4 猛暑と土下座ー2
「げっ!?」
「サッカーやろ、サッカー」
「ど、どうやって部屋の中に入って来たんだ!」
「うちのベランダからだよ。窓開けっ放しとか不用心だなぁ」
「おのれぇ…」
しかし自室まで戻って来ると侵入者を見つける。先ほど追い払ったばかりの訪問者を。
「漫画読んでないで早く出ていってくれよ」
「これ全部雅人くんの?」
「そうだよ。そんな事はどうでもいいから出てった出てった」
「じゃあ出て行くから一緒にサッカーやってくれる?」
「やらないって。ほれ」
「ちぇっ……ケチ」
彼女が生意気にも舌打ちで対応。無理やり追い出した後は即座にドアを閉めた。
「ん?」
振り向き様にベランダに何かが置かれているのを見つける。脱ぎ捨てられた子供用の靴を。
「素足で帰る気ですかい…」
窓から投げてやろうかとも考えたが、さすがにそれは可哀想。彼女にとっては親から買ってもらった大切な私物なのだから。
「仕方ないなぁ…」
二足の赤いスニーカーを手に取り部屋を出発。忘れ物を届ける為に一階へとやって来た。
「なに勝手にテレビ点けてるのーーっ!?」
けれど玄関とは全く別の場所でターゲットと遭遇する。騒がしい音声が流れているリビングで。
「電気工事終わったみたいだよ。これでテレビ見られるようになったね」
「あ、本当だ。いつの間に……ってそんな事はどうでも良いから。なに勝手に寛いでるのさ!」
「怒鳴ってないでクーラー入れてよ。このままだと暑くて倒れちゃう」
「まったく……いつからこの家の住人になったんだか」
命令されて動くのは癪に障るが暑いのには同意。リモコンに手をかけ冷房を起動させた。
「今ってこの家、雅人くんしかいないの?」
「そうみたいだね。すみれの家も家族は外出中?」
「そうだよ~、皆、お仕事。私と雅人くんだけが働いてない暇人だね」
「僕は宿題やら何やらで忙しいのだが…」
仮にも受験生で勉強をしなくてはいけない立場。遊んでばかりいられる小学生とは訳が違う。
「お~、涼しくなってきた」
「すみれは宿題やらなくていいの? 夏休み、もうすぐ終わりだよ」
「平気平気。まだこっちの学校の生徒じゃないから」
「え? もしかして前の学校の宿題もこっちの学校の宿題もやらなくて良いの?」
「ふふん、そういう事」
「くっ、羨ましい…」
まさかそんな切り抜け方があったなんて。束縛も無しに1ヶ月以上を過ごせるとか天国状態だった。
「とりあえず家に帰りなよ。すみれんちも電気復旧したハズでしょ」
「だって家に1人でいても退屈なんだもん。だからサッカーやろうって誘いに来たのに」
「こんな猛暑の中を走り回ったら倒れちゃうって。友達誘って行ってきなよ」
「え? 私と雅人くん、友達でしょ?」
「違う違う」
罠にハメるような真似をしておきながら友達面するとは図々しい。いいように利用されてオモチャにされるのが目に見えていた。
「ばぁ~か、ばぁ~か」
「いい加減にしないとゲンコツ喰らわすよ。ほら、ボール持って公園でも行って来なさい」
「呪われて死んじゃえっ、ふんっ!」
テレビの電源を消すと玄関に移動する。滞在者を無理やり追い出した。
「……面倒くさい奴」
今度こそ厄介者を追い払えたので部屋へと戻る。様子を確認する為にベランダに移動。そして道路を覗き見ると家とは反対方向に向かって歩く子供の姿を見つけた。
「えぇ…」
てっきり冗談かと思っていたのに。どうやら本気でサッカーをやるつもりらしい。それか知り合いの家に遊びに行くとか。
しかしよく考えたら彼女はまだ引っ越してきたばかりの環境。知り合いなんてほとんどいなかった。
「……仕方ないなぁ」
タンスを開けて外出用の服に着替える。家中の戸締まりを済ませた後は隣人の後を追いかける為に出発した。
「ぐわっちいぃぃ…」
一歩外に出た瞬間に容赦ない日差しが全身を攻撃してくる。着替えたばかりなのにもうシャツが汗だく。外出した事を早くも後悔し始めていた。




