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1 白昼夢と自己顕示欲ー4

「テンションやばいわ。楽しすぎ、デヘヘヘヘ」


「ヨダレ垂れてるよ」


「おっと、うっかり!」


 それから2人で当てもなくブラブラと歩く。時には撮影をお願いし、時には撮影を頼まれ笑顔を振りまきながら。


 声をかけてきたのが女性、もしくはカップルなら何とも思わない。しかし相手が男だとどうしても身構えてしまった。


 下心満載の目で舐めまわしているんじゃないか。スカートの中を盗撮しようと企んでいるんじゃないか。心の中で様々な思惑と葛藤していた。


「あっ、もずくちゃん発見」


「ん?」


 しばらくすると声を張り上げた華恋が突然駆け出す。その先には似たようなコスプレ衣装に身を包んだ集団が存在。


「ふぅ…」


 どうやら去年も顔を合わせたお友達らしい。自分は彼女達と面識が無いのでその場に留まった。


「颯太いないなぁ」


 同じく1年前にバッタリと出くわした知り合いがどこにもいない。見逃しているか、それとも来ていないのかは不明だが。


「雅人、こっち来て」


「……えぇ」


 水分補給していると華恋が振り向きながら声をかけてくる。わざわざ手招きまで加えて。そのせいで周りにいる女性達の視線がこちらに集中。こんな状況で逃げ出す訳にもいかないので素直に歩み寄った。


「ど、どうも…」


「この人、いつも言ってる人」


「ちょっ…」


「約束通り連れて来たよ。だから言ったでしょ? 本当だって」


「何々、なんなの…」


 強引に腕を絡めとられる。戸惑う反応を無視して。


 ほぼ初対面でしかも相手は女性の集団。緊張しない訳がなかった。


「大人しいけどね、優しいんだ」


「キャーーっ!!」


「羨ましいか! 羨ましいか!」


「羨ましいーーっ!!」


 華恋の一語一句を聞いて女性達が興奮する。アイドルコンサートに来ている観客のように。


「欲しい? 欲しい? あげな~い」


 そして彼女達に負けないぐらい隣の妹もハイテンション。自宅でもあまり見せない上機嫌っぷりだった。


「へへ、へ…」


 恐らく前々から自分達の関係について話していたのだろう。自慢目的で。


 生き別れの双子なんて恰好の妄想ネタでしかない。晒し者のような立場に不満はあったが必死で愛想笑いを浮かべた。


「私の彼氏、可愛いでしょ」


「は!?」


「今日もね、私を1人で行かせるのが心配だからって付いて来てくれたの。やっさしいでしょ~」


「え、え…」


 しかし隣から聞こえてきた言葉に耳を疑う。あまりにも内容が突飛すぎて。


「今朝も手を繋いでここまで来たんだよ。やぁだっ、恥ずかしい!」


 周りの情報が一気にシャットダウン。お友達の声も騒がしい雑音さえも。


 結局、彼女達とお喋りを続いている間中ずっとただの玩具扱い。頭の中は茫然自失だった。



「いいからこっち!」


「ちょっ……そんなに強く引っ張らないで」


 そして再び2人きりの状況に戻ると相方を手を引く。隔離された狭い空間へと移動する為に。


「何よ何よ、人気のない場所に連れて来たりして。もしかして私の激しい衣装に欲情しちゃった?」


「さっきのどういう事!?」


「さっきのって皆に紹介したアレ?」


「そうだよっ! あの子達に彼氏だって言ったの!?」


「え? ダメだった?」


「はぁ…」


 問い詰めに対して彼女が平然とした様子を見せてきた。どうやら事態を把握していないらしい。


「ダメに決まってるし。もし他の人にもバレたらどうするのさ!」


「大丈夫だって、あの子達とはネットでしかやり取りしてないから。リアル知り合いとは繋がってないもん」


「いや、そういう問題じゃなくてだね…」


 この関係は2人だけの秘密で留めておかなくてはならない。うっかり誰かにバラした事がキッカケで全ての情報が漏れる危険性も孕んでいるので。


「そんなに神経質にならなくてもいいじゃん。平気だってば」


「ネットに晒すって事は、いつ誰が目にしてもおかしくないんだよ? 万が一知り合いに見つかったらヤバいじゃないか」


「私、個人を特定されるような情報は載せてないから大丈夫。写真アップする時もウィッグ被ってるし」


「でもバレる可能性だってゼロじゃないでしょ? 何て事してるのさ」


「む…」


 幸せをひけらかしたい気持ちは充分に理解出来る。自分だって出来る事ならそうしたい。だけどしてはいけない。そういう自慢が出来ない関係性だからこそ今まで苦しんできたのだから。


「そ、そこまで怒らなくても良いじゃん」


「だからってやって良い事と悪い事があるって」


「分かってるってば。だけどさぁ…」


 彼女が口を尖らせながら文句を連発。言葉では受け入れていたが表情は明らかに納得していない物だった。


「とにかく、これからは軽々しく口にしないでくれ。お互いの為に」


「……はぁ~い」


「ふぅ…」


 あまり説教ばかりするのも可哀想なので適当に打ち止め。せっかくなので楽しむ方向に意識を切り替えた。


「ちなみに何人ぐらいの人に話したの?」


「え~と、70人か80人ぐらい」


「ひえぇっ!?」


「私、結構人気なんだよね~。フォローしてくれてる人が数千人レベルでいるし」


「もう本当に勘弁して…」


 予想を遥かに超える人数にたまげる。せいぜい数人程度と覚悟していたのに。自分の知らない所でそんな大勢の人達とコミュニケーションをとっていたなんて。


 きっと彼女は分かっていない。その軽々しい覚悟がいつか自分達を破滅へと導く事を。半端な気持ちで上手くいくなら家族を好きになる事に躊躇いはしなかった。


「はぁ…」


 まさかこんな近くに爆弾を抱えていたなんて。幸せになるかと思っていた恋人生活の始まりは人生の転落。つまり修羅場へのスタートだった。

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