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7 同居人と転校生ー4

「どうだった、学校。楽しかった?」


「はい。雅人さんも香織さんも、とても優しく接してくれたので。お2人がいなかったら登下校の道順さえ分かりませんでした」


「そう。緊張はしなかった?」


「しました。なにぶん初めて行く場所だったので。周りも知らない人だらけだったので、あがってしまって…」


「……嘘つくなよ」


「ん? アンタ、今なんか言った?」


「いや、何も言ってないよ」


 発言の矛盾点を小声で指摘。母親から質問が飛んできたが適当に受け流した。


「男子にナンパされたりはしませんでした?」


「いえ、そのような事は。皆様とても優しい方ばかりでした」


「え~。華恋さん、美人だから絶対されると思ってたんだけどなぁ」


「私なんかに声をかけてくる人なんていませんよ」


 女3人で会話は大盛り上がり。そこには加わらず黙々と食事を続行。


「ポテトサラダ美味しいな…」


 擦り潰されたジャガイモを頬張った。マヨネーズと胡椒を大量にかけたオカズを。


「雅人。アンタ、華恋ちゃんと同じクラスにならなかったの?」


「ん?」


「学校の話」


「あぁ、うちのクラスだったよ。転校生が来たってみんな騒いでた」


「そう。なら華恋ちゃんの事いろいろ助けてあげてね」


「うぃ」


 口に箸をくわえたまま小さく頭を振る。この口ぶりから察するにやはり予め学校側に手を回していたらしい。


「なになに。2人、一緒のクラスになったの?」


「そうだよ」


「へぇ、じゃあ私の言ってた通りになったね」


「ん? 何が?」


「ほら、朝に話してたじゃん。まーくんやちーちゃんと一緒のクラスになるかもねって」


「あぁ、アレか」


 うっすらと頭の片隅に残っていた記憶が蘇ってきた。登校中に交わしていたやり取りが。


「ちーちゃんとはもう喋ったりしましたか?」


「えっと……まだクラスの方々の名前と顔が認識出来ていないので」


「あっ、そうか」


「すみません…」


「む…」


 今朝は智沙とは別行動だった。彼女の事情が原因で。だが明日の朝は駅で待っている事だろう。隣の妹が寝坊しなければ。


 もし3人でいる所に出くわしたら自分達が知り合いだとバレてしまう。恐らく華恋さんは同居の事実を知られる展開を嫌がっているハズだ。その相手がクラスメートとなれば尚更に。


「明日紹介しますよ。すっごく面白い先輩ですから」


「ありがとうございます。楽しみにしてます」


「華恋さんもすぐに仲良くなれると思いますよ」


「だ、だと良いんですが」


「大丈夫ですって。ちーちゃん凄く優しい人だし」


「……ん~」


 あまり状況が芳しくない事を悟る。後で本人にも事情を話しておかなくてはならない。



「はい、どうぞ」


 それから食事を済ませ風呂に入ってリビングでテレビ鑑賞。家族が寝静まったタイミングを見計らって客間の前までやって来た。


「話あるんだけど良い?」


「……雅人さん1人ですか?」


「そだよ。学校の事で相談があって」


「なんだ、早く襖閉めてよ。声が漏れちゃうじゃん」


「はいはい、分かりましたよっと…」


 許可をもらったので中へと入る。部屋の隅でプリントを読んでいる華恋さんを発見した。


「あのさ、明日の登校の事なんだけど…」


「電車乗る時は別々の車両に乗る。そこから学校行くまでも別行動。それならクラスメートに見つからないでしょ」


「え? ま、まぁそうだね」


「話ってそれだけ? 私、忙しいんだけど」


 どうやら既に同居がバレないようにする方法を考えていたらしい。口にしようとした意見を先に言われてしまった。


「いや、もう1つ問題があってさ」


「何よ」


「さっき香織が話してた、ちーちゃんって名前覚えてる?」


「覚えてるけど、それがどうしたのよ?」


「その智沙って子、いつも地元の駅から僕達と一緒に通学してるんだよね。だから明日3人で駅に行くと同居してる事がバレちゃうかもしれない」


 発した台詞に反応して彼女の手の動きが止まる。スイッチをオフにしたロボットのように。


「その子、私達と同じクラスなのよね?」


「そうだよ。まだ顔を覚えてないだろうけど」


「……マズいわね。なら家を出る時から別行動じゃないと」


「じゃあ僕達より先か後に出る?」


「先に行くわ。アンタ達より一本後の電車だと遅刻するかもしれないし」


「ん、了解」


 朝食を早めに食べて出発してもらう事に決まった。これならターゲットと遭遇する事なく学校へと行けるだろう。


「香織には僕の方から話しておくよ」


「悪いわね」


「良いさ。『華恋さんがお前みたいな奴とは一緒に登校したくないって言ってたぞ』って伝えておくから」


「ほほう……アンタそんなに痴漢行為の件をバラされたいんだ」


「すいません。冗談だから許してください」


「……ったく」


 彼女が小言を呟く。穏やかの中に怒りを含んだ笑顔を浮かべながら。


「じゃあ、そういう事で」


「あ、ちょい待ち」


「ん?」


 話も終わったので自室へと退散する事に。襖に手をかけるがその瞬間に背後から呼び止められた。


「こうやってあんまり私の部屋に遊びに来ないでくれる? 変な勘違いされたら困るから」


「いや、でも大事な話があるから仕方ないじゃん」


「コレ使いなさいよ、コレ」


「あぁ。その手があったか」


「……ったく、何のために情報交換したと思ってんのよ」


「悪い。そこまで気が回らなかった」


 彼女が充電中のケータイを持ち上げる。文明の利器を。


 これからは秘密裏に文章をやり取りする事になるらしい。まったく嬉しくない文通だった。

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