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7 同居人と転校生ー3

「カレーパン、美味しいなぁ…」


 昼休みになると食料を頬張る。いつも共に過ごしている親友はいないので1人で。彼は他の男子生徒と共に転校生の校内案内を行っていた。


「帰りどうしよう…」


 窓の外に広がる景色を眺めながら放課後の予定について考える。本来なら同居人でもある人物に声をかけるのが当然の状況。


「……ま、なんとかなるよね」


 どこの駅で降りれば良いかは分かってるだろう。いざとなればケータイで誰かに連絡をとる事も可能だし。何より彼女の方から一緒に帰宅する事を拒絶してきそうな気がした。



「うぉりゃあっ!! じゃあお前らまた明日な、うぉりゃあっ!!」


 帰りのホームルームが終わると教室から次々に人がいなくなっていく。担任の訳の分からない掛け声を合図に解散。


 部活に向かう者、教室に残ってお喋りする者、大人しく帰宅する者。その内容は様々だった。


「雅人、帰ろうぜ」


「え? 君、誰?」


「ふざけんなっ! 俺だよ、俺!」


 荷物を鞄に仕舞っていると1人の男子生徒が近付いてくる。顔面をボコボコに変形させた友人が。


「……どうしたの、それ」


「智沙にやられた」


「あ、結局バレたのね」


 隠し持っていた下着の存在に気付かれたらしい。悪さをすればバチが当たるといういい見本だった。


「今日は居残り無いからどっか行こうぜ」


「良いよ。ゲーセンでいい?」


「OK。久しぶりの脱衣麻雀だな」


「前から言おうと思ってたんだけど負けた時に自分の服を脱ぐのやめようよ」


 目的地を決めると席を立つ。鞄を肩にかけながら。


「……凄いな」


 去り際に転校生のいる場所へ視線を移した。そこには休み時間同様に多くの生徒が存在。丸1日経過しても彼女の人気は衰えなかった。


「まったく……ふざけんなよ、あの女」


「智沙の事?」


「おう、あんな奴のパンツだと知ってたら拾わなかったぜ。ついウッカリ匂い嗅いじまったじゃないか」


「何してるのさ…」


 校外に出ると夕日に照らされた住宅街を歩く。自転車を押す颯太の隣に並んで。


「それにひきかえ白鷺さんは可愛かったなぁ」


「……うっ」


「あ~、あんな子が隣の席に来てくれるなんて幸運としか思えないぜ」


「よ、良かったね」


 そのまま話の内容は転校生の存在に。正直、華恋さんについて語るのは嫌だったが、無理に逸らすのも不自然なので合わせていた。


「どこに住んでるんだろう。お嬢様っぽかったから、やっぱり大きなお屋敷とかかな」


「普通の一軒家だと思うよ」


「喋り方も礼儀正しかったし。きっと普段から上品に過ごしてるんだぜ」


「い、いやぁ……どうかな」


「今度、自宅まで尾行してみよ。彼女に凄く興味あるわ」


「やめてやめて、本当にやめて」


 そんな真似をしても知っている場所に辿り着くだけ。そもそもストーカーのような行為自体が誉められたものじゃない。


「オラオラオラッ!」


 ほどなくして目的地であるゲームセンターに到着する。2人でシューティングゲームをプレイ。あまり得意なジャンルではないのだが友人が大好きなのでいつも付き合っていた。


「あぁ……やられちゃった」


「任せろ。仇は俺がとってやる!」


「頑張って」


 画面の半分が暗くなる。100円投入すればコンテニュー出来るみたいなのだが、どうせまたすぐ撃たれると分かっているので断念した。


「目が付いていかないんだよなぁ…」


 アーケードゲームは基本的に不得意。だから格闘ゲームや音楽ゲームも下手クソだった。


「あぁ、終わったーーっ!」


 しばらくすると颯太もゲームオーバーに。エイリアンの攻撃がまともにお尻に命中していた。


