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2 天使と悪魔ー3

「んしょっと…」


 一段落ついた後は自室でベトベトのシャツを脱ぐ。いつもならシャワーを浴びるのだが今日は着替えるだけで終了。


「雅人くんも一緒にテレビ見ようよ」


「え? あ、うん……ていうかどうして名前知ってるの!?」


「ん? だっていつも一緒にいる人が呼んでるじゃない。雅人~って」


「……あぁ、華恋か」


「あれ? もしかして違った?」


「いや、合ってるよ。よく覚えてたね」


 そしてリビングに戻って来た後は衣類をカゴの中へ。続けて女の子と会話を始めた。


 もしかしたら自宅での会話が漏れていたのかもしれない。夏場は窓を開きっぱなしの時もあるし、華恋は声が大きいから。


「ねぇねぇ、雅人くんは私の名前知ってる?」


「いや、分からないよ」


「知りたい? 知りたい?」


「まぁ…」


 ソファに腰掛けて親しくもない児童と交流を図る。年齢が離れているので親戚の子供と戯れる気分で。


「すみれっていうの。可愛いでしょ」


「すみれ……花の名前の?」


「そうじゃないかな。どんな花かは知らないけど」


「結構難しい字だった気がする…」


「私の名前は漢字じゃないよ。平仮名ですみれ」


「あ、そうなんだ」


 言葉を重ねる毎に彼女の口調が馴れ馴れしい物に変化。少々の戸惑いはあったが、見知らぬ人間に挨拶する性格を考えたら納得出来た。


「キャハハハハ!」


「面白い?」


「うん。面白いよ~」


 その後は2人でゲームをやる事に。いい時間潰しになると判断して。


 ただ途中からは彼女が1人でプレイ。バイト後の疲労が原因で早々にギブアップ宣言を出していた。


「……すみれちゃんの家族は何時頃に帰って来るかな」


「ん~、分かんないです」


「お父さん達よりお姉ちゃんの方が早い? 何時ぐらいに帰って来るか分かる?」


「いつも夜遅くなってから帰って来ます。お姉ちゃん、部活やってるから」


「あっちゃあ…」


 だとしたら家族が帰って来るのは早くても日が沈んでからになる。それまでこの子を家で預かっておかなくてはならないらしい。


「遅いなぁ。母さん達…」


 ソファから首だけ出して廊下を凝視。期待している助っ人が誰も現れてはくれなかった。


「ねぇ、雅人くんはやらないの? ゲーム」


「え? あぁ、良いよ。お兄ちゃんはいつもやってるし」


「ん~、でも飽きてきちゃった……です」


「マジですか…」


 予想よりかなり早い。まだ1時間はこれで粘れると思っていたのに。


 辺りを見回してみたが暇潰し出来そうなアイテムは皆無。チャンネルも変えてみたがサスペンスドラマと通販番組しか放送していなかった。


「なら漫画でも読む? 上の部屋に行けばあるけど」


「ありがとうございます。私、漫画大好きなんです」


「へぇ、そうなんだ」


 ゲームの電源を落とすとリビングを出る。廊下を歩き階段へと移動した。


「あのさ、少年漫画と少女漫画ならどっちが良い?」


「少女漫画です。男の子向けのは読んだ事ありません」


「だよねぇ…」


 しかしその行動は途中で中止。引き返す為に上がってきた段差を戻った。


「こっちこっち」


「うん」


 部屋主に許可は得ていないが仕方ないだろう。華恋には無断で客間へと侵入した。


「その辺にあるの適当に漁っちゃって良いよ」


「わぁ~、いっぱいある。全部雅人くんの?」


「いや、妹の。ここ妹の部屋だから」


「凄いなぁ。私とお姉ちゃんのを合わせた数より多いかも」


 彼女が部屋の一角に手を伸ばす。乱雑に積まれたコミックの山へと。


「あ、ここで読む?」


「え? ダメ?」


「ダメっていうか、その……まぁいいか」


 この子なら荒らす可能性も低い。リビングに引き返そうとしていた意思をかき消した。


「ふぅ…」


 床に体育座りする女の子を視界の中に収めながら学習机の椅子に腰掛ける。ポケットからスマホを取り出すのと同時に。


「ふぁ~あ…」


 その後はしばらく言葉を交わさないまま過ごした。それぞれ読書とゲームに夢中になりながら。

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