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2 天使と悪魔ー4

「……お腹空いてきちゃったぁ」


「お昼はどうしたの? 何か食べたの?」


「ん~と、ポップコーンとラスクとゼリーかな」


「え? それだけ?」


「あれ? 少ないですかね?」


 1時間近くが経過した頃に状況が変化する。来客が体調異変の不満を漏らし始めた。


「ラ、ラーメンなら作れるけど?」


「ん~、でも今食べちゃうと晩御飯が入らなくなっちゃうし」


「あ、そっか」


「あと知らない人から食べ物を貰うなってお母さんにも言われてるから」


「知らない人ねぇ…」


 いくらご近所さんとはいえ彼女の両親から見たら自分は他人も同然。勝手に食料を与えるのは様々な理由でマズいらしい。


「雅人くんはいつもお母さんにご飯作ってもらってるの?」


「そだね。あとは妹が用意してくれたり」


「良いなぁ。私はいつも冷凍食品ばっかりだよ」


「お母さんって何やってる人なの?」


「分かんないです。ただ会社の偉い人とか何とか」


「管理職とかかな…」


 もしくは自分のお店を持っている経営者という可能性もある。会社の付き合いや残業で両親共に遅くなってしまうかもしれない。


 我が家も同じような境遇だから共感出来た。帰って来ても誰も出迎えてくれない淋しさが。


 高校生の自分達は既にその環境に慣れてしまったが目の前に座っている女の子は違う。まだ親の愛情に飢えている年頃だった。


「お姉ちゃんは料理上手なの?」


「下手くそです。お母さんもあまり上手くないし」


「壊滅的だね…」


「お父さんの方がまだマシかな。面倒くさがり屋だから作らないけど」


「こっちに引っ越してきたのはお父さんかお母さんの会社の都合?」


「違いますよ。前はマンションに住んでたんだけど一軒家に引っ越したんです」


「あぁ、夢のマイホームってヤツか」


 以前住んでいた街はここからあまり離れていないらしい。話を聞くと車で30分も走れば辿り着ける場所だった。


「お姉ちゃんは学校そのままだけど私は転校しないといけなかったんですよ」


「そうなんだ。義務教育はその地域の学校に通わないといけないからね。私立でも通ってない限り」


「あと半年で卒業だったのに。どうしてこのタイミングで引っ越すかな…」


「ほう。なら今は6年生なんだ?」


「そうそう」


 いつの間にか互いに手を止めて会話に没頭する。愚痴を交えた発言の応酬へと。


「お父さんもお母さんも私やお姉ちゃんにはいろいろ言うクセに、自分達は何も守らないんだよ」


「いろいろ言うのは子供の事が心配だからさ。理不尽に感じる事は多々あるけども」


「好き嫌いするなって言うクセに、お店で出された料理が美味しくないと残すし。どう思う?」


「あはは、それは勝手だね」


「お姉ちゃんも最近はカレーばっかで手抜きの連続。本当にみんな自分勝手なんだから」


「カレーは美味しいからそれは別に良いんじゃないかな、うん」


 しっかりしてそうな子とはいえ不満はたくさん存在。鬱憤が相当溜まっていたのが怒りを含んだ口調で分かった。


「ねぇ、プロレスごっこやろ」


「へ? 何で?」


「いいから、ほら!」


「ちょっ……イデデデデデッ!?」


 突然立ち上がった対話相手に腕を絡め取られる。そのまま背後に回られた事で肘や肩にダメージが発生した。


「ギャハハハハハ!」


「痛いからそろそろ離して!」


「ギブ? ギブ?」


「ギブアップでお願いします!」


 即席の試合は開始から僅か数秒で決着する事に。降参の意思を示す形で手をブンブンと振った。


「雅人くん、弱すぎ~」


「いきなりやられたら誰だって反応出来ないって」


「じゃあ次は私が技をかけられる番ね」


「え? まだやるの?」


「当然。さぁ来い!」


 目の前にいる人物は妙に滾っている。空腹感を吹き飛ばしそうな勢いで。


「うりゃーーっ!!」


「ちょっと髪の毛が引っ掛かってる!」


「あ、ごめんごめん」


「隙あり!」


「ひ、卑怯者…」


「はははは、油断するそっちが悪いのだ!」


 仕方ないので子供の暇潰しに便乗。最初は妥協しての参戦だったが途中からは目的が変更。状況を忘れて夢中になっていた。


「はぁ、しんど…」


「ねぇねぇ、早く続きやろうよ~」


「少し休憩……疲れちゃった」


「え~」


 とはいえ子供と帰宅部の学生では体力も回復力も違う。床に寝転がった瞬間に心臓が爆発的にヒートアップした。


「さっきさ」


「ん?」


「私のお尻触らなかった?」


「いや、触ってないし」


「本当かなぁ。怪しい…」


「触れたとしても不可抗力だって…」


 息切れしていると有り得ない疑惑をかけられてしまう。無実と証明するのはほぼ不可能な疑いを。


「エッチ、すけべ」


「ぐっ…」


「変態、ロリコン」


「だからそれは…」


「お巡りさんに通報しちゃお~っと」


「コイツ!」


「ギャーーっ、怒った!」


 敢えて挑発に乗っかってみる事に。首に腕を回し、更に足で体を固定した。


「やだやだ、もう!」


「そういう悪い事を言うと本当に触っちゃうぞ!」


「キャハハハハッ! やっぱり雅人くんは変態さんだった」


「ほれほれ、抵抗してもムダだぜ。お嬢さん」


「やだぁあぁぁっ! 誰か助けてぇーーっ!!」


 2人して無邪気にハシャぐ。数時間前に自己紹介したばかりという間柄を忘れて。


 疲れはするが気分が不思議と清々しい。ついでに懐かしさまで湧き出してきた。


「……は?」


「げっ!」


 悪役になりきっているとすぐ隣にある襖がゆっくりと開かれる。内側からではなく外側から。その先には1人の人物が存在。帰宅した華恋が唖然とした表情でこちらを見下ろしていた。

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