「もう1回やる?」


「いや、僕はもう良いや」


「次は何やんべか」


「楽しい感じのやつが良いかな。あんまり激しくないジャンルが」


「なら脱衣麻雀か。奥に行くぞ」


「……どうしてそうなるのさ」


 床に置いていた鞄を拾うとビデオゲームコーナーへと進む。しかし脱衣麻雀は他の人が使用していたのでクイズゲームに没頭した。


「じゃあ、また明日な」


「うん。またね」


「ところでお前の隣に血だらけの兵隊さんが立ってるんだけど知り合いか?」


「どこ!? 僕には見えないんだけど!」


 駅までやって来ると友人と別れる。自宅に帰る為に電車へと乗車。


「ふぅ…」


 久々にハシャいだので疲労感が蓄積していた。ただ気分転換にはなったので後悔はしていない。


「……あれ?」


 到着後は改札を通ってロータリーへ出る。そこで見知った人物が立っている姿が目に入ってきた。


「華恋さん…」


 視界の先にいたのは1時間以上前に教室で見かけた転校生。制服姿のままで腕を組んでいた女子高生だった。


「ん…」


 まさかここで待ってくれていたのだろうか。一緒に帰ろうと思い立ったとかで。そんな呑気な事を考えていると本人がすぐ目の前まで接近。何故か早歩きだった。


「……アンタ、今までどこ行ってたの」


「え?」


「こんな時間までどこウロついてたのかって聞いてんのっ!」


「ひえっ!?」


 彼女が開口一番に怒鳴り散らしてくる。鬼のような形相を浮かべながら。


「ゲ、ゲーセン…」


「はぁ!?」


 続けて伸ばしてきた手で襟首を鷲掴み。ヤンキーを彷彿とさせる動作が飛んできた。


「アンタねぇ……私、まだ家の鍵持ってないのよ」


「そ、それが?」


「アンタ達がいつまで経っても帰って来ないから締め出し喰らっちゃったでしょーが!」


「ぐぇっ!?」


 そのまま首を絞められる。窒素しない程度の力加減で。


「なんとか帰って来ても中に入れないし、ずっと待ってても誰も帰って来ないからこうしてわざわざ駅まで迎えに来たんでしょうが!」


「すいません…」


「寄り道するならせめて鍵を私に預けてからにしなさいよ。玄関先で待たされる事になっちゃったじゃない!」


「はい、はい!」


 謝罪の言葉を口にしながら頭を上下に移動。逆らわずに謝った。


「そもそもねぇ、転校して来たばかりの私を置き去りにして先に帰っちゃうのが…」


「ちょ、ちょい待ち」


「はぁ!?」


 怒鳴り散らしてくる同居人を制止する。周りを行く通行人達の視線を集めてしまっていたので。


「……あ」


 その行動で彼女も自身が置かれている状況を察知。すぐに掴んでいた手を離した。


「え? ちょ…」


「いいから黙って付いてきなさい!」


 だが拘束は終わらない。腕を掴まれ無理やり引っ張られた。


「あぁ、もう……イライラするわねぇ」


「香織ってまだ帰って来てなかったの?」


「そうよ。アンタ達が2人揃って姿見せないから困ってたんでしょうが!」


「なるほど…」


 駅前を離れると人通りが少ない場所へとやって来る。自販機が並べられた市街地の一角に。


「いったいどれだけの時間待たされたと思ってんの!」


「ごめんなさい…」


「昨日の買い物に対する仕返し?」


「いやいや、そんな滅相もありません」


 こればかりはこちらが悪い。怒られるのは仕方なかった。


「反省してる?」


「してます、してます」


「私に対して悪いと思ってる?」


「お、思ってます」


「そう。ならアンタの持ってる鍵を私にちょうだい」


「え!?」


 何度も頭を下げていると彼女が右手を伸ばしてくる。脅迫にも近い台詞と共に。


「ちょ、ちょっと待って。それだと今度は僕が困るじゃないか」


「だって私に悪いと思ってるんでしょ? なら今度はアンタが辛い思いしなさいよ」


