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20 再会と再開ー5

「お~い」


「あ…」


 1人になった後は2日前に立ち寄った古本屋でひたすら読書を続ける。そして予定時間に合わせて集合場所の公園にやって来た。


「お待たせ。浴衣着てきてくれたんだ」


「うん。せっかくの夏祭りだからおばさんに貸してもらったんだ。娘さんが使ってたヤツなんだって」


「へぇ。いつもとイメージ違うね」


「にしししし。どうどう、似合う?」


 待ち合わせ相手が袖の裾を掴んで回転する。手元から離れた独楽のように回り始めた。


「似合うんじゃない。てかどうして下駄なの?」


「だって仕方ないじゃん。浴衣に合う履き物がコレしかなかったんだし」


「それ男用だよね?」


「おじさんに借りてきたの。せっかく和風っぽく決めてるのにスニーカー履いてくる訳にもいかないでしょ?」


「だからってサイズ違いの物を履いてこなくても…」


 足元からはカランカランという音が鳴り響いている。明らかに大きさが体に不釣り合いな履き物の音が。


「む~、文句ばっかり言わないでよ」


「あっ、悪い。ごめん」


「せっかく雅人に見てもらおうとオシャレしてきたのにさ…」


「……そうだね。似合ってるよ」


 確かにマイナス点ばかり指摘されたら良い気分はしないだろう。思考をポジティブな方へと転換した。


「せっかくだから雅人も浴衣着てくれば良かったのに」


「友達の家に居候させてもらってるから無理だよ。ほい」


「何これ?」


「さっき駅前で配ってた。2つ貰ったから1個あげる」


「ん、サンキュー」


 手に持っていた団扇を差し出す。暑さ対策定番のアイテムを。


 この街の祭りをアピールする為の物らしい。現地で配って宣伝になるかは疑問だったが、わざわざ足を運んでくれた観光客に向けての地域サービスと考えたら納得だった。


「さっきまで本屋で立ち読みしてたから足がパンパン」


「アンタ、今まで何してたの? 丸山くんと過ごしてたんじゃないの?」


「うぅん、違うよ。丸山くんは夏期講習あるからって1人で遊んでた」


「はぁ?」


 彼女が呆れたように溜め息をつく。腰に手を当てながら。


「だったら私に連絡しなさいよ。そしたら待ち合わせ時間を繰り上げてあげたのに」


「なんか面倒くさくて。それにたまには1人で時間潰すのも悪くないかなぁと」


「まったく、もう…」


「へへへへ」


 こうして何もせずダラダラと過ごしている事に不安は感じていた。受験に向けて勉強するべきじゃないのか、早くバイト先に出向くべきじゃないのかと。


 心苦しさはあったが今は何も出来ないと考えると諦めがつく。なので向こうに帰るまでは精一杯この夏をエンジョイしようと決めていた。


「ねぇ、1つ質問して良い?」


「何?」


「浴衣着る時って下着とかどうしてるの?」


「……あ?」


 持っていた団扇で顔を扇ぐ。垂れ下がる汗を吹き飛ばす為に。


「それ専用のヤツがあるけど買ってないから普段使ってるの着けてる。つかそんな事聞くなっ!」


「ご、ごめん。悪かったよ」


「まったく…」


 聞こうにも尋ねられるような相手が彼女以外にいない。妹相手ならセクハラにならないかと考えたのだがダメだったらしい。


「お~」


 そうこうしているうちに辺りから祭り囃子の音が反響。雰囲気が海の街から祭大会へと変貌していた。


「お祭りってどこでやるの?」


「その辺一帯」


「じゃあ行く? ここでジッとしてても仕方ないし」


「そうだね。小腹も空いちゃった」


「楽しみだなぁ。クレープ食べよっと」


 2人で公園の出口へと歩き始める。横に並んで。


「え? な、何?」


「あ、マズかった?」


「いや、別にそんな事はないけど。ただいきなりだったからビックリして」


「ごめんごめん。許可貰ってからにすれば良かったね」


 何の気なしに華恋の手を握ってみた。すぐに離そうとしたが今度は彼女の方から握り返してきた。


「ん…」


 恥ずかしがっているのか団扇で口元を隠している。目線もやや上を向いた状態を維持。


「きゃっ!?」


 だが余所見をした影響で躓く事に。下駄が段差に引っ掛かり体のバランスを崩してしまった。


「うぉっと、大丈夫?」


「な、なんとか。支えてくれたおかげで助かっちゃった」


「やっぱりそれサイズが合ってないんだよ。一度家に帰って履き替えてきたら?」


「平気だって、気をつけてれば。それに今から戻ったら時間がもったいないし」


「……心配しなくても祭りは逃げやしないのに」


 体勢を立て直すとすぐにまた歩き始める。ただし今度は腕を絡めた体勢で。


「これでOK」


「動きにくくない?」


「余裕余裕。歩幅を縮めれば良いだけだも~ん」


「でもなぁ…」


 同じミスを繰り返さないように足元に細心の注意を払って進行。地面を擦るように歩く姿はまるで小さな子供だった。


「あぁ、良い香りがする」


 祭り会場へ近付くと何かが焼け焦げたような香りが強くなっていく。同時に人の声も。先程まで耳に響いていたヒグラシの鳴き声もいつの間にか喧騒によってかき消されていた。

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