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10 雪の日と別れの日ー7

「ハァッ、ハァッ…」


 信号で立ち止まる度に深呼吸を繰り返す。体力を少しでも回復しようと。


「……そうだ!」


 そしてその途中で1通のメッセージを送信。ある考えが浮かんだので1人の人物に連絡を取った。


「ふぅ…」


 駅へとやって来ると改札をくぐる。数分の待ち時間の後に現れた電車へと乗車。中は暖房が効いていたが、汗だくの人間にとってはムシムシする環境だった。


「え~と…」


 目的地にやって来た後は人の流れに乗ってホームに降りる。人でごった返した空間へと。テレビや雑誌でデートスポットと紹介される街だけあってカップルが多い。地元の静かな喧騒が嘘のような賑わいだった。


「……いた」


 辺りを見回すと捜していた人物に近いシルエットを見つける。大人だらけの街に不釣り合いの小さな女の子を。


「優奈ちゃん!」


「あ…」


 人混みを掻き分けてその人物の元に移動。名前を呼びながら駆け寄った。


「良かった。見つかった…」


「ちゃんと来てくれたんですね。嬉しい」


「もしかしたら帰ってるかもと思ってさ。残っててくれて助かったよ」


「前に言ったじゃないですか。先輩が来なくてもずっと待ってるって」


「いやいや、そんな事したら風邪引いちゃうし」


「へへ…」


 彼女の不安そうな顔が少しずつ綻んでいくのが分かる。まるで絶望の淵に立たされていた人間が光明を見つけたかのように。


「本当は来るハズじゃなかったんだけど、言いたい事があって来たんだよ」


「……なんでしょう」


「ごめん、やっぱり一緒にタワーは行けない」


「え?」


 呼吸を整えながら言葉を発信。周りではクリスマスに相応しいアップテンポな音楽が流れ続けていた。


「誘ってくれたのは嬉しいんだけど、やっぱり僕には華恋がいるから」


「ん…」


「もし華恋が自分以外の男とデートしてたりしたら嫌だし、例えそれがただの友達だったとしても嫉妬しちゃうと思う」


「そうですか…」


「だから悪いんだけどタワーには一緒に行けないんだ」


 明るい空気が次第に淀んでいく。自分は淡い希望を作り出し、そしてそれを壊してしまった。


「……やっぱり最後までダメでしたね。一発大逆転とはいきませんでした」


「華恋にちゃんと別れの挨拶をしてこいって言われたんだ。ケジメだからって」


「妹さんが…」


「あとこれ、クリスマスプレゼント。僕と……華恋からの」


「はい?」


「受け取ってくれるかな。さっき買ったばかりなんだけど」


 持っていた袋からマフラーを取り出す。デザインが派手な防寒具を。


「……綺麗な色ですね。凄く赤い」


「それ華恋が選んだんだよ。性格通り、濃い原色とか大好きだからさ」


「ありがとうございます。妹さんにもお礼言っておいてください」


「うん、分かった」


 どうやら拒否はされないらしい。返事と共に大きな安堵感を噛み締めた。


「三割引…」


「げっ!」


 油断していると手に持つマフラーを見ながら彼女がポツリと呟く。端から垂れ下がっている白いタグに書かれた文字を。


「ね、値札外すの忘れてた!」


「やっぱり年末はどこもセールやるんですね。年が変わる前に在庫処分したいから」


「は、ははは…」


「先輩も相変わらずオッチョコチョイだし。まぁそれでこそ先輩なんですけど」


「……ごめんなさい」


 目を合わせられない。格好つけたつもりが情けない立場に追いやられてしまった。


「最後にこんな素敵なプレゼントを貰っちゃって罰が当たるかも」


「どうしてさ。普段頑張ってるご褒美だよ、それは」


「一番欲しい物は手に入らなかったけど思い出だけは貰えました」


「今までありがとうね。向こうに行っても元気で」


「はい…」


 2人して言葉に詰まる。気まずいからではなく心地いい意識を反芻したくて。


「……あの人には悪い事をしてしまいました。せっかく力になると言ったのに」


「そんな事ないって。彼女、感謝してたよ。初めて自分の全てを受け入れてくれる友達が出来たって」


「そうですか。なら良かった…」


「小田桐さんの事はこっちに任せておいて。優奈ちゃんがいなくても僕達が支えてあげるから」


「はい。お願いします」


 握り拳を胸元に移動。自信を示すように叩いて見せた。


「……結局、最後までタワーに行けませんでしたね」


「今から行けば良いよ。人で混雑はしてると思うけど」


「私に1人でカップルの巣窟に突撃しろと言いたいんですか? それはいくらなんでも酷すぎますよ、先輩」


「いや、あの人と」


「え?」


 彼女と共に体の向きを変える。少し離れた場所を指差しながら。


「お兄ちゃん…」


 そこには黒いコートに身を包んだ男性が存在。大声を出せば聞こえる距離で誰かを捜すように辺りを見回していた。

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