「そんなムチャクチャな…」


 なぜ進んで締め出しを喰らわなくてはならないのか。さすがにこの言い分を聞き入れる訳にはいかなかった。


「じゃあ私はどうすれば良いのよ。また1人で待ちぼうけ?」


「明日は一緒に帰ろう。それなら良いでしょ?」


「はぁ!? どうしてアンタと一緒に帰らないといけないのよ」


「いや、だって……そうするしか方法は無いじゃないか」


 一番正しいと思われる方法を提案したのに。返ってきたのは強気な反論だった。


「アンタと一緒に帰るのだけはやだ。変な噂とか流されたら困るし」


「あのさぁ…」


「別々に学校出てどこかで落ち合いましょ。それなら良いでしょ?」


「……まぁ、それで君が構わないなら」


「アンタの連絡先教えて。何かあったらこっちから言うから」


「あ、うん」


 お互いにスマホを取り出す。妙な流れで個人情報を交換する事になった。


「ちなみに落ち合うってどこで?」


「ん~、学校付近はマズいからさっきの駅にしようかしらね」


「あぁ、地元の方ね」


 それなら知り合いに遭遇する確率も低いだろう。近くに本屋やファーストフード店もあるから時間を潰すには最適。


 話し合いを落ち着かせると家路に就く事に。閑静な住宅街を2人で突き進んだ。


「そういえばよく帰って来れたね。迷ったりしなかった?」


「……迷ったわよ。電車乗る時に困った」


「あぁ、やっぱり」


 うちの海城高校がある駅は路線が少々複雑になっている。その為、乗る電車を間違えると全く違う方向に飛ばされるパターンも存在していた。


「ならやっぱり向こうの駅から一緒に…」


「それだけは嫌っ!!」


「……そこまで力強く否定しなくても良いじゃないか」


 親切心で提案した意見も一蹴されてしまった。男のプライドをズタボロに引き裂かれながら。


「教室で自己紹介する時さ、緊張しなかった?」


「別に。あんなのただ自分の名前発表するだけじゃない」


「君、凄いね。肝が座ってるというか何というか」


「それよりも1日中周りが騒がしかったのがしんどかったわ。あ~、ウザッ」


「……明日には落ち着くよ」


 誰も想像すらしていないハズ。まさか清楚な転校生がこんな性悪だなんて。


「アンタも黙って見てないで助けなさいよね」


「皆を何とかしろって事?」


「そうよ。私が怒鳴り散らすわけにはいかないでしょうが」


「まぁ…」


 彼女がこの口調で『散れ!』と叫んだらどんな状況になるだろうか。絶句したクラスメート達の姿を思い浮かべた。


「でも助け舟を出したりしたら知り合いだってバレちゃわない?」


「……それはマズいわね」


「でしょ? なら僕は手を出さない方が良いって」


「むぅ…」


 我ながらナイスな言い訳を持ち出す。相方の口から次々にこぼれ出す愚痴を聞きながら家へと帰ってきた。


「ただいま~」


 誰も帰ってきていないのか中からは物音が聞こえてこない。靴を脱ぐと水分補給の為にキッチンへ移動した。


「あ~、イライラするわねぇ」


「落ち着きなって。本当に悪かったからさ」


 彼女が気を遣う素振りを見せずに小言を呟いている。テーブルをひっくり返して暴れそうな雰囲気だった。


「そういや教科書とかどうしたの?」


「まだ貰って無いから隣りの奴に見せてもらったわよ」


「なら良かった」


「アンタのよこしなさいよ。そうすれば見せてもらわなくても済むし」


「いや、だからそれだと今度は僕が困るじゃないか…」


 横暴な性格。まさにガキ大将。


 それからしばらくして帰って来た妹や母親と4人で食卓を囲む事に。父親は仕事の関係で病院の寮に泊まる事になったらしい。

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