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3 条件と宣戦布告ー3

「よっと」


 翌日、バイトが休みなので友人の家を訪れる。汗ばんだ手を伸ばして玄関のインターホンをプッシュした。


「おぉ、いらっしゃい」


「お邪魔します」


 しばらくすると中から鬼頭くんが出てくる。メールで呼び出してきた張本人が。


「バイトどう? 大変?」


「モーニングとランチは忙しいかな。それ以外の時間はそうでもないけど」


「優奈の奴、結局また同じ店で働き始める事になったんだよね。アイツ、ちゃんと役に立ってる?」


「そりゃもう。いるのといないのとでは全然違うよ」


「ふ~ん、でも休みの日は相変わらず部屋に引きこもってんだよな。おーーいっ!」


 廊下を歩いてる途中で彼が停止。口元に手を添えると二階に向かって大声で叫んだ。


「赤井くんが遊びに来たぞ! お前も下りて来いよ!」


「あ、あの……無理して呼ばなくても良いんじゃないかな」


「一緒に遊ぼうぜ! 先にリビング行ってるからなぁっ!」


 呼び掛けも無視して勝手な招集が行われる。現状ではあまり好ましくない催促が。


「……ったく、やかましいなぁ」


 宣言通り先にソファに腰掛けていると二階から住人が登場。Tシャツに短パンというラフな出で立ちの女の子が姿を現した。


「おぅ、来たな。こっち来て座れ」


「わざわざ家の中で叫ぶ事ないじゃん。大声出さなくったって聞こえてるんだし」


「お前もなんか飲む? オレンジジュースで良いか?」


「ちょっと人の話聞いてる?」


 寝起きなのか、それとも不機嫌だからなのか。彼女の目が普段よりも細目に変化していた。


「お、お邪魔してます」


「どうも…」


 互いに存在を認識した瞬間にぎこちない挨拶を交わす。2人きりだと平気なのに鬼頭くんがいる手前どことなく不穏な空気が漂っていた。


「コンビニでアイス買って来るけど何がいい?」


「えっと、僕はどれでもいいや」


「なら赤井くんのは適当に選んでくる。お前はイチゴ氷で良いんだよな?」


「……別に暑くないからいらない」


「んじゃ行ってくるわ。留守番よろしく~」


 テーブルにグラスとジュースが並べられたかと思えば持ってきた人物はすぐに外出してしまう。訪問から5分足らずしか経過していない状態で退散してしまった。


「どう思います? あのバカ」


「これでも必死に気を遣ってくれてるんじゃないのかな」


「こんなワザとらしい真似するぐらいなら最初から普通に遊べば良いのに。本当にバカなんだから」


「そ、そこまで罵らなくても…」


 鬼頭くんの一連の行動は不自然でしかない。敢えて2人きりにさせようとしているように感じた。


「じゃあアイツが帰って来る前にどこかに出掛けちゃいましょうか」


「それは可哀想すぎるよ。せっかくこの暑い中、買い物に行ってくれてるのに」


「どうせまた立ち読みで遅くなるから平気です。それより大丈夫なんですか?」


「え? 何が?」


「だから私と2人っきりになってるこの状況が」


「……あぁ」


 友人の家に遊びに来たのだから問題ない。そこでたまたま家族の人と2人きりで残されてしまっただけ。しかしそれはあくまでも体裁上の理由。華恋にこの現場を見られたら怒られるに決まっていた。


「平気だよ。別にデートって訳でもないし」


「そういえばまだ告白してないんでしたっけ? フリーならセーフですね」


「そ、そうそう…」


「昨日のエピソードが全て本当であればの話ですが」


「へ?」


 ふいに意味深な言葉を投げかけられる。グラスに伸ばした手の動きが止まってしまうような内容の台詞を。


「あれからずっと考えてたんですよ。先輩が言ってた人が誰なのかって」


「……暇だね。もっと他の事に時間を費やせば良いのに」


「夏休みに入ったばかりの頃は普通に私と遊びに行く約束を取り付けて来たのに急にキャンセル」


「だ、だからそれは…」


「部活にも所属してない先輩が学校に行く予定も無いのに突然同級生に好意を抱き始めるのはおかしいなぁと」


「うぐっ…」


 望んでいない事情聴取が開始。その口調はまるでドラマに登場する探偵のようだった。


「もちろんバイトが休みの日に相手の女性と連絡を取り合ってる可能性もあります。でもそれなら既に告白は済んでいて交際してる状態ですよね?」


「いや、ただの友達同士の付き合いかもしれないじゃん」


「恐らく先輩は自宅とバイト先の往復以外はほとんど外出をしていません。なら相手はその2つのどちらかに関係する人じゃないですか?」


「そ、それはどうだろうか…」


「瑞穂さんは彼氏いるって言ってたし、恵美なら私に報告してるだろうし……だとしたらバイト先の関係者ではないハズ」


「ん…」


 嫌な未来が脳裏をよぎる。考えうる最悪の状況が。


「あの、間違ってたらごめんなさい。もしかしてその相手って……妹さんの事ですか?」


「げっ…」


 そしてその予感は見事に的中。彼女は躊躇いながらも核心に迫る言葉をぶつけてきた。

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