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3 条件と宣戦布告ー5

「どうしてもうちに行くつもり?」


「そうですね。先輩が自分の口から妹さんにハッキリ言うと今ここで誓わない限りは」


「他の家族もいるからそういう話をされるのは困るんだけど…」


 タイミングが悪い事に今日に限って両親は仕事が休み。こんな状況で喧嘩でもされたら修羅場でしかない。


「なら先輩が自分で言いますか? 束縛をやめて普通になれって」


「だからそれは出来ないよ。やったら修復不可能な関係になっちゃう」


「じゃあ私が言うしかありませんね。大人しく諦めてください」


「えぇ…」


 何故ここまで人様の家庭状況に口を挟んでくるのか。親切心にも感じるが、お節介以外の何物でもなかった。


「あの、やっぱり家に行くのだけは勘弁してくれませんかね?」


「……そうですね。カッとなって飛び出してしまいましたが、先輩の家庭を壊す権利は私にはありませんし」


「な、なら…」


「妹さんを呼び出してください。どこか人がいない場所で話し合いましょう」


「えぇ…」


 一瞬だけ見え隠れした希望もすぐに消滅。自宅に行く事は断念しても華恋に一言ぶつけてやりたい気持ちはブレないらしい。


「はぁ…」


 どこかに諦めの気持ちが浮かんでいるのか。ポケットに伸ばした手が自然とケータイを取り出していた。


「あっつぅ…」


 電車を使って地元の街へと帰ってくる。そのまま指定した待ち合わせ場所へと移動。


 降り注ぐ日差しのせいなのか辺りには人がほとんどいない。これ幸いにと日陰になっている公園のベンチを陣取った。



「……どうしてその子までいんのよ」


「や、やぁ。てか何で日傘?」


「アンタが急に呼び出すから日焼け止め塗ってくる時間がなかったの。それより何でその子と一緒にいるわけ!?」


「す、すいません…」


 しばらくすると白のワンピースを着た妹が姿を現す。手には珍しく日焼け対策アイテムを装備して。


「さっきまで優奈ちゃんの家で遊んでてさ」


「お久しぶりです」


「ふ~ん。2人っきりで?」


「まさか。元々鬼頭くんと遊ぶ予定で、この子はオマケみたいなものだよ」


「んで呼び出した用件って何よ。まさか2人で結託して私に報復するつもりじゃないでしょうね?」


 会話早々に口論を開始。まるで対決でもするかのように向かい合った。


「私が先輩に頼んで呼び出してもらいました。暑い中わざわざすみません」


「……本当、暑い。どうしてファミレスやカフェじゃないのよ」


「周りに聞かれたら困る話らしいので。最初は自宅に伺う予定でしたが、先輩がここに変更しました」


「はぁ?」


 視線を移してきた華恋と目が合う。そこにあったのは口を大きく歪ませた顔だった。


「ま、まぁ色々あって…」


「先輩から話を聞きました。お2人は付き合ってるらしいですね」


「……もしかして言っちゃったの?」


「へへ…」


 適当な薄ら笑いで対応する。焦りのせいで毅然とした態度がとれなくなっていた。


「あっそ。んで、それがどうしたのよ?」


「単刀直入に言います。先輩と別れてください」


「はぁ? 意味分かんない。なんでアンタにそんな事言われなくちゃならないわけ?」


「アナタと先輩は血の繋がった家族なんですよ? 恋愛感情を抱くなんておかしいです」


「おかしくないわよ、別に。世の中には同性や親より年上の相手を好きになる人だってたくさんいるんだし」


「でも先輩が突き放してたのにアナタが無理やり迫ったらしいじゃないですか。お互いが合意の上ならともかく、一方的すぎます」


「無理やりじゃないわよ。ちゃんと告白だってしてくれたんだから。ねぇ、雅人?」


「え? あ、うん。そだね、一応…」


 華恋が再び視線をこちらに向けてくる。睨み付けるような目で。


