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7 受取人と差出人ー2

「じゃあ上に行って音ゲーやろうぜ」


「行ってらっしゃい。私は先輩とプライズコーナーにいるから」


「おい、ふざけんな!」


 しばらく歩くと目的地に辿り着く。自転車を停めて中に入ったが入店早々に意見が分裂した。


「またクレーンゲームかよ。いい加減飽きない?」


「別に良いじゃん、好きなんだし。嫌いなら向こう行っててよ」


「取れるかどうかも分からない物に金をかける神経が理解出来んわ。赤井くん、どう思う?」


「え? う、う~ん…」


 答えにくい話題を振られてしまう。どちらに付いても分が悪い質問を。


「絶対に取れないって訳でもないし一度ぐらいやってみるのも良いんじゃないかな」


「ふ~ん、赤井くんはこういうの好きなんだ」


「別に好きって訳ではないんだけどね」


「ほら、先輩もこう言ってる。頭の固い理屈屋は邪魔だからあっち行ってろ」


「何ぃ!?」


 無難な答えを口に。争いを避ける為だったが思い切り喧嘩に発展していた。


「元々は俺と赤井くんでここに来るつもりだったんだぞ。邪魔なのはお前の方だ」


「クレーンゲーム嫌いなら上に行ってダンスでもしてれば良いじゃん。今ならまだ空いてると思うし」


「1人でやっててもつまんないだろうが。一緒にやる相手がいないと恥ずかしいんだよ、俺は」


「情けな…」


「う、うるせっ!」


 2人の間で身動きがとれず板挟みになる。邪魔なのは自分の方なんじゃないのか。そう思えてくるような状況だった。


「あ、落ちた」


「くっ…」


 なんやかんや文句をつけながらも鬼頭くんは付き添ってくれる事に。2000円近く注ぎ込んで小さなキーホルダーを獲得。あらかた廻り終えた後は二階へと移動。明るい一階と違って薄暗い作りだった。


