8 自白と暴露ー2
「赤井くん」
「ん? 何?」
「あの人が呼んでる」
「ちょっ…」
放課後に丸山くんに声をかけられる。彼の指差す先に陽気に手を振っている女子生徒を見つけた。
「なんで…」
教室にまで迎えに来るなんてアクティブすぎる。同時に離れた席にいる喧嘩相手の様子を窺った。
「……ぐっ!」
「あっ!?」
目が合った瞬間に華恋が慌てて教室を出ていく。机やドアに体をぶつけながら。
「大丈夫かな…」
走って追いかけてもいいのだが呼び出し相手を放っておく訳にもいかない。覚悟を決めて小田桐さんの元に近付いた。
「な、何か用ですか?」
「ごめんね、いきなり押しかけちゃって。良かったら一緒に帰ろうかと思って」
「えぇ!?」
「もしかしたら他に予定ありました? 友達と帰るハズだったとか」
「えっと…」
教室内を見回す。当たり前だが華恋はいない。鬼頭くんは委員会の用事で既に不在。唯一残っている知り合いは丸山くんだけ。
「あっ! ちょっと待っ…」
しかし話しかける前に彼は後ろの扉から退散。小さく手を振りながら廊下へと出て行ってしまった。
「……タイミング悪いよ」
女子に呼び出されたから気を遣ってくれたのだろう。とはいえ今の状況からしたら余計な配慮でしかない。
「きょ、今日はバイトがあるので無理です」
「バイト? どこで働いてるの?」
「えっと……ここから歩いて5分ぐらいの喫茶店で」
「そうなんだ。頑張ってらっしゃるんですね」
「どうも。だから悪いけど一緒には帰れないというか…」
「あの、もしお邪魔じゃなければそのお店に伺ってもよろしいですか?」
「え、へ!?」
話がおかしな方へと転がっていく。有り得ない流れへと。
「う~ん…」
「迷惑だったら行くのやめますけど」
「いや、それは…」
「ご、ごめんなさい。そうですよね。そんなに親しくもない奴がいきなりバイト先に行きたいなんて言いだしたら困惑して当然です」
「うっ…」
健気な反応をされたんじゃ強気な姿勢で拒めない。嫌いな奴ならともかく目の前にいるのは優しそうな女子生徒。
それに好意を寄せているらしいのは七瀬さんで、あくまでも彼女はその友達。自分から見たらただの同級生の1人だった。
「き、来ても退屈だと思いますよ」
「大丈夫です。私、のんびり座ってるの好きなんで」
「あと大声で会話するおばさんとか、すぐ怒鳴るおじさんもいるし」
「そんな過酷な環境で働いてらっしゃるんですか。それは凄いですね」
「過酷ってのは大袈裟じゃ…」
気のせいでなければ彼女の目がキラキラと輝いて見える。全てのマイナス情報を打ち消してしまう勢いで。
「ま、まぁ見るだけなら…」
「本当に!? ありがとうございます」
適当に座っていてもらえば良いだろう。納得してくれたら小田桐さんも帰ってくれるハズ。それにここで言い争いを続けて遅刻するのだけは勘弁だった。
昨日、初めて会話した人物をバイト先へと招く事に。学校を出ると彼女は本当に店まで付いて来てしまった。
「先輩先輩! あの人、誰っすか!?」
「ん?」
手が空いたタイミングで紫緒さんが話しかけてくる。トレイを胸に抱えながら。
「学校の同級生。なんか付いて来ちゃって」
「彼女ですか? いつの間にそんな相手見つけちゃったんすか。このリア充めが」
「違うってば。あの人とは昨日知り合ったばかりで友達かどうかも定かではないんだよ」
「はい? 友達でもない人がどうして付いて来たんすか?」
「さ、さぁ…」
嘘はついてはいないが詳細は話せない。手紙の件を彼女に知られたくなかった。
「ん…」
話題の張本人の方を見るがのんびり読書中。大人向けの週刊誌を黙々と読んでいた。
「ずっと1人でいて退屈じゃないですか?」
「はい?」
近付いて話しかける。体裁よく追い返す為に。
「そうですね。お喋りする相手がいないのは残念ですけど、赤井くんの働いてる姿が見れますし」
「エプロン姿の男なんか見てもときめいたりしないでしょ? 学校で爽やかスポーツマンを眺めてた方が良かったんじゃないですか?」
「いいえ、私が見たかったのは他の男子生徒ではなく放課後の赤井くんですから」
「あ、あんまりそういうボケを真顔で言われると恥ずかしいんですけど…」
「ボケとは失礼ですね。こう見えても本気なんですが」
「……ごめんなさい。それは申し訳ありませんでした」
睨み付けられたのですぐに頭を下げて謝罪。その反応を無視して彼女がエプロンに触れてきた。生地の感触を確かめるように。
「あ、あの…」
「お仕事は何時頃に終わりますか?」
「え? 多分、8時ぐらいだと思います」
「あと1時間弱か……なら終わるまで待ってますね」
「えぇ!?」
退散してもらおうとした作戦は失敗に終わる。むしろ残留する意思を確かめただけ。
「……遅くなると寒くなりますよ」
「心配してくれてありがとうございます。優しいんですね」
「くっ…」
嫌味を込めてかけた言葉も微笑みで軽く流されてしまった。最後まで待つという事は何かしらの話をしてくる可能性が高い。




