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6 抑止と峻拒ー1

「ごめんごめん、待たせちゃったね」


「いえ、呼び出したのは私の方ですから」


 地元の駅にあるファミレスへと足を運ぶ。既に来ていた待ち合わせ相手を見つけると向かいの椅子に腰を下ろした。


「それで用事って何?」


「はい。実は……ていうかどうしてアナタまでいるんですか?」


「付いて来ちゃ悪いのか?」


 座った瞬間に華恋と優奈ちゃんが不穏なやり取りを始める。メンチの切り合いを。


「あ、あの…」


 待ち合わせ場所に到着して僅か十数秒。初っ端からピリピリした空気が漂っていた。


「いらっしゃいませ~。こちらメニューになります」


「あ……ども」


 狼狽えていると緊迫した状況を打破するように店員さんが登場する。マニュアル的な笑顔を浮かべながら。


「さ~て、何を食べようかなぁ」


「あの、コレ…」


「ん?」


 ワザとらしく声を出しながらメニューを閲覧。ページを捲っていると優奈ちゃんが鞄の中から何かを取り出した。


「何これ?」


「今度うちの学校でも学祭やるんですよ。次の週末に」


「へぇ、そうなんだ」


「その招待状です。もし良かったらどうぞ」


「招待状…」


 テーブルの上に置かれた用紙を手に取る。可愛らしい動物のイラストが描かれた黄色い紙を。


「うちの学校、出入りに厳しいのでその招待状が無いと入れないんです」


「え!? 学祭なのに?」


「はい。例え生徒の親兄弟だとしてもそれ無しだと校門で止められますから」


「うへぇ…」


 まさか家族すらも立ち入りに制限が設けられているなんて。セキュリティレベルの違いを実感した。


「いち、にぃ、さん…」


「生徒1人に対してそれが5枚ずつ配られるんです。それで招待したい人に配布するんですよ」


「へ?」


 貰った用紙の数を確認する。その動作が途中で停止した。


「あ、あの……これ5枚あるんだけど」


「はい」


「全部渡しちゃって良いの? 家族の分とか」


「大丈夫です。どうせお父さんもお母さんも来ませんから」


「そうなんだ…」


「このまま無駄にしちゃうぐらいなら先輩に渡して使ってもらった方が有意義かなぁと」


「う、うい」


 ご両親は2人とも忙しいのかもしれない。うちみたいに共働きで常に家を空けているとか。


 だとしても大切な人を忘れていた。彼女にはもう1人家族と呼べる人物がいるハズなのに。


「他の学校の友達に渡す分とかは?」


「平気です。他校の友人には同級生の子があげる予定になってますので」


「なるほど」


「あっ、ちなみに条件があります。うちの兄にだけは何があっても渡さないでくださいね」


「……はい」


 無慈悲な宣告を突きつけられる。同じ兄として同情せずにはいられない台詞を。


「ちなみにこの前うちの学祭に来たのはどうして?」


「先輩が女装するって聞いたので興味が湧いて。日付やら詳しい情報はお兄ちゃんから聞きました」


「そうですか…」


 きっとイベントに招きたくて声をかけたのだろう。女装姿を見られるのを覚悟で。なのに本人の学校には来るなと言われる始末。悲惨すぎて涙も出てこなかった。


「5枚かぁ…」


 1枚は自分の分として残り4枚の使い道を思案する。隣でメニューと睨めっこしている妹に視線を移した。


「あの……行きますか?」


「ふっ」


 予想通りの反応が返ってくる。愚問だと言わんばかりの表情が。


「とりあえず2人分は決定として…」


 華恋を誘うなら香織にも声をかけてあげないといけない。1人だけ仲間外れとか可哀想だから。


 残りは颯太と智沙が無難と判断。自分以外はバイトもしていないので恐らく予定は空いているハズだ。


「ならありがたく貰っていくね」


「どうぞどうぞ。くれぐれも怪しいオークションサイトで転売しないように」


「りょ、了解…」


「私は多分コスプレして校門付近をウロついてると思うので」


「コスプレだとぉおぉぉぉーーっ!?」


「と、突然何ですか…」


「あ……いや、別に」


「華恋…」


 後輩の台詞に反応して隣にいた妹が立ち上がりながら発狂。しかしすぐに頬を赤らめて席に座った。


「うちのクラス、自分達の所持品や自作の人形なんかをバザー形式で販売してるんです。もし良かったらどうぞ」


「へぇ。なら優奈ちゃんは宣伝係ってとこかな」


「まぁそうですね」


 踏み入れた事のない場所。颯太ほど夢や理想を抱いてるわけではないがドキドキせずにはいられない。女の子だらけの状況に飛び込んで行く事に早くも胸踊っていた。


 香織達に声をかけると3人それぞれから了承のメッセージを受信。約1名からは『死んでも行く』という血判状のような返答だった。

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