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3 条件と宣戦布告ー4

「えっと…」


「違いますか?」


「違うっていうか…」


「合ってるって事ですね?」


「……はい」


 あっさりと見破られてしまう。今までついてきた嘘も、今からつこうとしている嘘も。


「やっぱり妹さんだったんですね。そうなんじゃないかなぁとは思っていました」


「どうして?」


「薄々感づいてはいたんですよ。私ともう会えないって言ったり、バイトを連続で休んでまで捜しに行った相手がそうだったから」


「なるほど…」


「先輩と妹さんの関係や時期的に考えてもそれしか考えつかなかったんです」


「……君は名探偵ですか」


 まさかこれだけしか無い判断材料でそこまで当てられるなんて。理知的な部分にも驚かされたが、何よりその執念深さに戸惑ってしまった。


 普通、相手の意中の人を突き止めようなんて思わないだろう。嫌がらせでもしてやろうと企まない限りは。


「ごめん、今言った事は全部合ってる。華恋が原因なんだよ。もう2人っきりでは一緒に遊べないって言い出したのは」


「やっぱりそうでしたか。束縛されてるって事ですよね? 超ブラコンの妹さんに」


「束縛……なのかな。どうなんだろ」


「束縛ですよ。自分以外の女性との接触を絶つなんて普通じゃないです」


「いや、他の女性と遊んだりしないように決めたのは僕の意志なんだよね」


「え?」


 素直に気持ちを打ち明ける。全てがバレてしまったので誤魔化す意味を失っていた。


「妹さんに言われてそうしてるんじゃないんですか? 強制的っていうか無理やりに」


「うぅん、違うよ。あくまでも個人的な決断」


「そんな…」


「シスコンって思われるかもしれないけど好きなんだよね。華恋の事が」


「それはライクで?」


「う~ん……どちらかと言えばラブの方に近いかな」


「……じょ、冗談ですよね」


「あっはは…」


 答えを濁すようにヘラヘラと笑う。気まずさが漂う空気の中で。


「本気なんですか、それ? 信じられないんですけど」


「恥ずかしながら本当の話なんだよ。なんかもう華恋なしの人生は考えられないっていうか」


「ただの勘違いじゃないんですか? どうして急にそういう結論に達したんですか?」


「え~と、華恋が家からいなくなって捜し回って…」


 数日間バイトを休んでいた間の出来事をかいつまんで説明。照れくさい記憶を赤裸々に打ち明けた。


「それでお互いの気持ちに素直になったてな流れかな。うん」


「それやっぱり勘違いですよ。先輩は妹さんに洗脳されてるんです」


「……えぇ。別に催眠術にかけられた覚えはないんだけど」


「いいえ、私の意見が正しいです。先輩が間違ってます」


「いやいやいや」


 軽く口論になる。グラスに入ったジュースに口をつけながら。


「先輩はずっと兄妹でいる事を望んでたんですよね? だから冷たく突き放してた」


「そうだね。でも華恋がいなくなるぐらいなら、その関係を壊してもいいかなって思ったんだよ」


「それです。それこそが妹さんの狙いなんですよ」


「へ? どゆこと?」


 彼女の手の位置が移動。伸ばした人差し指を顔に向けてきた。


「私の方に振り向いてくれないなら消えてやる。そうなりたくないなら大事にしろって意味ですよ」


「脅迫って事?」


「そうです。先輩の優しさを利用してるんです」


「それはさすがに考えすぎじゃ……華恋はただ単に悲しかったから家出しただけだと思うし」


「ならもし私が余命3カ月の身で、最後に一緒にタワーに行ってほしいとお願いしたら先輩はどうしますか?」


「う~ん、それは心が折れちゃうかも…」


「ほらぁ」


「むぅ…」


 理詰めされると自信が無い。あの時に選んだ道は、もしかしたら選ばざるをえない選択肢だったのかと。


 確かに彼女の言う通り華恋が家出をしなかったら告白なんてしていなかったハズ。あの妹がそこまで計算していたとは思えないが、決断に迷いが浮かんできてしまった。


「そもそも周りの人達にその事実を隠そうとしてる時点で、自分達のやっている事が間違っていると自覚しているハズです」


「そりゃだってバレたら困るもん」


「仮に私とお兄ちゃんがお互いにそういう感情を抱いてたら、先輩はどう思いますか?」


「え~と、やっぱりビックリするかな」


「たぶん敬遠しますよね? 私達の事」


「……かもしれない。少なくともこうして遊びに来る事はないかも」


 もし父親が華恋や香織に家族以上の感情を抱いたとしたら。その状況を想像するだけで焦りにも近い不快感が込み上げてきた。


「だから言ってるんです。今の先輩達の関係は普通じゃないんですよ」


「うっ…」


「悪い事は言いません。妹さんの束縛に素直に従ってたらダメなんです」


 指摘通り今の関係は続けるべきではないのかもしれない。自分の為にも周りの人間達の為にも。


 けど今更どうしろというのか。関係性を再び兄妹に巻き戻したら華恋は二度と戻って来てはくれないのだから。


「……優奈ちゃんの言いたい事は分かったよ。けどやっぱり無理」


「妹さんの歪んだ愛を受け入れるんですか?」


「だってさ、元々他人だと思って過ごしてたんだよ? そんな簡単に割り切れないって」


「それでも割り切らないといけないんですよ。それが妹さんの為でもあるんですから」


「ん~、けど…」


「先輩が言えないっていうなら私から言ってあげます。妹さんに直接」


「は?」


 目の前の人物がガラス張りのテーブルに手を突く。そのまま勢い良く立ち上がった。


「今からでも良いですか? 先輩の家に行くの」


「ちょ、ちょっと待って。華恋に会うつもりなの!?」


「そうですよ。私がビシッと言ってあげます」


「いや、それは非常にマズイんですが…」


 元々険悪な関係の2人なのに今は自分自身とも喧嘩中。こんな最悪な状況で突撃したらバトルになるのが目に見えていた。


「着替えてくるから2、3分待っててください。すぐに戻ってきますから」


「ちょ、ちょっと待って…」


 止めようとするが間に合わず。後込みしている間に小さな背中は二階へと消えてしまった。


「ヤバい、どうしよう…」


 今のうちに退散してしまっても良いのだが彼女は自宅を知っている。自分がいない時に華恋と会ってしまう方がマズい。


 頭の中で必死に言い訳を模索。しかしハッキリとした作戦が決まらないうちに着替えを済ませた後輩が下りて来てしまった。


「お待たせしました。では行きましょうか」


「お兄ちゃんどうするの?」


「あんなの放っておけばいいですよ。私達が仲良くしてたら満足みたいですから」


「それは可哀想な気が…」


 玄関へと歩き出す背中の後を追う。住人が外出するのに部外者が残っている訳にもいかないので。


「あちぃ…」


 炎天下の街中を並んで歩行。容赦なく降り注ぐ日差しも苦しいが、それ以上に現状が甚だしく困難だった。


「ん…」


 今のうちに相方に家から逃げるよう連絡するか。それとも隣の後輩を落ち着かせて諦めさせるか。


 けれど彼女の決意は固いから説得は難しい。華恋に連絡したとしても喧嘩中なので素直に指示に従ってくれるとは思えなかった。

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