「優奈ちゃんはやらないの? 2人同時にプレイ可能みたいだけど」


「私、ああいうゲーム得意ではないので。あとあんまり激しく動くとスカートが捲れちゃうし」


「ミニじゃないから大丈夫だよ。平気平気」


「そんなに私のパンチラが見たいんですか?」


「……興味ないならやめておこっか」


 休憩スペースとなっているベンチに後輩と腰掛ける。ダンスゲームをプレイ中の鬼頭くんを眺めながら。


「先輩はやらないんですか? 今ならまだ間に合いますよ」


「僕もこういうゲームは得意じゃないんだ。華恋は好きって言ってたけど」


「いかにも大好物って感じしてますもんね」


「ははは、だね。そういえばどうして喧嘩してるって分かったの?」


「はい?」


 自販機でジュースを購入。好みの商品が無かったので普段はあまり飲まない炭酸系を選んだ。


「だってこの前の学祭にも来てなかったし。それに本人がそれっぽい事を言ってたから」


「な、何て?」


「バカ雅人がウザいとか、仕返ししたいから良い男を紹介してくれとか」


「……アイツ」


「あっ、先輩の名前呼び捨てにしてごめんなさい。具体的に何があったかは教えてくれませんでしたが、文面から予想する限り相当怒ってましたよ」


「なるほど…」


 男を紹介してくれというのは浮気してるように見せかける為の罠なのだろう。もしくは気を紛らわせる為のヤケクソか。


「ちなみに連絡先を交換しようって言い出したのはどっちから?」


「向こうです。SNSを通して口論しているうちにそうなりました」


「へぇ」


「まぁ悪い人でないのは知ってますからね。先輩の事がなかったら普通に友達やってたと思います」


「何気に仲良いのね、君達…」


「はい。もし2人揃って捨てられたら一緒に先輩を刺しに行こうねって約束もしましたから」


「えっ!?」


 ペットボトルを持つ手の動きが止まる。中身を飲もうとしていた口の動きも。


「冗談ですよ。そんなに驚かないでください」


「いや、でも…」


 ベンチに手を突いて少しずつ後退り。彼女から距離を置く為に横にズレた。


「というわけで近いうちに何かしら仕掛けてくると思うので覚悟しておいてくださいね」


「はあぁ……勘弁してくれよぉ」


「本当に何かあったんですか? 私で良ければ相談に乗りますけど」


「いや、大丈夫…」


「そうですか。大方、妹さんが先輩に迫って突き放されたところだと予想していますが」


「げふっ!?」


 思わず飲み物を吹き出してしまう。喉の奥に詰まらせながら。


「げほっ、げほっ!」


「大丈夫ですか?」


「へ、平気平気…」


 もしかしたら華恋はあの夜の会話内容を全て話したのかもしれない。後先の事を考えずに。


 何度思い出しても恥ずかしい。アレは家族間で交わす会話ではなかった。



「……うわ、最悪」


 あらかた遊んだ後は店の外に出る。停めている自転車までやって来ると優奈ちゃんの自転車カゴに空き缶が捨てられているのが目に入った。


「誰かが捨てていったんだね。マナー悪いなぁ」


「すぐそこにゴミ箱あるんだから入れろっての。まったく…」


 どうやら何者かが無断投棄していったらしい。せっかくの楽しい気分が台無しになった。


「ん?」


「ギャッハッハッ! だっせぇ、お前」


 ゴミを処理していると少し離れた場所から図太い笑い声が聞こえてくる。その発信元はいかにもヤンキーといった風貌の4人組。


「うるさいなぁ…」


 通行人の迷惑も考えずに大騒ぎ。目立ちたいだけで喚いているのは一目瞭然だった。


「ちょ、ちょっと! どこに行く気!?」


「一言文句つけてくる。アイツらだろ? カゴの中に空き缶入れてったの」


「いや、マズいって。喧嘩になっちゃうよ」


「やった奴が目の前にいるのに黙って引き下がるのも嫌じゃん。謝らせたる」


 何故か鬼頭くんが連中の元に突撃しようとする。恐ろしい剣幕で。


 怒りたくなる気持ちも分かるが実行してはマズい。まともな話し合いが通じるとは思えないし、殴り合いに発展したら分が悪すぎるから。


「オラッ、安田(やすだ)! しねオラッ」


 友人を引き留めている間もヤンキー集団は大盛り上がり。通行人が行き交う道路の真ん中でプロレス技をかけ始めた。


「なに考えてんのよ。あの人達がやったかどうかなんて分かんないじゃん」


「アイツら以外に誰がいるってんだよ。ゴミ箱あんのにわざわざ自転車のカゴに捨ててくなんて嫌がらせ目的じゃねぇか」


「証拠もないのに憶測で話進めんな。もしあの人達に声かけたら私がお兄ちゃんを殴るよ」


「て、てめっ…」


 後輩が辛口な口調で兄を宥めている。そうこうしてるうちに4人組はどこかへと退散した。


「もう……相変わらず単細胞なんだから」


「でも悔しいじゃんか。やられっぱなしで終わるとか」


「別に怪我させられた訳じゃないから良いじゃん。言いがかりつけて殴ったら、それこそこっちが加害者だよ」


「俺の勘がアイツらだといってる。だから間違いない」


「ばぁ~か」


 修羅場に突入する直前だったのに2人は至って平静。いつも通りのテンションで喋っていた。


「すいません、先輩。バカ兄のバカな行動に巻き込んでしまって」


「だ、大丈夫っす」


「やっぱり今度から出掛ける時は2人だけにしましょう。コイツ抜きで遊びましょうね?」


「おい」


「……ははは」


 どさくさ紛れの提案を苦笑いで返す。上手く濁すように。


「ならまた明日」


「あ、うん」


「もし妹さんに何かされたら言ってくださいね。すぐに助けに駆け付けますから」


「争いの予感しかしない…」


 そして駅までやって来ると2人と解散。単身で改札をくぐって電車へと乗り込んだ。


「ふぅ…」


 やや混雑気味の車内に揺られながら先程の出来事を振り返る。芳しくないトラブルを。


「家族か…」


 鬼頭くんは妹が嫌がらせされた事に対してかなり腹を立てていた。例えそれが軽いイタズラ程度の行為だったとしても許せなかったのだろう。


 もし華恋が誰かに手を出されたとしても相手に立ち向かっていける自信が無い。足が竦んで動けない姿が容易に想像出来た。


「そもそも喧嘩が強いからなぁ…」


 熱海でガラの悪い金髪に絡まれた時だってそう。彼女が1人で撃退。自分は髪を引っ張られるだけで何一つ活躍する事が出来なかった。


 どちらかといえば守られてる側の人間。兄貴としても彼氏としても失格だった。

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