7 同居人と転校生ー5
「じゃあ申し訳ないですけど、お先に行かせてもらいますね」
「ここならリビングには聞こえないから別に普通でいいよ」
「え? 何の事ですか? それじゃあ失礼しますね」
そして翌日の朝、打ち合わせ通りに華恋さんが一足先に家を出る事に。玄関まで足を運んで彼女をお見送り。
「……睨み付けなくてもいいのに」
閉められた扉を見て小さく囁く。体の向きを変えると廊下を引き返した。
「華恋さん、もう行っちゃったの?」
「出てったよ。香織もテレビ見てないで早く食べなね」
「ほ~い」
食後は部屋で制服に着替える。既に出発した母親の代わりに家の戸締まりもチェック。前日より1名少ない状態で自宅を出発した。
「どうして華恋さん、先に行っちゃったんだっけ?」
「職員室に寄らなくちゃいけない用事が出来たんだってさ」
「へぇ、やっぱり転校生って大変なんだぁ」
「いろいろと面倒くさそうだよね。転校だけはしたくないや」
ありもしない用事を作り適当に嘘をつく。競歩に近いペースで歩くと駅へと到着した。
「ちーーちゃぁぁぁん!」
「かおちゃぁぁーぁん!」
ロータリーにやって来た瞬間に叫び声が響き渡る。女子高生2人の激しい雄叫びが。
「うるさいよ…」
「良いじゃん、別に。朝の挨拶なんだし」
「一緒にいる人間の身にもなってくれ」
「嫌なら1人で通えば? ね~?」
「ね~」
「酷すぎ…」
「ギャハハッ!」
彼女達は仲が良い。血の繋がった姉妹でもあるかのように。
友人と合流すると改札をくぐってホームへと移動。電車に乗り込んで3人で学校を目指した。
「ん? 立ち止まってどうしたの?」
「いや、何でもないけど」
教室へとやって来ると同居人の姿を発見する。颯太と親しげにお喋りしている転校生を。
「ははぁ~ん。さては大親友に先を越されたから焦ってんだな」
「むしろこのまま奪い取っていってほしいぐらいだよ」
「は?」
そして隣からは意味不明な発言が飛んできた。勘違い満載の意見が。
「まぁまぁ、焦んなって。雅人には雅人にピッタリの女の子が現れるわよ」
「例えばどういう子が?」
「え? う、う~ん……パッとは出てこないなぁ」
「どうせなら可愛いくて優しい子が良いなぁ。健気で純粋な子とか最高」
「ん? 呼んだ?」
「いや、呼んでないよ」
中へは入らず入口付近で智沙と立ち話を開始する。微妙にクラスメート達の邪魔になっていた。
「ご、ごめん……そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、アタシは雅人をそういう目で見れないから」
「こっちも無理だよ」
「だから悪いんだけど諦めて頂戴。アタシ達、友達のままの方が良いと思うの」
「激しく同感だね」
「ありがとう。そしてごめんなさい。期待に応えてあげられないのが心苦しいわ」
「ちょっと病院行ってきたらどう?」
「オラァっ!!」
「うごふっ!?」
会話の直後に太股に衝撃が走る。友人のローキックが炸裂したせいで。
「いぢぢ…」
昨日あれだけ騒がしかった教室も今日は静か。一部の男子生徒を除いてクラスメート達はいつも通りに戻っていた。
「ふぅ…」
これで華恋さんの機嫌も悪くならないハズ。また八つ当たりされてはたまらなかった。




