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9 対峙と対決ー4

「行って来ます…」


 約束当日はローテンションで自宅を出る。結局、後輩からは何の音沙汰もないまま。


「あっ、すみません」


「いえ」


 電車内でぶつかった男性に頭を下げた謝罪。吊革を持たずに突っ立っていたら揺れた時の反動で靴を踏んでしまった。


「はあぁ…」


 何故せっかくの休日に外出しなくてはならないのか。しかも苦手な同級生と。


 隣に華恋はいない。泣きついてきた彼女を振り切って家を飛び出してきた。



「……どうも」


「あっ、おはよう」


 待ち合わせの駅へとやって来ると下車する。改札付近で薄手のコートを着た女性に近付いた。


「えへへ。ちゃんと1人で来てくれたんだぁ」


「だって1人で来ないと秘密をバラすって小田桐さんが言うから…」


「茜」


「はい?」


「下の名前で呼んでって言ったじゃない。この前の話もう忘れちゃったの?」


 声をかけた瞬間に満面の笑みを向けられてしまう。すっかり見慣れた嬉しくない笑顔を。


「……小田桐さんが来いって言ったから来ましたけど、用が済んだらさっさと帰りますからね」


「あっ、冷た~い。女の子に優しくしない男は嫌われるんだよ?」


「そうですか。それは良い事を聞きました」


 この人になら嫌われたって構わない。無視されようが罵られようが今みたいな状況より100倍マシだった。


 一緒に映画を見たいらしいので近くの劇場に向かう事に。ポケットに手を突っ込んだまま街を歩き出した。


「雅人くんはお昼食べてきた?」


「家で済ませてきました。映画だけ見たら帰る予定です」


「そんなのダメだよぉ。せっかくのデートなんだからさ、もう少し寄り道しようよ。ね?」


「あまりアナタと仲良くすると妹が悲しむので。だからそれは無理です」


「む~、頭固いなぁ」


 行動は制限されても心までは支配されない。気分は悪の手先に操られたヒーローや勇者だった。


「……何、キョロキョロしてるの? さっきから」


「い、いや…」


 どこかから監視しているかもしれない。華恋ではなく、この問題を解決する為に名乗り出てくれた後輩の姿を探した。


「あんまり他の人を見ないでほしいかな。ジェラシー感じちゃう」


「べ、別にそういう訳じゃ…」


「不本意かもしれないけど今日は私に付き合ってくれない? 無理やりで楽しくないかもしれないけど」


「なら最初から誘ってこなければ良かったじゃないですか。そうすれば小田桐さんだって余計な気を遣う事もなかったのに」


「だって雅人くんとデートしたかったんだもん」


「はいはい…」


 照れくさい言葉に動揺したりはしない。すっかり耐性がついてしまったので。


 しばらく歩くと目的地へ到着。チケットを2人分買って館内へ入場。公開から1ヶ月以上が経過していた作品なので中はガラガラだった。


「飲み物買ってくるけど何が良い?」


「あっ、自分で行きます」


「うぅん、私が売店に行ってくるから座ってて。付き合わせちゃった罪滅ぼしって事で」


「でも…」


「良いから、ほら」


「ちょっ…」


 立ち上がろうとするが無理やり体を押さえつけられる。仕方ないので烏龍茶を頼んだ。


「はい、お待たせ」


「どうも」


「ちょっとだけ飲んじゃった」


「え!?」


「うふふ、冗談」


「お釣りはいらないです…」


 精算を済ませるのと同時に紙コップを受け取る。そして彼女が引き返して5分と経たないうちに劇場内の照明はオフに。薄暗い空間へと変貌した。


「ん…」


 退屈な予告編が流れた後に本編が始まる。小さな男の子がアメリカの街並みを歩いているシーンから始まった。


 大まかな内容は、子供の頃から好きだった女の子が事故で死亡。それから別の女性と付き合ったが初恋相手が忘れられずに別れてしまったという話だった。


「くぁ…」


 反対側の空席を向いて欠伸を出す。襲いかかってくる眠気に抗うように。


 恋愛系の作品はあまり好きではない。なので昔から興味を惹かれなかった。


「ん…」


 隣の人物の様子を窺うが表情が分からない。どんな気持ちで作品を観ているのかも。


 それから墓参りに行った主人公が子供の頃の記憶を思い返すシーンで映画は終了。ノスタルジーを感じさせる演出だった。


「うっ、くくっ…」


 組んだ両手を天井に向かって伸ばす。強張っていた全身をほぐす為に。


「じゃあ、行きますか」


「今の作品……どうだった?」


「え?」


 エンディングロールと共にお客さんが劇場を退出。その流れに乗ろうと相方に声をかけたが動こうとしなかった。


「ま、まぁまぁ面白かったと思いますよ。景色とか綺麗でしたし」


「……そっか」


「テレビでも感動するって評論家の人が言ってましたもんね。サイトのレビューも評価が高いとか」


「私はあんまり感動しなかった……かな」


「は、はぁ…」


 その顔を見れば無表情。口調も覇気がなく穏やか。あまり好みの作品ではなかったのかもしれない。なら何故この映画を選んだのかが疑問だった。

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