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9 対峙と対決ー5

「えぇ…」


 小田桐さんがトイレに行っている間にスマホを取り出す。届いていた後輩からのメッセージ確認しようと。それはあまり芳しくない内容だった。


「どうしよう…」


 送信時間を見ると1時間近く前と判明。バイトの休憩時間中に送ってきたとするなら今から返信しても彼女は見る事が出来ない。


「仕方ないか…」


 要求を跳ね除けたいところだか断ってもまた似たような状況に陥るだけ。覚悟を決めて作戦に従う事にした。



「次はどこに行こう? 雅人くんが決めてくれて良いよ」


「え~と、なら本屋で立ち読みとか」


「立ち読みって……それ私は楽しいんですか?」


「た、楽しくないですね。1人で満足しちゃいそうです」


「ふふふ、でも嬉しいなぁ。ちゃんと映画が終わっても私に付き合ってくれるみたいだから」


「へっへへ…」


 小田桐さんと2人でブラつく。人が多い繁華街を。


 喉が乾いたらジュースを買ったり、疲れたらベンチに腰掛けたり。空腹を感じた頃にはファーストフード店に入ってハンバーガーを食べた。


「あぁ、楽しかった。クイズゲームって意外に面白いんだね」


「良い暇つぶしになりますよ。全国の人達と対戦出来ますし」


「なんか新境地開拓って感じ。今までこういうゲームってやった事なかったから新発見だった」


「それは……良かったです」


 騒がしい施設を出てのんびりと進む。日が沈んですっかり暗くなった道路を。


「あ、あのっ!」


「ん? 晩御飯の件かな?」


「いや、そうじゃなくて一緒に付いてきてほしい所があるんですけど」


「え~、どこだろ。素敵なお店とか?」


「ど、どうでしょうね…」


「ここからそんなに遠くないんだよね? どこに案内してくれるのか分からないけど行こう行こう」


「うぃっす」


 時間を確認すると行動開始。相方を引き連れて指定された場所を目指した。


「ここ?」


「はい。この駅で降ります」


「ここって私達の学校がある駅じゃ…」


 ICカードを使って素早く通る。普段から見慣れている改札を。


「先輩」


「あれ? バイトもう終わったの?」


「はい。店長に頼んで早めに上がらせてもらいました」


「それは……お疲れ様」


 続けてロータリーに出た瞬間に1人の人物が接近。待ち合わせ相手が自転車と共に立っていた。


「お知り合いですか?」


「え、え~と……バイト先の同僚の子」


「初めまして。デート中に割り込んですみません」


「あ、いえいえ。わざわざ丁寧な挨拶ありがとうございます」


「先輩の愛人2号です。よろしくお願いします」


「はい?」


 事情を知らない小田桐さんが後ろから話に割り込んでくる。控え目な態度で。


「あ、えっと……この子ちょっと変わっててね。今のもジョークなんだよ」


「は、はぁ…」


「実は鬼頭くんの妹なんだ。鬼頭くんは知ってるよね?」


「一応。1年生の時にクラスメートだったし、お話した事もありますし…」


 互いに互いを紹介をする事に。唐突なボケを全力でごまかした。


「私がここにいたのはアナタ達2人を待っていたからです。決して偶然会った訳ではないのであしからず」


「え……どういう事」


「私が先輩にお願いしてアナタをここまで連れてきてもらいました。先輩に責任はないので責めないであげてください」


「雅人くんが?」


 こちらに向いた小田桐さんと目が合う。怪訝な表情を浮かべているデート相手と。


「ご、ごめんなさい…」


「……どういう事かしら。しっかりと説明してもらえる?」


「それは私の口からお話します。アナタにお伝えしたい事があったので」


「あまり耳に入れたくはない内容な気がするけれど、逃げ出す訳にもいかないから聞かせてもらおうかしらね」


「はい。この場所は寒いけど我慢してくださいね」


 先程までのくだけた雰囲気が一瞬で様変わり。ピリピリした空気の中で龍と虎が睨み合いを始めた。


「要件から先に言いますと、私がここに来たのは先輩の妹さん……華恋さんに頼まれたからです。先輩とアナタを別れさせてくれと」


「あの人が?」


「なんでも自分の兄を無理やり奪われたから取り返してほしいとかで。他人の私に相談してくるぐらいだから相当追い詰められてるんだと理解出来ました」


