既に済んでいたらしい。先ほど自分が購入した衣服も彼女が渡してくれていた。


「どうしてこんなに早く帰って来たの? デートするハズだった女の子に振られたとか?」


「違うって。相手が都合悪くなっただけだよ」


「まーくんにも早く春が訪れるといいね。今は冬だけど」


「うるさい、爆発ゆでたまご。人の事ばかり言ってないで自分も彼氏作りなよ」


「うぐっ!?」


 強がりは淋しさから現れる気持ちだろうか。心の中には大量の虚無感が発生。


 気分をごまかすように食事にありつく。そしてタイミングを見計らって隣に座っている華恋に話しかけた。


「優奈ちゃんがさ、ありがとうって」


「……あの子が?」


「華恋に感謝してたよ。言い争いした事もひっくるめて」


「そっか…」


 彼女にとっても大切な相手だったハズ。学年も学校も違う少し変わった友達として。


 はにかんだその表情の中には嬉々が存在。前日の嫌悪感を感じさせない笑顔だった。


「お父さん、ゲームやりながら食べない!」


「す、すまん…」


「そろそろ壊すわよ?」


「や、やめてくれぇ!」


「わはははは!」


 皆で声を出して笑う。楽しさを伝染させるように。


 淋しさと共に大きな幸せを実感。一生忘れる事のない経験をしたクリスマスイブだった。

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