「アナタがそういう状況を作り上げたんじゃないですか。先輩が優しいから、その性格を利用してそうなるよう仕向けたんですよね?」


「違うわよ! そんな計算なんかこれっぽっちもしてな……い事はない、けど違うからっ!」


「だって変じゃないですか。好きな相手に暴力振るったりしますか? 私ならしません」


「それはアンタには関係ないじゃん。本人達がそれで構わないって思って付き合ってるんだし」


「いやいや、暴力を容認した覚えはないから…」


 発言をすかさず横から否定。まだ痛みが残る頬を手で押さえた。


「無理やり言い寄ったり、暴力を振るったり、行動を制限したり。可哀想だからもうやめてあげてください」


「アンタさ、さっきから何なの? 偉そうにいろいろ口出ししてきて。もしかして雅人の事まだ好きなの?」


「はい、好きですよ」


「ハ、ハッキリ言ったわね…」


「隠しても仕方ないので。それに否定しても信じてくれなさそうだし」


 話がどんどんと転がっていく。どこに繋がっているのか不明な場所へと。


「だからって普通言う? こんな状況で堂々とさ」


「普通は言わないかもですね。でも聞かれたから正直に答えたまでです」


「とにかくアンタの狙いは分かったわ。私から雅人を引き離して自分の物にしようって、そういう魂胆でしょ?」


「そうかもしれないです。でもそれの何がダメなんでしょう」


「アンタみたいな奴はこうやって言うのよ。この泥棒猫っ!」


「……ニャオ~ン」


 当人を無視した会議がヒートアップ。辺りの気温に負けないレベルで白熱していた。


「言っとくけど私達を引き離そうと考えてもムダだからね。もう一生離れないって決めたんだから」


「大声で自慢するのはやめてくれ…」


「もうキスもしちゃったしぃ、デートだってしたしぃ、2人で同じベッドで寝たりもしてるんだから」


「いやいやいや…」


 華恋は自分が優位な立場である事をアピールしたいらしい。武勇伝でも語るかのごとく恥ずかしいエピソードを打ち明けている。それは同時に焦りを感じている証拠でもあった。


「という訳でアンタにこの隙間に入り込む余地なんてないから。大人しく諦めてちょうだい」


「そうでしょうか。案外、隙だらけな気がしますけど」


「はぁ? 今の話を聞いててどうしてそういう考えに辿り着くのよ。頭大丈夫?」


「必死で愚行を自慢してるところとか」


「愚行って何よ、愚行って!」


 掲げた言葉はアッサリとかわされてしまう。まるで意に介さない態度で。


「ちょっと雅人、聞いてんのっ! さっきからボーッとしちゃってさ」


「へ? 聞いてます、聞いてます」


「アンタからも何か言ってやってよ。この勘違い女にビシッと!」


「う、う~ん…」


 そのとばっちりはこちらに飛来。バトンタッチを言い渡されたので隣に立っている後輩と向かい合った。


「先輩は私の事を責め立てたりなんかしませんよね?」


「うっ…」


「今まで一度として喧嘩した事ないですもんね。先輩の優しい性格は把握していますから」


「どうも…」


 彼女が下から覗き込んでくる。何かを訴えかけるように。


 しかしここは心を鬼にするべきだろう。隣に立っている本物の鬼に後で怒られない為にも。


「……ごめん。好意を持たれてるのは嬉しいんだけど、やっぱり華恋の事は裏切れないよ」


「別に縁を切れとまでは言いません。ただ普通の兄妹に戻ってほしいだけなんです」


「世間一般の兄妹が恋愛関係に発展しないとしても、僕と華恋はその一線を越えちゃったんだよ。例えそれが普通じゃないと言われてもさ」


「私がこんなに真剣にお願いしてもですか?」


「うん。変わらないよ、この意見は」


「じゃあチャンスをください。私にもその間に割り込むチャンスを」


「ほ?」


 説得中に状況が変化。真っ直ぐ伸びてきた手にシャツを掴まれてしまった。


「先輩を私の方に振り向かせてみせます。そうすれば妹さんの方を見なくなるハズだから」


「え、え…」


