8 自白と暴露ー6
「ちょ……ずっと尾行してたのか!」
「あ、えっと…」
「今日だけじゃないですよね? 先週もスパイみたいに監視してるとお見受けしましたが?」
「え? そ、そうなの?」
「ぐっ…」
詰問のような台詞に華恋が黙り込む。歯を食いしばりながら。
「どういう事なんです? アナタも誰かから命令されてこんな真似をしてるんですか?」
「ち、違います。私はただ雅人が…」
「お兄さんの事が心配だったんですか?」
「……そうです。兄の事が不安だったのでずっと動向を監視していました」
異質な雰囲気の中で2人が会話を開始。状況は理解出来ないが穏やかな空気でない事だけは分かった。
「なるほど。でも少し過剰すぎますよね? しつこく付け回したり接触を断とうとしたり」
「そ、それは…」
「何か他にも理由があるんじゃないんですか? じゃないといくら家族とはいえここまでしないと思うんですけど」
「アナタに話す必要はありません…」
「そうですか。確かに部外者の私には家庭内の事情を知る権利はありません。なら私が彼に積極的にアタックしても問題は無いハズですよね?」
「……え?」
右往左往している最中に腕を引っ張られる。隣に立っていた小田桐さんに。
「私と赤井くんは他人です。だからお付き合いする事も婚約する事も可能です」
「ちょ、ちょっとっ!」
「でもアナタは違いますよね? 彼とは家族で双子で血が繋がっているんですから」
「そうですけど…」
「お兄さんを溺愛してるのは分かります。けれど嘘まで付いて女性を引き離そうとするのは良くないと思いますよ?」
「う、嘘なんかじゃ…」
「もしアナタが本当にお兄さんの事を想っているのなら、お兄さんの幸せを願って行動すべきなんじゃないですかね?」
2人が至近距離で睨み合いをスタート。口調は上品だが喧嘩しているようにしか見えなかった。
「それとも嘘を付いているのは赤井くんの方で、アナタの言っている事が真実なのかしら?」
「……そうです」
「え?」
「わ、私は雅人をお兄ちゃんとしてじゃなく1人の男として愛してるのっ!!」
戸惑っている間に場は更に混乱状況へと突入していく。絶対に踏み込んではいけない領域へと。
「ちょっ…」
「私達は恋人同士で本当ならお昼や放課後も一緒にいたハズなんです」
「華恋っ!」
「でもこの前、調子に乗って怒らせてしまって……それからあんまり口を利いてくれなくなっちゃって」
「あれは、その…」
「自分から謝らなくちゃいけなかったのに。意地張っていつまでもウジウジしてたからこんな事に」
「……んっ」
「アナタは悪くありません。悪いのは全部私なんです。だから……謝るから、もうこれ以上この人には近付かないでください。お願いしますっ!」
引き留めようとするが間に合わない。そうこうしているうちに彼女は謝罪の言葉と共に深々と頭を下げた。
「ごめんね、雅人。また迷惑かけちゃった」
「え? いや…」
「この前の夜もごめんなさい。雅人に拒否されたのがショックで、ずっと声をかけられずにいました」
「な、なんで敬語?」
「男子から告白されたって話も嘘です。ただ単に構って欲しかっただけなんです」
「は、え……はああぁぁぁぁ!?」
「全部全部この場で謝りますっ、ごめんなさいっ!」
開いた口が塞がらない。呆れている訳ではなく頭が大混乱に陥っていた。
「もしかしたら雅人に嫌われちゃったんじゃないかって……もう二度と私の方には振り向いてくれないんじゃないかって不安だった」
「それは…」
「手紙の件だってハッキリ断ってくるって思ってたのに、こうやって相手の人と仲良くしちゃってるし…」
「す、すいません」
「私が告白されたって嘘ついた時も、心配も嫉妬もしてくれなくて」
「だって華恋も…」
「だからもうダメなんじゃないかって……ずっと怖かった」
すぐ近くの道路を乗用車が通過していく。大きなエンジン音を出しながら。
「ごめんなさい。もう二度とあんな真似しないから嫌いにならないで…」
「な、泣くのはやめよう。こんな所で…」
「雅人がいなくなっちゃったら私、私…」
「ストップ、ストーーップ!」
「ずっと好きでいるから、もう困らせるような事はしないから…」
「落ち着いて。嘘つかれてたからって責めたりなんかしないって」
「私を1人にしないでください…」
彼女の言葉に反応して宥めようと伸ばしていた手の動きが停止。同時に頭の中には生存していない母親の姿が浮かび上がってきた。
「ぐすっ……うえぇ、えぐっ」
「華恋…」
きっと今の言葉は恋人ではなく家族として向けた台詞。互いに互いが唯一の血縁者だから。




