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20 再会と再開ー7

「ここ、ここ。この場所なら人あんまり来ないから」


「いや、確かにそうだけどさ…」


 辺りを見渡せば不気味なぐらいに静かで暗い。先程までいた場所とは対照的に。


「静かなのは分かるけど本当にここから花火が見えるの?」


「もちろん。あの辺に打ち上げられるから」


「葉っぱで隠れて見えないんじゃない?」


「大丈夫だって。元地元民だった私を信用しなさいよ」


「けどなぁ…」


「始まったら分かるわよ。私が正しいか雅人が正しいかがね」


「言い回しがいちいちアニメキャラっぽい。まぁどっちでも良いんだけどさ」


 頭上を見上げれば生い茂る木々が存在。空が顔を出しているのは一部だけ。ただ今から人で溢れた祭会場に戻るのも億劫でしかない。休憩がてら2人して草木の上に腰を下ろした。


「足、痛くない?」


「ちょっとだけジンジンするかな。でも平気だよ」


「帰ったらマッサージしておきなよ。血行が悪くなってるだろうし」


「お兄ちゃん、やってぇ」


「ちょっ…」


 華恋が太ももに倒れ込んでくる。甲高い声を出しながら。


「急に甘えん坊になったね」


「む~、だってぇ…」


「さっきまでは他の人がいるから恥ずかしかったとか?」


「……ま、まぁ」


 人目が気になるから遠慮していたらしい。大胆な性格に似合わない奥ゆかしさだった。


「痛くない?」


「平気平気」


「ここ赤くなってるよ。やっぱり我慢してたんじゃないか」


「気のせいだって。暗いからそう見えるだけ」


「そうかなぁ。微妙に腫れ上がってる気もするんだけど」


「ねぇ、暗い場所でイチャイチャしてるとさ……エッチな事してる気分にならない?」


 下駄を脱いだ彼女の足を優しくさする。しかし耳に入ってきた言葉に手の動きがピタリと停止。


「まさかこの場所に連れて来たのって…」


「ち、違うって。本当にここが隠れスポットなんだってば! 別にやましい気持ちとかあった訳じゃないし」


「本当かな…」


 嘘つきな性格を考えたら発言を鵜呑みには出来ない。前科も山ほどあるし。


 疑惑の目を向けていたがその行為は杞憂で終了。打ち上げられた花火はまるで狙ったかのように空の一部にスッポリ収まっていた。


「お~、凄い」


「でしょ? だから言ったじゃん」


「疑って悪かったよ。華恋ちゃんは嘘ついてませんでした」


「ふふん」


 隣から得意気な笑みが聞こえてくる。勝ち誇った心境が窺える台詞が。


「よっ、と」


 地面に手を突いて体勢を変更。草木の上に倒れ込んだ。


「……綺麗だなぁ」


「え? 私?」


「違う違う」


「むっ…」


「いててててっ!? 耳を引っ張らないで! 集中して見れない」


 頭上に鮮やかな閃光が広がっている。人の歓声や大きな爆発音と共に。


 テレビや写真といった媒体を通して見るのとはまるで違う迫力。目の前の幻想的な光景を眺めているうちに暗闇へと吸い込まれそうな錯覚に陥っていった。


「……ねぇ、雅人」


「ん?」


「向こうに戻ったら私達どうなるの?」


「どうなるって…」


「今まで通り? それとも…」


「えっと…」


 突然の問い掛けに言葉に詰まる。どう答えるべきか分からなくて。


 少なくとも今まで通りではない。それだけは固く誓えた。兄妹だけの関係を望んでいない華恋の事を考えてわざわざこの街まで足を運んだのだから。


 とはいえ何を変えれば良いのかが分からない。誰かに宣言する事も打ち明ける事も不可能。考えれば考えるほど心の中の不安が広がっていった。


「やっぱり向こうに帰ってからも普通に恋人らしい事は出来ないのかな」


「……そうかもね」


「ならさ…」


「ん?」


「今だけでも良いからそういう事したい」


「華恋…」


「ダメ? やっぱりそういう事は良くないって怒る?」


 振り返った彼女と目が合う。その肩越しには鮮やかな花火の煌めきが存在していた。


「怒りはしないけど、それって…」


「ダメ、かな…」


「……ん」


 頭を小突いて軽く叱りつけておしまい。今まではそうだった。けどそれは正解ではない気がする。何より恋人らしい行為をしたいと思っていたのは自分も同じだった。


「今だけなら良いかな」


「……本当!?」


「うん。せっかくのデートだもん」


「雅人…」


 地面に手を突いて上半身を起こす。小石の痛みを手のひらで感じながら。


「キ、キスして」


「え?」


「……んっ」


「い、今ですか?」


「今しないでいつするっていうのよ。雅人だって良いって言ってくれたじゃない」


「イエッサ…」


 目前に瞼を閉じた顔が迫ってきた。前日の公園でのやり取りを思い出させる表情が。


 決して同じ失敗を繰り返してはならない。これは成長する為の試練だった。


「ぐっ…」


 顔を彼女の口元へと近付けていく。溢れてくる緊張感と葛藤しながら。よく見ると唇がいつもより赤い。それは薄く施された化粧の影響だった。


「あ…」


 目的を果たそうとしていると遠くの暗闇から草木の揺れる音が聞こえてくる。ついでに人の話し声も。


「……ここが穴場スポットなんだって」


「やっば…」


「あれ? 誰かいる」


 すぐに立ち上がって華恋の側から離脱。しかし時既に遅し。振り向いた先には浴衣姿の男と厚化粧をした女性が立っていた。


「ちょっと、穴場スポットって言ったじゃん。何で他の奴がいんのよ」


「うっせぇな、俺が悪い訳じゃねぇだろ。ツイてなかっただけだって」


「あ~あ、せっかくダベれると思ってたのに」


 カップルと思われる2人組が愚痴をこぼし始める。遠慮や気遣いを感じられない口調で。


「……あ」


「あぁーーっ、こいつ!?」


 そして彼氏の方と目が合った瞬間に声が漏れてしまった。原因はその出で立ち。記憶違いでなければ前日にコンビニで絡んできたヤンキーの1人だった。

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