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20 再会と再開ー6

「雅人~。私、焼きイカ食べたい」


「美味しそうな匂いするもんね。買ってみようか」


 誘惑に負けて近くにあった屋台へと足を向ける。威勢のいいオジサンに声をかけて端が焦げたイカを1つ購入した。


「ほい、食べていいよ」


「あれ? アンタいらなかったの?」


「これを2人で食べるんだよ。同じ物を2つ買うより、1つを分け合った方がいろいろな種類を食べられるじゃん?」


「あ、なるほど。賢い」


「でしょ?」


 適当な理由をつけたが本音はケチりたいだけ。倹約家の思考回路になっていた。


「雅人、とうもろこし食べたい」


「はいはい」


「あとたこ焼きも」


「はいはい」


「あと焼きそばと綿飴も」


「……そんなにたくさん買って本当に食べきれるの?」


「だってお腹空いてるんだもん。この為に朝と昼抜いてきたんだし」


 相方がアレコレと指示を出してくる。口の中からイカの切れ端をハミ出させながら。


「はしたない娘さんじゃ…」


 ただ自分もお腹が空いていたのでその意見には賛成。醤油の焦げた匂いのする焼きとうもろこしや、宝石のような色をしたリンゴ飴を購入。口の中は常に食べ物で埋まっていた。


「あ、金魚すくいあるよ」


「本当だ。懐かしいなぁ」


 小学生ぐらいの子供達が屋台の前に屈んでいる光景を見つける。無邪気にハシャいでいる姿を。


「ねぇ、やってみよ。面白そうじゃん」


「でも親戚の人の家って水槽ある? 無いなら持って帰っても飼えないんだが」


「あ~……多分ないや。しかもオジサン達、面倒くさがり屋だからペットとか飼育するの嫌がってるし」


「なら無理じゃん」


「で、でもそこの海に放流すれば良くない? 世話しなくて済むって」


「いやいや、そんな事したら死んじゃうから」


 どうやら淡水魚が海で生きられないと知らないらしい。相変わらず趣味以外の事に関しては無知な人間だった。


「ちぇっ、つまんない」


「舌打ちしない。代わりにあっちのやろうよ」


「ん?」


 不機嫌な妹を宥めながら斜め向かいにある店を指差す。サメ釣りの出店を。


「仕方ない。ターゲットが動かないのが不満だけど我慢してあげようかしらね」


「それ誰に対して言ってるのさ? 自分自身?」


「雅人に決まってんじゃない。私が私に文句言う訳ないでしょ」


「お子ちゃまですか…」


 人混みをすり抜けて場所を移動。若いお姉さんに料金を渡すと入れ違いに糸の垂れ下がった竿を受け取った。


「雅人はやらないの?」


「いいや。華恋がやってるのを横から見てるから」


「ふ~ん…」


 店員さんの後ろに並べられている景品に注目する。ゲームや銃の玩具が入った箱に。


 こういうのは見える場所に当たりが置かれていない事が多い。目玉賞品を根こそぎ奪われてしまっては商売にならなくなるからだ。


「うりゃ、うりゃっ!」


 威勢の良い声が響き渡る。竿を何度も振り上げる動作と共鳴して。


 悪戦苦闘していたが数回に渡る試行錯誤の末に鮫を2匹同時に釣り上げる奇跡が発生。男の子向けであろう玩具のレアカードを2枚も手に入れた。


「……どうしてお金払って頑張ったのに景品があんな物なのよ」


「仕方ないじゃん。何が貰えるか分からないのがこういうゲームの醍醐味なんだから」


「あ~あ、もっと可愛い物が良かったなぁ」


「ドンマイ」


 カードは近くにいた男の子にプレゼント。自分達が持っていても仕方ないだろうから。


 そして今し方失敗したばかりだというのに華恋はクジ引きにチャレンジ。独楽を回して遊ぶ玩具をゲットしていた。


「くそっ、何で男向け商品ばっかり出るのよ。あたしゃ男か!」


「こういうのってチャレンジするのは大抵が男の子でしょ? 自然と景品も男の子向けに偏っちゃうんだよ」


「もう二度やらない。運任せの遊びはもうしない」


「良い心掛けだと思います」


 出し物を批判しつつ次は射的に挑戦。そして何1つ獲得する事なく終了。くじ引きとは違い好きな景品を狙える利点はあったが、貰えるか貰えないかというギャンブル性も存在した。


「あーーっ、イライラする。どうして良い景品が1つも手に入らないのよ!」


「そういうものなんだって。お祭りなんだからゲーム自体を楽しむようにしようよ」


「はぁ……今日はツイてない。運勢が悪い日なんだ、きっと」


「2人っきりでお祭りに来れたのに?」


「うっ…」


 垂れ流される文句を封殺する。咄嗟に思い付いた理屈で。


「……や、やっぱりツイてるかも」


「でしょ? 気分の問題だよ」


「へへへ…」


 思考があまりにも幼稚で単純。1つだけメリットを挙げさせてもらうなら扱いやすさだった。


「こっから先はもうお店ないみたい」


「だね。ただの道路だ」


 歩き続けていると狭かった空間が一気に広くなる。屋台の終点らしい。


 空に浮かんでいた日は完全に沈んで消失。海を見れば漆黒と表すに相応しい闇へと変貌していた。


「どうしよう。戻る?」


「う~ん……そうね。引き返そうかな」


「ん、了解」


「向こうの方にさ、花火がよく見える場所があるんだ。そこ行こ」


「花火か…」


 とりあえず進んで来た道を引き返す事に。次の目的地を定めて人混みの中へと再突入した。


「足、大丈夫?」


「平気平気。段差がなければ楽勝よ」


 相方が相変わらず不器用に足を動かして歩いている。見ているこっちが辛くなりそうな体勢で。


「すっ転んで浴衣がまくれたらパンツ丸見えだからね」


「実は穿いてない…」


「え? 嘘!?」


「……って言ったらどうする?」


「良かった。さすがに自宅とは分別してくれてたか」


「家でもちゃんと穿いとるわい!」


「ぐふっ!?」


 冗談に対して冗談で返答。直後に冗談とは思えない威力の手刀を腹部に喰らってしまった。


「歩くのキツかったらおんぶしてあげようか?」


「ど、どうしたのよ今日は。やけに紳士的じゃない」


「だって見てていたたまれない気持ちになってくるんだもん。怪我をしたマラソンランナーみたいでさ」


「……そっか、ごめん。気を遣わせちゃったわね」


「いや、別に謝らなくても」


 いつもと違うのはお互い様。口調は今までと同じだが明らかに心境は変化していた。


「おんぶしてもらいたいけど恥ずかしいから良いや」


「そうだね。思いっきり浴衣まくれちゃうしね」


「下着とか見えるのやだなぁ…」


 街中にある坂道を息を切らして歩く。途中に立ち寄った焼き鳥の屋台で休憩も挟みながら。


 進む程に騒がしい空間は静寂へと変化。やがて小さな森の中に到着した。

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