「でも、もしダメだったならその時は諦めます。縁が無かったんだなと思ってキッパリと」


「何々、どういう事…」


 突然の提案に頭が大混乱する。思わず後退りしてしまう程に。その意識が正常に戻ったのは妹が間に割り込んできた時だった。


「おま……コラッ! なに勝手に自分ルール設定してんのよ!」


「私なりの踏ん切りの付け方です。このまま黙って食い下がっても不満が残ってしまうので」


「だからってやって良い事と悪い事があるでしょーがっ! アンタのやろうとしてる事はただの強奪よ。非人道的すぎるわっ!」


「つまり先輩がアナタを捨てて私の方に寝返ると、そう思っているんですね?」


「……そ、そんな訳ないじゃない。んなの有り得ないし」


 正論を並べるが彼女までもがすぐに封殺されてしまう。情けない程アッサリと。


「年内中で構わないです。もし今年中に先輩を振り向かせられなかったら大人しく諦めます。それでどうですか?」


「期限付きって事?」


「そうです。さすがにそれ以上付きまとったらストーカーと変わりないので」


「う~ん…」


 華恋が口元に手を当てて唸り始めた。提案を思案するかのように。


「えぇ…」


 妥協しているとはいえ今の意見は明らかにおかしい。堂々と寝取り宣言をしているようなもの。何一つ正しい言葉は発していなかった。


「……分かった。良いわよ」


「え!?」


「残り4ヶ月の間に雅人の気持ちを動かせなかったら大人しく身を引くのよね?」


「はい。それはもう私の恋が成就する可能性はほぼゼロという事ですから」


「ならそれで手を打ってあげる。このまま話し合いしてても決着つきそうにないし」


「そうですね。頑固なのはお互い様ですもん」


「いやいや…」


 なぜ引き受けてしまうのか。どう考えてもメリットが無い勝負なのに。


 得をするとすれば自分だけ。どちらが勝とうが女の子と付き合えるのだから。そんな悠長な事を考えていると華恋が胸倉を掴んできた。


「アンタ、分かってんでしょうねぇ。もし少しでもこの小娘の方になびいたらどうなるか」


「は、はひぃ……分かっております」


「この前の制裁レベルじゃ済まないわよ。二度と表歩けなくしてやるから」


「そ、そんな…」


 発言がヤクザレベル。その脅しが冗談に聞こえないから怖い。


 とりあえず怪我をするぐらいでは終わらない暴力を振るわれるらしい。想像したら全身が震えだした。


「あんまり先輩をイジめないでください。私の方に振り向いた時に傷だらけだと可哀想です」


「あら、それは大変。でもそんな日は永久に訪れないから心配しなくても良いわよ」


「まるで負け惜しみして逃げ出す雑魚キャラみたいな発言ですね」


「んだと、ゴラァッ!!?」


 優奈ちゃんの挑発に華恋が激昂する。飛びかかろうとしたので後ろから羽交い締めにした。


「いててててっ!? やめなって!」


「今ここで滅ぼしたるっ! クソ生意気なガキんちょがぁっ!!」


「そんな事したらお巡りさんに捕まるし。華恋の反則負けになっちゃうよ」


 彼女の振り回した腕が何度も顔に命中する。人前という状況を忘れて暴走していた。


「先輩、今日からよろしくお願いします」


「え? えと……よろしく」


「私が洗脳を解いて救ってみせます。なので待っててください」


「は、はぁ…」


 そんなやり取りを無視して後輩が接近。至って冷静な態度で話しかけてきた。


「むぅ…」


 自分が洗脳されてる被害者だとするなら華恋が悪の魔王で優奈ちゃんが勇者だろう。確かに各々の性格を考えたら間違えてはいないのかもしれない。ただこの場合、勇者もかなりの身勝手で腹黒だった。


「きぇえぇぇぇーーっ!!」


「頼むから落ち着いてくれぇっ!」


 どちら側に付いても分が悪い。状況を嘆きたくなる板挟みだった。

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