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5 恥と悦ー1

「うおりゃあっ!! 今日は文化祭でやる出し物を考えるぞ、うおりゃあっ!!」


 担任が教卓に手を突いて熱弁を奮っている。テンションの低いクラスメート達とは結構な温度差で。


「ふぁ~あ…」


 二学期になって登校したのだが再会を分かち合う雰囲気はたった1日で消滅。翌日にはあっという間に普段通りの授業風景へと元通り。緊張感がまるで無かったのでつい欠伸が出てしまった。




「おぃ~す」


「あっ、来た来た」


 昼休みになると中庭に移動する。手に清掃道具を持ちながら遅れてやって来た鬼頭くんを出迎えた。


「学祭の出し物かぁ。どうしよっかなぁ」


「明日までに1人1個考えてこいってね。クラスで話し合って決めれば良いのに」


「まぁクラス全員分の意見を集めてそこから決めるって事なんだろうな。けど何にも思いつかないや」


「僕も。とりあえず無難に喫茶店とか言っておけば良いかなぁとは思ってるよ」


 新学期を迎えたが席替えはまだなので班はそのまま。なので代わり映えしないメンバーでの活動となった。


「喫茶店は定番だよね。他のクラスと被りそうな気もするけど」


「集客を望むなら目を引く物がベスト。かといってあまりにも個性的な出し物だと誰も近寄ってくれないし」


「やるなら準備に時間がかからないのが良いな。喫茶店って何を用意すりゃ良いんだろ」


「カップに材料に……専用のテーブル?」


「テーブルもか。教室の机じゃダメなの?」


「机だと雰囲気が出ないと思うよ」


「あぁ、確かに」


 掃除もほどほどに雑談を繰り広げる。相変わらずサボっている女子2人を視界に収めながら。


「赤井くんのクラスって去年は何やったの?」


「うちはレース大会。コースを繋ぎ合わせてマシンを走らせまくってたよ」


「あ、それ覚えてるわ。俺も行った行った。あれ、赤井くんとこのクラスだったんだ」


「男子がたくさん集まってたんだよね。タイムアタックしてランキング付けたり」


 去年の学祭は異様に盛り上がっていた。買い溜めしておいたパーツをその場で販売したり、マシンの撮影大会を開いたり。


 ただ盛り上がる男子とは反対に女子からは冷ややかな視線が集中。賛否両論な出し物だった。


「丸山くんは良いアイデアある?」


「いや、特には…」


「そっか」


「……ん」


 ついでに近くにいた友人にも声をかけてみる。けれど返ってきたのは素っ気ない対応。


 彼は教室だとよく喋るのに清掃時間の時だけ口数が少ない。いまだに鬼頭くんに対して苦手意識を持っているようだった。


「あれ? もう終わりか」


「全然捗らなかったね」


「まったくだよ」


「さ~て、帰ろ帰ろ」


 適当に雑談を繰り広げているとチャイムが鳴り響く。その音に反応して全員その場を退散。


 教室へ戻りホームルームを受けると自動的に解散の流れに。夏休み明けだから1日の予定がまだ短かった。




「じゃ、じゃあ先に帰るから」


「うぅ…」


「頑張って」


 机に突っ伏している女子生徒に声をかける。脱力感満載の妹に。


「……本当に先に帰っちゃうの」


「ん?」


 立ち去ろうとした瞬間、彼女が体勢を変更。泣きそうな表情でムクリと起き上がった。


「いや、だって僕は宿題完了させたし」


「一緒に残ってやってくれない? せめて終わるまで待っててくれるとか」


「嫌だよ、そんなの。意味ないもん」


「バカ、バカバカバカッ!」


「バカは放置してた華恋だよ…」


 そもそもバイトがあるのだからここに留まっている訳にいかない。居残りさせられるのは自業自得だった。


「ほら、頑張って。健闘を祈る」


「ふえぇ~~ん」


 再び机に突っ伏す華恋を後目に教室を後にする。こればかりは自力で解決するしかないのだから。


「だから毎日少しずつ進めておきなって言ったのに…」


 中身の軽い鞄を引っさげて廊下へ。すると違うクラスの前で思わず足を止めた。


「智沙…」


 席に座って宿題に取り組む数名の生徒が存在している。その中に友人の姿を発見。彼女はうちの妹同様に机に頭をくっつけてうなだれていた。夏バテでも引き起こしたかのように。


「そういえばもう3年生は部活に出なくても良いのか…」


 文化系はともかく、運動部の人達はこの夏に引退している。秋や冬に大会が開かれる以外の部は夏までが活動期限だから。残りの半年間は就活や受験に向けての勉強のみ。つまり3年生にとっての文化祭とは高校生活最後のイベントといっても過言ではなかった。


「……頑張って」


 遠くからエールを送って歩き出す。本人には聞こえない大きさの声で。しばらくすると更に違う教室で足を止めた。


「颯太…」


 机に突っ伏している友人を見つける。やる気なさそうにヘたれ込んでしまっている男子生徒を。


 彼も華恋達と同様の理由で居残りさせられたのだろう。毎年恒例の出来事だが呆れずにはいられなかった。


「どうして皆やって来ないんだ…」


 不運な境遇を嘆きたくなる。類は友を呼ぶを強烈に痛感した瞬間。彼らの仲間入りをしないように願いながら急いでその場を後にした。

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