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10 雪の日と別れの日ー2

「先輩、この前の話は考えてくれましたか?」


「え、え~と……どうだろうね」


「私は既に休みを貰いました。予定も空けてあります」


「は、早い…」


「ずっと約束してたタワーに行きましょうね。展望台から見える夜景が凄く綺麗らしいですよ」


「そうなんだ…」


 放課後のバイトで後輩が話しかけてくる。ノリノリなテンションで。


 乗り気でない自分とは対照的に彼女は意欲的。頭の中では2人で出掛けるビジョンが形成されつつあった。


「あっ、あと遊園地の時みたいに大勢の人を誘うのはやめてくださいね。2人っきりでお願いします」


「……先に釘を刺されてしまったか」


「待ち合わせ場所に恵美や妹さんがいてビックリしましたもん。事前に簡単な説明を受けていたとはいえ、先輩に殺意が湧きました」


「なっ!?」


「まぁ半分冗談ですけど」


「いやいや…」


 半分は本気という暴力的な心境が判明。凶器を持って追いかけてくるその姿を想像しただけで恐ろしい。


 クリスマスまでは3週間近くある。華恋をダシに使っても彼女は諦めてはくれないだろう。だから別の理由を考えなくてはならなかった。


 そして周りにバレないように誤魔化す必要も存在。華恋はもちろん紫緒さんや鬼頭くんにも気付かれないようにする必要があった。




「そういえばもうすぐクリスマスね。アンタ達、何か欲しい物ある?」


 バイトからの帰宅後、自宅のリビングで鍋をつつく。5人全員が揃った状態で。


「私、服~。新しいコートが欲しい」


「はいはい、香織は衣類ね。雅人と華恋ちゃんは?」


「僕は特には無いかな。欲しい物はバイト代で買ってるし」


「私も……これといって無いです。今の生活で充分満足していますので」


「……はぁ」


 母親の質問に対して適当な台詞で返答。直後に大きな溜め息が返ってきた。


「アンタ達、本当に物欲が無いんだから。気なんか使わないでもう少し甘えてくれたら嬉しいのに」


「優秀な子供でしょ。純粋で素直な若者に育って良かったね」


「養ってる身としてはもう少しぐらいワガママを言ってほしいんだけどね。あまりにも何も欲しがらないとかえって悲しいんだけど」


「とりあえずケーキが欲しいかな。あとはチキンとか」


「食べ物ね、はいはい」


 本当は欲しい物ならたくさんある。漫画だったりゲームだったり。ただわざわざクリスマスプレゼントとして買ってもらう程の品でもないのでリクエストしなかった。


「まーくん達がおねだりしないから私が子供みたいな感じになってるじゃん。2人も何かお願いしなよ。服とか服とか服とか」


「そんなにいっぱい買ってどうするのさ。どうせ同じのを毎年着回すんだから3着ぐらいあれば充分じゃないか」


「ちっちっちっ、分かってないなぁ。人間は日々成長してるんだからその年齢に合わせて似合う物をチョイスしないと」


「体も頭も全然成長してないのに?」


「うぐぁっ!?」


 遠慮せずにツッこむ。隣から垂れ流される義妹の不満に。


 そもそもオシャレしたからといってデートする相手がいない。華恋以上に二次元の世界にハマってしまった香織はただの痛い人間になってしまっていた。


「しっかしアンタ達も高校生だっていうのに浮いた話一つ聞かないわね」


「うっ…」


「誰かいないの? クリスマスを一緒に過ごしてくれる人とか」


「えっと…」


 母親の発した言葉に場が凍り付く。目の前にある熱々の鍋とは対照的に。


「み、みんな忙しいみたいなんだよね。バイトだったり勉強だったりで」


「アンタ、彼女の1人でも出来ないの? バイト先にだって女の子ぐらいいるんでしょ?」


「いるけど学校とか違うし学年も違うからお互いに距離があるっていうか…」


「そういう考えだからいつまで経っても彼女が出来ないのよ。臆病になってないでもっと積極的にアタックしていきなさい」


「……気が向いたらね」


 そうは言われてもアタックする事なんか出来ない。既にバイト先の同僚には誘われているし、隣に付き合っている相手も座っているから。


「ん、んっ…」


 横目で華恋の顔を覗き見。黙々と箸を動かしているが内心メチャクチャ動揺しているのが確かめなくても分かった。


「父さんは何やってるの?」


「クリスマス限定イベント。ポイント溜めて女の子達に告白するんだ」


「またゲームやってるの? しかも恋愛系のやつ」


 ごまかすように1人会話には参加していない人物に話しかける。端末をテーブルの上に置いて生き生きと画面を弄っている父親に。


「またとはなんだ、またとは。父さんにとっては命より大切なアプリなんだぞ」


「頼むから食事中はやめようよ。子の見本となる親がケータイを触りながら食事とか行儀が悪すぎるって」


「む……そうだな。ならミニスカサンタCGは食べ終わってから堪能するとしようかな」


「スケベ…」


 訳が分からない。なぜ家族の前で堂々とゲームの世界の女の子にニヤニヤ出来るのかが。


「うん…」


 この普遍的な日常が自分にとっては一番の幸せ。今年のイブもこうして家族で過ごせたらそれで満足。先程の華恋の言葉ではないけれど他には何もいらなかった。


 優しい後輩には悪いけど断ろう。心の中で1つの決意を固めた。

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