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9 対峙と対決ー3

「ん~…」


「どうしました? ペースが落ちてますよ~」


「あぁ、ごめんごめん。考え事しててさ」


 バイトの休憩中に無意識の唸り声を出す。後輩と2人して折り紙を細かく切り刻みながら。


「スケベな妄想は構わないですが手だけは動かしてください。じゃないと私が孤軍奮闘する羽目になるので」


「そ、そんな事はしてないから!」


「なら良かったです。もしかしたら2人きりになったのを良い事にあんな事やこんな事を考えているのではないかと思ったので」


「……優奈ちゃんてさ、前より変になったよね。大胆になったというか」


「ありがとうございます。これも優しい先輩のご指導のおかげです」


「嬉しくないよ…」


 ピークを過ぎたので店長は奥に引っ込んでしまっていた。お客さんは現在ゼロ。悪天候が影響してか全体的に退屈な日だった。


「ふぅ…」


 今している作業は仕事とは関係ない。もうすぐ誕生日を迎える瑞穂さんを祝う為に本人には内緒で紙吹雪を作成していた。


「たくさん作れましたね。これぐらいあったら足りるかな」


「だね。でもこれバラまいたら片付け大変そうだなぁ」


「そういう先の事を心配するのは野暮ですよ。お祝い事なんだから散らかったって構わないんです」


「そうだね。お祝いされた人が喜んでくれたら嬉しいもんね」


「瑞穂さんも成人かぁ。私達より一足先に大人になるんですね」


 約30枚の折り紙を細かく切り刻むミッションを達成。小さな箱の中には色鮮やかな紙切れがこんもりと存在。


「じゃあ当日は忘れないでお店に来てくださいね」


「了解。店を1時間早く閉めて誕生日会やるんだよね?」


「そうみたいですね。まぁ瑞穂さんには内緒で計画進めてますが気付かれてそうですけど」


「あの人、頭いいからなぁ。分かってて知らないフリしてくれてそう」


「うっかりバラしたりしちゃダメですよ。あくまでも本人には内緒の誕生日会なんですから」


「分かってるって。いくら何でもそこまでドジではないし」


 口を滑らす可能性があるとしたらそれは自分ではなく紫緒さんだろう。なので彼女にはこの計画はまだ秘密だった。


「先輩、隠し事とかしてると顔に出るタイプだからなぁ」


「そ、そうかな」


「喋り方や表情に焦りが浮かんでくるんですよ。だから嘘ついてたりするとすぐに分かります」


「そんな君はポーカーフェイスだよね?」


「うひひひひひひ」


「怖いよ…」


 よく女性は嘘をつくのが得意とは聞く。華恋がそうだし、すみれや小田桐さんも普段と本性がまるで違う。裏表がない香織や智沙みたいなタイプの方が珍しいのかもしれない。


「ところで先輩、私に隠し事してませんか?」


「え?」


「内緒にしてる話がありますよね。まだ報告してない事が」


「な、なんの話…」


「とぼけても無駄ですよ。ネタは上がってんですから、兄貴」


「いや、本当に意味が分からないのだけど」


 指摘に動揺するが何も思い浮かばない。思考範囲を自宅での私生活や友人関係にまで広げても。


「ま、まさか…」


「気付きましたか。そう、それです」


「ひょっとして華恋になりすましてた事を見破ってたの?」


「はあぁ?」


「あれ……違った?」


 学祭で女装していた件を暴露。しかし返ってきたのは口をあんぐりと開ける反応たった。


「ま、まぁ似合ってましたよ。肩幅の広さはともかく、顔だけなら違和感ありませんでした」


「それはどうも…」


 思わず墓穴を掘ってしまう。情けなさを通り越して笑ってしまうぐらい見事に。


「そ、その事じゃなくてですね。もっと大事な話があるんじゃないですか!」


「……って言われてもなぁ。全く見当がつかないんだが」


「同級生の女性に告白されましたよね? 先日」


「えっ!? どうして知ってるの!?」