「奪った訳ではないです。ただ異常な恋愛をしていた雅人くん達を元通りにしようとしただけ」


「その点に関しては私もアナタに同感です。血の繋がった者同士が恋愛感情を抱く等、言語道断です」


「ちょ…」


 一瞬にして四面楚歌に陥る。どちら側からも批難される展開へと。


「……ならどうしてアナタは私を呼び出したのですか? 兄妹間での恋愛に反対してるなら妹さんの味方につく理由はない筈なのでは?」


「仰るとおりです。私は別に先輩の妹さんを応援してる訳ではないので。だから先輩達には一刻も早く別れてほしいと願っています」


「じゃあ私と同じ意見な訳ね。安心したわ。こちら側に付いてくれて」


「いえ、別にアナタの味方になるつもりもありません」


「え?」


 小田桐さんの表情が和らいだ物に変化。直後に眉間にシワを寄せて険しくなってしまった。


「今すぐ先輩をしがらみから解放してあげてください。先輩はアナタの命令にとても迷惑しています」


「はぁ? 突然なんですか?」


「好きな人を自分の方に向けさせる為に脅すなんて良くありません。それだとかえって嫌われてしまうだけです。ましてや恋人を人質にとるような真似なんて…」


「人質とは物騒な言い方ね。私はただ2人を元通りにしてあげたかっただけよ。間違った事をしてる人達を抑止して何が悪いの?」


「その件に関してはあまり強く責め立てるつもりはありません。でもその話と先輩を脅迫して無理やり付き合わせるようにした事とは無関係ですよね?」


「そ、それは…」


「ただ単に奪い取りたかっただけなんじゃないですか? アナタが気に入らないのは家族間の恋愛ではなく先輩の妹さんなのでは?」


 周りを行き交う通行人がチラチラとこちらを見てくる。様子を探るように。


「うぐっ…」


 男をめぐって女2人が痴話喧嘩をしているとでも思っているのだろう。実際その通りだから恥ずかしくて仕方なかった。


「違います。私はただ雅人くんを正常に戻して…」


「それは言い訳です。アナタが先輩と恋人同士になったからって先輩の極度のシスコンが治るとでも?」


「……だったらどうすれば良いんですか。他の女に気を移させる意外にどんな方法があるっていうんですか」


「それ、私がやります。私が先輩と付き合って妹さんの事を忘れさせてみせますから」


「は!?」


 話し合いが有り得ない方向に脱線。それは作戦なんて真っ当なものではなく、ただの漁夫の利だった。


「なのでアナタは安心して先輩と別れてください。あとは私が引き受けますので」


「ちょ、ちょっとアナタねっ!」


「はい? どうしました?」


「そんな提案を突き付けられて素直に受け入れる訳ないでしょうが!」


 場に荒々しい声が響き渡る。罵声に近い声が。


「え……でも私、間違えた事は言ってませんよね? 私は先輩が好きでその先輩と付き合う。それに何か問題でも?」


「だ、だってそれだと雅人くんの気持ちが…」


「なんですか? もっと大きな声で喋ってください。聞き取れません」


「だから、その…」


「先輩の気持ちがなんですって? まさか先輩の気持ちを無視してる、なんて言いませんよね?」


「ぐっ…」


 上下関係がハッキリと確立。隣に立つ同級生は数日前の華恋と似たような状況に追い詰められていた。


「……雅人くん」


「あ、はい?」


「アナタはこの人の事が好きなのですか?」


「え?」


「答えてください。この目の前にいる女性を愛しているのかを」


「優奈ちゃんを…」


 唐突に争いの渦中に引きずり込まれる。名前を呼ばれながら。


「好き……だけど、恋愛感情は無いです。あくまでも先輩後輩の関係だと思ってますので」


「……そっか」


「でもとても尊敬しています。年下だけどしっかりしているし、あと優しいから」


「んっ…」


 もしかしたら質問を肯定すればこの場を逃れられたのかもしれない。けどそれはしたくなかった。後輩の純粋な気持ちを利用してる気がしてならなかったから。


「いい関係で繋がってるのね。アナタ達2人」


「あ、ありがとうございます」


「羨ましい……私もそっちの世界にいたかった」


 話が収束する方向へ向かっていく。思いがけない解決の道へと。

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