2 天使と悪魔ー2
「し、死ぬ…」
平日の昼間、いつものようにバイトを終えて帰宅する。珍しくランチ後にあがらせてもらう優遇っぷり。だが容赦なく降り注ぐ日差しのせいで足元がフラついていた。
「……いないか」
待ち人の有無を確認する。いつの間にいるかいないかの賭けを心の中でするようになっていたので。
「こんにちは」
「どうも…」
しかし今日はターゲットは道路ではなく別の場所に存在。玄関先の日陰で静かに佇んでいた。
「お帰りなさい。どこかに出掛けてたんですか?」
「え~と、バイトが終わって帰って来たとこ」
「そうなんですか。お疲れ様です」
「ありがと…」
立ち止まっていると女の子が小走りで近付いて来る。労いの言葉を口にしながら。
「あ、あの…」
「ん?」
動揺している事を悟られないよう退散を決意。その瞬間に再び声をかけられた。
「お兄さんの家に行っても良いですか?」
「は? どうして?」
「ん~と…」
「もしかして自宅に入れないとか?」
「え?」
「あれ? 違ったかな」
「そ、そうなんです。実は閉め出し喰らっちゃって」
咄嗟に思い付いたシチュエーションを口にする。子供がよく出くわすトラブルを。
「あらら、それは大変だね。中に誰もいないの?」
「はい。お姉ちゃんも部活で留守にしてますし」
「お父さんかお母さんは?」
「2人とも仕事です。夜まで帰って来ません」
「むぅ、そうか…」
この子のお姉さんは何度か見かけた事があった。自分と同じ年ぐらいの女性。けれど接点もないので連絡先を知らなかった。
「ケータイの番号とか分かる?」
「いえ、全く」
「う~ん、それは弱ったなぁ…」
とりあえず今すぐに家へと入れる方法は無いらしい。ゼロではないが実行してはマズいだろう。ガラスなんて割ったら大騒ぎになってしまうだけだった。
「ダメですか?」
「そ、それは…」
顎に手を当てて思考をフル回転させる。ジュース代ぐらい与えるべきか考えていると女の子が下から何かを訴えかけるような眼差しを向けてきた。
「……良いよ。うちに行こう」
「本当ですか!?」
「ここにいたら暑いからね。家の中なら冷房が効いてて涼しいし」
「ありがとうございます。嬉しい!」
さすがにこの猛暑の中で子供を1人きりで放置する訳にはいかない。覚悟を決めて道路を歩き出した。
「ただいまぁ」
鍵を差し込むと玄関の扉を開ける。奥にまで聞こえる声で挨拶をしたが返事が返ってこなかった。
「げっ、誰もいない!」
運悪く全員が外出中と判明。靴箱から主な履き物が消えていた。
「入って」
「お、お邪魔します」
とはいえ今更お客さんを追い返す訳にはもいかず。中へ入るよう促すと2人でリビングに移動した。
「あっつぅ…」
窓もカーテンも閉められた部屋はサウナ状態に近い。鞄をソファに置くのと同時にクーラーの電源を入れた。
「どっかその辺に適当に腰掛けてて。なにか飲み物持ってくるから」
「あ、はい。ありがとうございます」
テレビの電源も入れた後は洗面所に向かってベタついた肌を洗う。朦朧としていた意識を覚ますように。
「ん~」
続けてキッチンに寄って冷蔵庫の中を物色。サイダーの缶ジュースが1本だけ入っているのを見つけた。
「……お茶でいっか」
紙パックを取り出して二つのグラスに注ぐ。こぼさないように気を付けて。
「はい、お待たせ。飲んでいいよ」
「ありがとうございます」
氷を3個ずつ加えるとリビングに帰還。クーラーの前で両手を広げていた女の子に声をかけた。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ…」
「ぶはあぁぁーーっ!」
2人でキンキンに冷えた麦茶を一気飲み。よほど喉が乾いていたのか彼女のグラスの中身はあっという間に空になった。
「おかわりいる?」
「え~と…」
「遠慮しなくても良いよ。まだあるから」
「ありがとうございます…」
半ば強制的にグラスを奪い取る。再び麦茶を注いでテーブルの上に置いた。
「チャンネル変えていいよ。はい」
「大丈夫です。特に見たい番組とかないので」
「そんなに気を遣わなくても。好きなアニメとかドラマとかさ」
「この時間ってワイドショーかサスペンスドラマしかやってないんですよね。だからいつも退屈なんですよ」
「あ、そっか」
普段ならこの時間帯はバイトか、家にいてもゲーム三昧。基本的に主婦層に向けての番組だらけなのでテレビを視聴してる事が少なかった。




