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20 再会と再開ー4

「じゃあ、また明日」


「はいはい。約束忘れないでよね?」


「もし忘れて先に1人で帰っちゃってたらどうする?」


「夏休み明けの学校には無事に通えないと思え」


「そ、そんな…」


 お参りを済ませた後は街に戻る。待ち合わせ場所や時間を決めて華恋と解散。


 一緒に晩御飯を食べに行こうと誘ったのだが彼女は既にコンビニ弁当を購入済み。それをお店に持ち込むのは不可能という理由で断られてしまった。


「ま、いっか」


 楽しみは翌日に持ち越しておけば良い。遠出した目的は果たせたのだから。




「お、お邪魔します…」


「あら、いらっしゃい」


 その後はフラフラと街中を歩く。昨日、荷物を置かせてもらった古民家を再び訪れた。


「ゴメンね。急に転がり込んじゃって」


「大丈夫。1人ぐらいなら平気だし」


「ん? それ何?」


「え~と、チョコバー」


「……洗脳されておる」


 母親らしき人物に奥まで案内される。友人の私室へと。そこで棒状のお菓子を持っている部屋主を発見。どうやら紫緒さんの影響ですっかりハマってしまったらしい。


「はいはい。遠慮しないでたくさん食べてね」


「ど、どうも…」


 慣れない環境に不安が止まらない。戸惑いも緊張感も。


 家屋は昔ながらの建物といった感じでリビングと廊下以外の床は全て畳。トイレも和式だった。


 追い返されるのではと心配だったが家族の方々に手厚く迎えられる優遇っぷり。泊めてもらうだけではなく手作りの食事までご馳走になってしまった。




「ふいぃ、緊張した…」


 入浴後はのんびりと過ごす。二階にある友人の部屋で。


 丸山くん本人は既にベッドで就寝済み。照明を落とした暗い部屋で1人、天井を見つめながら寝転んでいた。


「……寝れない」


 不慣れな布団に枕、そして部屋の空気感。ただでさえ興奮しているのにいつもと違う環境が眠気を遠ざけてくる。騒がしい昼間と違って夜は街全体が静か。壁掛け時計の奏でる音だけが意識の中をウロついていた。


「今頃は親戚のアパートで寝かせてもらってるのかな…」


 昨夜の不安な気持ちとは裏腹に呆気ない再会を果たす。対話相手がいなくなった事でようやく華恋と会えた出来事に対する喜びを実感。


 たかが数日ぶりなのに姿も声も恋しい。ここ最近の自分がどれだけ彼女に執着していたかを思い知らされた。


「……ん」


 ただ別の不安がまだ残っている。これから先の未来について。


 華恋と付き合い始めた事は誰にも知られてはいけない。家族にもクラスメートにも。


 今までずっとその状況を避けたくて冷たくあしらってきた。けどこれからは違う。目を背けてきた物と戦い続けなくてはならなかった。


「はぁ…」


 どんなに温厚なあの家族でもこの関係だけは無抵抗で受け入れてはくれないだろう。反発されるのは分かりきっている。


 それでも華恋を裏切るような真似はしたくなかった。彼女を失ってしまう世界ほど怖いものはないから。




「……ふあぁぁ」


 翌日は朝早くに起床。戸惑いや緊張といった感情が眠気を奪ってきたせいで目が覚めてしまった。


「よく眠れた?」


「ま、まぁ…」


「枕硬くなかった?」


「ちょっとね。昔ながらの寝具って感じで新鮮だった」


「僕はこれに慣れちゃってるから逆に柔らかいのだと眠れないんだよね」


「へぇ」


 体を起こすと使わせてもらった布団一式を綺麗に整頓する。友人と共に部屋を出て家族の方がいる居間に向かった。


「おはようございます」


「あら、おはよう。昨夜はよく眠れた?」


「はい。何から何までお世話になってすみません」


「いいのよ、別に。武人がこうしてお友達を連れて来る事って珍しいんだから」


「は、はぁ…」


 おばさんが朗らかな笑みを浮かべる。まるで訪問者の存在を歓迎するかのような表情を。


「お母さん、ご飯って出来てる?」


「もう食べるの? いるなら今から作るけど」


「ならお願い。出来たら教えて」


「はいはい。とりあえず2人共、顔を洗ってらっしゃい」


「ども…」


 指示された通り洗面所に向かい交代で洗顔。一度部屋へ戻って待機しているとおばさんに呼ばれたので再び居間に向かった。


「美味しい?」


「あ、はい。この魚が特に」


「なら良かった」


「ん…」


 その後は用意してくれた朝食を食べる事に。父親やお爺さんお婆さんといった家族の方々に囲まれて。


 そして正午頃になると夏期講習に行くという丸山くんと共に家を出発。塾の前までやって来て彼と別れた。


「……緊張したぁ」


 自由を得たところで体中の力がドッと抜け落ちる。まさか知らない家族の中に飛び込んでいく事がこんなにも疲れるなんて。


「華恋もこんな気分だったのかなぁ…」


 無意識に想像するのは妹が我が家にやって来た時の感情。住み慣れた自宅が少しだけ恋しく感じてきてしまった。

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