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8 自白と暴露ー7

「……何言ってるの、アナタ」


 感傷に浸っていると背後から不気味な声が聞こえてくる。振り返った先には今までに見た事がない程に険しい表情を浮かべている女子生徒が立っていた。


「自分のお兄さんを好きになるとか冗談よね?」


「じょ、冗談なんかじゃないです。至って真剣です」


「ふざけないで。アナタ達は兄妹なのよ? 家族愛で繋がっているとはいえ恋愛感情を抱くなんて異常だわ」


「そ、そんな事言われても。好きなんだから仕方ないし…」


「すぐに今の発言を取り消してちょうだい。全部嘘だって」


「……どうしてそこまで指図されなくちゃならないんですか。そうやってあれこれ命令してくるアナタの方がおかしいです」


「気分が悪いからよ。現実の世界でそんなドロドロの愛憎劇を見せられたら吐き気がする」


 小田桐さんの口調が激しさを増す。まるで誰かと精神が入れ替わってしまったかのように。


「誰を好きになろうが恋愛は自由だと思うけど、身内をその対象にするのだけはやめてちょうだい。醜いのよ」


「み、醜いってアナタねっ!」


「男ならもっと他にもたくさんいるでしょ? なんで赤井くんなのよ。仮にもアナタのお兄さんなのよ!?」


「そんなの自分でも分かりません。ただ血が繋がってるって知ってても割り切れないんです」


「親御さんは何て言ってるんですか? まさか認めてもらってるなんて事はないですよね?」


「んっ…」


 彼女は知らない。その人物達が既にこの世にいない事を。ただ今の両親にも事情は打ち明けていないので言い分に反論する事は不可能だった。


「いい? そんな歪な恋愛感情はいずれどこかで破綻します。仮に今まで隠し通してこれたとしても、その状態を維持していく事は不可能です」


「そ、そんなの分からないじゃないですか。もしかしたらこれからも上手くやり続けられるかもしれないし」


「いいえ、無理です。私がアナタ達の両親やら学校にバラしますから」


「え!?」


 予想もしていなかった言葉が耳に入ってくる。思わず身を乗り出してしまう台詞が。


「ど、どういう事? バラすって」


「言った通りです。アナタ達2人の関係を私が報告するんですよ」


「それ困るよ。もし家族や学校にバラされたら普通の生活が送れなくなっちゃう」


「だから意味があるんじゃないですか。それをする事によってアナタ達2人の異常な人間関係を復元しようとしてるんですから」


「異常って…」


 確かに普通ではないのかもしれない。自分達が育ってきた環境も今の関係も。ただそれを見ず知らずの人間に否定されるのは納得がいかない。異常なのは目の前に立っている女子生徒の方だった。