「妹さんに聞きました」


「あぁ、なるほど」


 どうやら華恋が事情を話したらしい。自分達が置かれている現状を。


「しかも聞くところによると承諾したそうじゃないですか。その人の告白を」


「う~ん……結果的にはそうなっちゃうのかな」


「妹さんから相談されたんです。私達に共通の敵が現れたって」


「敵…」


「しかも自分では手出しが出来ないから困ってるって。どういう事なんです? その相手の同級生に何をされたんですか?」


「……ん」


 ここまで知っているなら隠すのは無理だろう。ごまかす事も。覚悟を決めて小田桐さんにされた横行を語った。


「ふぅむ……なかなか聡明な人っぽいですね。先輩の今の話を聞いた印象だと」


「かなり頭良いんじゃないかな。成績とかは知らないけど」


「何より言い分が合ってますもんね。家族間の恋愛は間違っているとか、兄妹で愛し合ってるのは変だとか」


「うっ…」


「でも私にとって目の上のタンコブである事には変わりないです。先輩に手を出した時点で敵決定ですから」


「あ、そう…」


 目の前にいる人物も同じ理由で間に割り込んできていた事を思い出す。けど優しい後輩と違い、彼女のそれは嫌悪感剥き出しの態度。相手を見下したような発言が印象的だった。


「それで、その小田桐さんという人とは一体どこまで進んだんですか?」


「どこまでっていうか、ただ一緒に出掛ける約束をしただけ」


「ならまだ取り返しのつかない一線は超えていない訳ですね。安心しました」


「い、一線って何だろ…」


「出掛ける日っていつですか? 私が邪魔しに行きます」


「今度の土曜日。たぶん映画見に行くかな」


「あっ、その日シフト入ってるからダメだ」


「……だよね」


 なんとなくそんな事を言い出すんじゃないかと思っていから驚きはしない。彼女は発想がだんだんと華恋に似てきていた。


「う~ん、どうしよっかなぁ…」


「こんな事の為にわざわざバイト休むのも悪いから今回は諦めようよ」


「何を悠長な事を言ってるんですか。私にとってはこれ以上ないぐらいの一大事です。でも恵美もシフト入ってるから代理頼める人がいないし…」


「あの、この事は紫緒さんには内緒にしててね。あの子、僕達の間柄について知らないから」


「もちろんですよ。あの子に先輩達の事をバラしたら学校中に広がる可能性もあります。ネットとか使って拡散しそう」


「ひえぇっ!」


「ならどうしようかな。むぅ…」


 2人して作戦会議を繰り広げる。不毛とも思える協議を。


「とりあえず今度の土曜日は自力で何とかしてみるよ。適当に言い訳つけて逃げ出すとか」


「本当にそんな真似出来ますか?」


「え?」


「先輩、あまり女性に厳しくないから相手の雰囲気に流されそうな気がするんですけど」


「……それについては否定出来ないです」


「ならやっぱり私が割り込んで邪魔します。先輩も妹さんも手出しが出来ないなら私がやるしかありませんから」


「は、はぁ…」


 力強い宣言をされるが頼りなさしか感じない。こんな小柄な女の子に一体何が出来るというのか。


「土曜日までに策を考えます。先輩のピンチを打破する案を」


「あんまり変な事はしないでね。掻き乱されると小田桐さんが何してくるか分からないし」


「大丈夫です。こう見えても昔から結構やんちゃな性格してるねって言われますので」


「そ、それ大丈夫って言わないんですけどぉっ!」


 伸ばした手を前方に移動。暴走気味の後輩を制止するツッコミを入れた。


「悪党退治は任せてください。人を脅迫してくるような不届き者には鉄槌を喰らわせてやりますから」


「……はい」


 彼女が机の上に置かれた2つのハサミが手に取る。両腕をクロスさせながら。


 続けて刃の部分を何度も開閉。それはまるで映画に登場するキャラクターのような仕草だった。

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