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1 白昼夢と自己顕示欲ー2

「雅人、明日デートしよ」


「アイタタタタッ、お腹が!」


「あれ? もしかして毒が早く効いてきちゃったかな」


「ちょっ…」


 バイトから帰宅後の風呂上がり、華恋に声をかけられる。入れ違いに香織がトイレへと入って行ったタイミングで。


「明日ってバイト休みだよね?」


「そうだけど……どこか行きたい場所でもあるの?」


「うん。まだこっちに帰って来てから2人で出掛けた事ないでしょ? だからデートしたいなぁと思って」


「う~ん、でもなぁ…」


 嬉しいお誘いだが黙って頷く訳にはいかない。原因は全身に蓄積された疲労。


 しばらくサボってしまった代償としてシフトを多めに入れられていた。しかも前回の休みは皆で遊園地にお出掛け。楽しくてハシャいだ時の反動と夏の暑さのせいで体が長期的な休息を欲していた。


「どうして渋った顔すんのよ。嫌なの?」


「嫌……ではないんだけど体がダルいというか」


 濡れた頭にタオルを巻く。冷蔵庫を開けると中から缶のトマトジュースを取り出した。


「明日じゃなきゃダメなの! だから行こ。ね?」


「でも本当に疲れてるんだってば。今だって眠たくてフラフラしてるし」


「シャキッとしなさいよ。まだ若いんだからさ~」


「そんな事言われても。ちなみに明日は何があるの?」


「コスプレイベント」


「……あぁ、あれか」


 1年前の記憶を思い出す。華恋と共に参加した催し事を。どうやら去年より開催時期がズレて夏休みになったらしい。


「今しかイベントやってないんだって。だから行こ行こ行こ~」


「そんなに参加したいなら1人で行ってきなよ。僕は楽しめそうにないし」


「やぁ~だぁ~、雅人と一緒に行きたいのぉ」


「今年もまたコスプレするの?」


「そだよ。もう衣装は買ってあるから」


「用意周到ですな」


 自分の好きなイベント事なら余計に参加したいだろう。だからこそ足手まといなんか放っておいて1人で楽しんで来てほしかった。


「なんでそこまでして拒むのよ。私とデートするのがそんなに嫌なの?」


「だからそうじゃないんだってば。疲れてるだけ」


「私のコスプレ姿とか拝めるんだよ。見たくないの? ねぇねぇ」


「み、見たいっす…」


 興味がない訳がない。ただそれ以上に睡眠が欲しいだけ。


「ほら~、見たいんじゃん。なら行こうよ」


「サイトの友達と会ったりはしないの? 去年みたいに」


「会うよ~。お揃いの衣装を着ようってもう決めてあるもんね」


「だったら僕が付いていく必要ないじゃないか。その友達と廻ってきなよ」


 知らない人達と顔を合わせるのは勘弁。相手が女性となれば尚更だった。


「友達は友達、雅人とは別なの。だから無理やりにでも付いてきてもらうからね」


「嫌だよ。朝起きられそうにないし」


「言い訳は通用しませ~ん。起きなかったら叩き起こしま~す」


「脅す気? そんな事言われたら余計行きたくなくなるって」


「やぁあぁだっ! 絶対一緒に行くの!」


 彼女が持っていたクッションを振り回す。飲みかけのジュースに当たらないように腕を使ってガードした。


「ワガママばかり言わない。子供じゃないんだからさ」


「行かないと死んじゃう。行こ行こ行こ~」


「じゃあ大人しく死んじゃえばいいと思うよ」


「……は?」


 事態に収束が見えないので適当にあしらう。缶の飲み口を顔に近付けながら。


「がっはぁっ!!?」


「どうしてそんな事言うのよぉっ!」


「か……か、かっ!」


 その瞬間に凄まじい攻撃が飛んできた。手加減なしのボディブローが。


「雅人のバカぁぁあぁあぁぁぁっ!!」


 暴行犯が喚きながら逃走する。立ち去る足音を耳に入れるのと同時に床に倒れ込んだ。


「うぐぐ…」


 ついポロッとふざけた言葉をこぼしただけなのに。ムキになった彼女は本気のフックを喰らわせてきた。


「ギャーーッ!!?」


 そして華恋が立ち去ったのとほぼ同時に香織がリビングに現れる。凄まじいボリュームの悲鳴と共に。


「まーくんが血を吐いて倒れてる!」


「いや、違…」


「ほら、早く! ヒントになる文字を書いて!」


「ムリムリ…」


 辺りには赤い液体が散乱。そこはまるで傷害事件が起きた犯行現場のようだった。


 呼吸を正常に戻した後は事情を説明する。ただの事故であると告げた。


「もう、紛らわしい真似しないでよね。ビックリしたじゃん」


「悪い悪い。驚かせるつもりはなかったんだけどね」


「血だらけで倒れてるから本気で焦ったよ~」


「……ごめん。ずっと黙ってたけど実は余命3ヶ月の身なんだ」


「え!? それは大変。急いでお金を私の口座に移しておかないと」


「もうこの妹やだ…」


 馬鹿にするように大笑いされてしまう。理不尽な説教も付け加えながら。


 片付けを済ませた後は二階にある自室に移動。するとそこに膨らんだ布団を見つけてしまった。


「何なんだ、一体…」


 普通こういう場合は自分の部屋に引きこもるハズなのに。なぜ喧嘩相手の居場所を選ぶのか。


 相変わらず理解に苦しむ行動をとる華恋に声をかける。布団に手を伸ばして第2ラウンドを開始した。


「どうしてここにいるのさ。自分の部屋に戻りなよ」


「やだっ! 雅人がうんって言ってくれるまでどかないもん!」


「いつまでもそこにいたら眠れないし。邪魔!」


「寝かせないよ。デートしてくれるって言うまでは!」


「分かったよ、付き合えば良いんでしょ! 付き合えば」


「本当に!? やったぁ!」


「はぁ…」


 けれど戦いはゴングが鳴ってから早々に決着する。挑戦者があまりにもしつこすぎたが為に。


 無理やり出掛ける約束を取り付けられこの日は就寝。少しも気が休まらなかった。

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