「やめてくれって頼んでもダメですか?」


「論外ですね。こんな不誠実な情報を知って放ってなんかおけません」


「ア、アナタには関係ないじゃないですか! これは僕と華恋の問題です。他人にとやかく言われる筋合いはない」


「……ではどうあっても考え直す気はないと?」


「愚問ですよ、それ。ケジメをつけるにしたって自分達で行動を起こしますから」


「そうですか……なら仕方ないですね」


 諦めてくれたのだろうか。一瞬、そんな思考で心が安らいだ。


「今から学校に引き返して先生達に報告してきます。それで構わないんですよね?」


「ちょ…」


「こういうのは早い方が良いですし。なんならお2人も一緒に付いてきますか?」


「どうして…」


 意識が大きくグラつく。妙な薬でも飲まされたかのように。


 受け入れたくはないが目の前で起きている事は全て事実。真相を知った同級生によって窮地に追い込まれていた。


「ちょっと、ちょっとっ! さっきから黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって!」


「はい?」


「図々しいのよ、アンタ! なんで他人に私と雅人の関係を否定されるような事を言われなくちゃなんないのよっ!」


「だからそれはさっきから言ってる通り、お2人が兄妹だから…」


「そんなん知るかっ! 私達が家族だろうと兄妹だろうと愛し合ってる事に文句を言われる筋合いはない。家族ですらないお前が口出しするなっ!」


 戸惑っていると華恋が間に割り込んでくる。自宅いる時のような乱暴口調で。


「私は雅人が好き。雅人も私の事が好き。それが事実なのよ! 分かったか、メスブタ!」


「……見苦しい。青筋立てて声を荒げて」


「あぁっ!?」


「アナタ達2人がお互いに好意を抱いてるのは分かりました。けどそれが間違っている事に対しての指摘に否定はしないんですね?」


「そ、それは…」


「本当は気付いてるんですよね? 正しい道を踏み外している事に」


 だがその意見はすぐに封殺。理屈によって言い込められてしまった。


「だからって引き裂こうとしなくても…」


「だってこうでもしないと効き目なさそうじゃないですか。私の忠告を受け入れようともしないし」


「……別に家族間の恋愛を認めてくれとまでは言いません。見なかった事にしてスルーしてもらえませんか?」


「えぇ……そんなに思い直したくないんですか?」


「はい。今までも散々それが原因で悩まされ続けてきたので」


 ダメ元でもう一度懇願してみる。選べる選択肢がそれしか残されていないから。


「わかりました。なら条件付きで内緒にしてあげても良いですよ。アナタ達2人の事」


「え? ほ、本当ですか!?」


「はい。赤井くんが私とお付き合いしてくださればですけど」


「……何ですか、それ」


 その願いが通じたのか彼女が思いがけない妥協を提案。ただしそれは何一つ理に適っていない身勝手な内容だった。


「私の恋人になってくれるなら黙っていてあげても良いです」


「どうして条件がそれなんですか。おかしいでしょう」


「そうですか? 破格の交換条件だと思いますけど」


「無理に決まってます、そんなの。妹を……華恋を裏切るような真似、これ以上出来ません」


「もしこの提案を呑まなかったらその妹さんが傷付く事になったとしても?」


「あ…」


 思わず振り返る。後ろに立つ相方の方へと。


「ま、雅人はこんな奴と付き合ったりしないよね? 私以外の人と手を繋いだりキスしたりなんか…」


「……告白の事、好きにしろなんて言って悪かったよ」


「どうしたの、急に? だからあれは私が嘘ついてたんだってば。本当は告白なんかされてないよ。これは嘘じゃないよ…」


「ちゃんと信じてあげたら良かった。自分から積極的に仲直りしてたら良かったって……今更になって思う」


「違うってば。だから悪いのは全部私で、喧嘩の原因を作ったのも仲直り出来なかったのも私のせい」


「今度はちゃんと2人でお昼ご飯食べよう。また鬼頭くん誘って3人でお弁当食べるのも良いかもね」


「ま、雅人?」


 彼女の瞳は震えていた。縦に横に激しく何度も。


「その条件を呑むから、だから絶対に言わないでください。僕達の事を」


「ちょっ…」


 そして再び前を向くと頭を下げる。同時に爪が肉に食い込む勢いで拳を握り締めた。


「良いんですか、本当に? 顔が迷ってるように見えますけど」


「……構わないです。じゃないと大変な事になるし」


「そうですか。なら交渉成立って事で」


「雅人っ!」


 背後から名前を呼ばれる。八つ当たりの意味合いを含んだ大声で。


「華恋は今までに何度も引っ越しやら転校を繰り返してきて、そのせいで友達もなかなか出来なくて」


「へぇ…」


「今いるこの場所は母親と暮らしてた時以来の落ち着ける場所なんです。もし今の家族に見放されたら……今度こそ本当に1人きりになってしまう」


「……アナタ達もいろいろ事情があったみたいなのね」


「はい。なので妹の居場所を奪うような真似はしないであげてください」


 呼び掛けには答えずもう一度頭を下げた。会釈程度なんかではなく深々と。


「なんで、なんで…」


 背後からは掠れた声が聞こえてきた。今にも消え入りそうな弱々しい囁きが。


「私、そんなの全然気にしてないよ。雅人がいてくれたらそれだけで充分だから…」


「妹さんはああ言ってますけど?」


「……良いんです。もう決めたから」


「分かりました。なら学校に引き返すのをやめます。もちろんアナタ達のご両親の所に伺う事も」


「そうしてくれると助かります…」


 己の情けなさに辟易する。理不尽な言い分を唱えている女子1人を屈伏させられない状況に。だけどこれ以上の選択肢が考えられなかった。現状での最もマシだと思える妥協案だったから。


「じゃあ行きましょうか」


「……あっ」


 小田桐さんが体の向きを変えて歩き出す。その後に続くように足を動かした。


「華恋…」


「ダ、ダメ。行っちゃ…」


「……ゴメンね」


「雅人っ!!」


 振り向くと目が合った。瞳を潤ませている妹と。


 慰めてあげたいが何も出来ない。ただ黙って立ち去るしか道は無かった。


「あぁあああっ、うわああああっ!!」


 背後から喚き声が反響する。子供を彷彿とさせる歪な台詞が。


「ぐっ…」


 意識を前方に集中。姿は見えないがどんな表情を浮かべているかだけは想像出来た。

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