表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
279/354

8 自白と暴露ー4

「今日も隣いいですか?」


「え?」


 翌日、昼休みに中庭のベンチでジャムパンにかぶりつく。そこに歓迎していない乱入者が登場した。


「ど、どうして…」


「どうしてここにいる事がバレたんだって顔してますね。さて何故でしょう」


「それは…」


「ふふふ、ただの偶然ですよ。たまたま空いているベンチを探していたら赤井くんを見かけたので話しかけちゃいました」


「なるほど…」


 彼女の発言が嘘だと瞬時に理解する。ただそう証明する根拠がないので否定が出来なかった。


「では失礼して…」


 少し横にズレて空席を作る。空いたスペースに、手でスカートを押さえた小田桐さんが座った。


「パンはお好きなんですか?」


「……普通です。好きでも嫌いでもないです」


「私は大好きですよ。菓子パンだろうが惣菜パンだろうが何でもいける口です」


「へぇ…」


「あっ、でもどちらかといえばご飯派ですね。パンよりお米の方が好きなんです。おにぎりとか」


 彼女の膝元を見るとコンビニで買ったであろうサンドイッチを見つけた。学校を抜け出して買いに行くタイプには思えない。もしかしたら本当に座る場所を探していただけなのかもしれない。


「あの…」


「はい?」


「1つ聞きたい事あるんですけど良いですか?」


 口の中を空にしたタイミングで声をかける。思い切って自ら話を振ってみた。


「赤井くんの方から質問って珍しいですね。良いですよ。私で答えられる事ならなんでも答えます」


「どうしてこんな積極的に話しかけてくるんですか? 変だと思うんですけど」


「それは一昨日も言いましたけど、七瀬の為で…」


「それがおかしいんですよ。七瀬さんが直接アタックしてくるなら納得出来ます。けど間接的に関わってるアナタが必要以上に絡んでくるのって違和感を覚えます」


 消極的な友人の代わりに相手の情報を手に入れようとしているだけ。そう言い訳すれば体裁よく聞こえるだろう。


 しかし彼女のやっている事はただの自己アピール。自らがその相手と交流を図ろうとしているにすぎなかった。


「……なぜ私がこうして赤井くんに頻繁に声をかけてるんだと思います?」


「それが分からないからこうして尋ねてるんです。気付いてたら質問したりしません」


「私も前から気になっていたからです。アナタの事が」


「え?」


「これは冗談ではありませんよ。ずっと前から赤井くんの存在を知っていました」


 ジュースを飲んでいた手の動きを止める。一定の高さをキープして。


「ずっと前って、いつから…」


「赤井くんは、この海城高校に入学してから今までに喋った事がある生徒の名前と顔を把握していますか?」


「え? いや、さすがに全員は…」


「私は覚えています。特に友人や付き合った男性の名前、助けてくれた恩人の事はハッキリと」


「は、はぁ…」


「そして私がこの学校で出会った人達の中で、誰よりも赤井くんの名前が一番強烈に心に刻まれています」


 すぐ隣には寂しそうな横顔が存在。つい見とれてしまう儚い表情が。


 同時に意識の中にはいくつもの疑問符が発生していた。思考を混乱に陥れてくる数々の要素が原因で。


 クラスメートでもない、同じ中学の出身でもない。出会って3日足らずしか経過していない人物の発言がまるで理解出来なかった。


「あ、すいません。話が逸れちゃいましたね」


「いえ…」


「なぜ私が毎日赤井くんに話しかけるのかを質問されてたのに、いつの間にか自分の身の上話をするところでした」


「良かったら教えてください。どうして僕の事を前から知っていたのかを」


「え? 聞きたいですか?」


「はい」


 こんな状況で興味が湧かない人間なんかいる訳がない。例え相手が苦手な人物だったとしても。


「……それは今は話せません」


「ど、どうしてですか?」


「話すと長くなるし、それに嫌われてしまうかもしれませんから」


「え?」


「もし赤井くんが私とお付き合いをしてくれるというなら打ち明けちゃっても良いですよ」


 けれど彼女から返ってきたのは拒否を表した台詞。意味深な微笑を浮かべたかと思えば勢い良く立ち上がった。


「あぁ、美味しかった。肌寒いけど太陽の日差しの下で食べるのも悪くないですね」


「あ、あの…」


「今日もお付き合いしていただいてありがとうございました。それじゃあ」


「あっ!」


 呼び止めようと声をかける。その意志を跳ね返すように彼女はその場から退散してしまった。


「えぇ…」


 結局、質問の答えを聞き出せなかった。尋ねられて困る内容なのだろうか。


 だとしたらこうしてわざわざ接触してくるのはおかしい。何より途中で口にした言葉が気にかかっていた。


「……嫌われる?」


 もしかしたら気付かないうちに嫌がらせでもされていたのかもしれない。私物を盗まれたり、迷惑のかかるような行為を。


 全く身に覚えがない訳ではないが有り得なかった。それらのやり取りが彼女の中で一番インパクトのある人物になり得るとは思えないから。


「んっ…」


 少しだけ興味が湧いてくる。素性の知らない女子生徒に自分がかつて何をしてしまったのかを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 面白いと思ったらクリックしてもらえると喜びます(´ω`)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