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19 捜索とハプニングー6

「泳ぎます?」


「水着も無いのにどうやって。タオルだって着替えだって無いのに」


「あ~あ、見てるだけかぁ…」


 3人で浜辺にある階段へと座り込む。なるべく道路を通る人には姿を見られない位置を選んで。


「雅人はどの子が好み?」


「別に…」


「向こうでビーチバレーしてるフリルビキニの子とか可愛くね?」


「ま、まぁ…」


「それから水面の上に立ってる白装束の子も綺麗だ。けど一体どうやって立ってるんだろう」


「待って待って。そんな人どこにもいないんだけど!?」


 生産性の無い話題を交わしながら景色を観賞。目の前には夏を全力で満喫している人達がいた。


「……そろそろ行く?」


「ん? だな」


 適当に時間を潰すと再び街の中を歩き始める。基本的には昨日行かなかった方角の散策。アテもなく知らない街をただ徘徊するだけ。


「はぁ…」


 一体、何をしにこんな遠い所までやって来たのか。わざわざ高いお金を払って宿泊までして。


 猛暑と成果の表れない探索にストレスが増加。ネガティブ思考が全開だった。


「雅人」


「ん? 何?」


「サンダルに血ついてね?」


「……あ」


 颯太に指摘されて足元に目線を移す。右足の親指辺りが赤くなっているのを発見。きっと走って逃げる時に地面と擦れてしまったのだろう。暑さのせいで全く気が付かなかった。


「帰ろっか…」


「ん? もう良いのか?」


「なんか歩き回ってるだけで無駄な事してる気がする…」


「まぁ雅人が満足したなら俺は構わないけどさ」


「……全然してない」


 呼吸するように弱音を吐く。ずっと意識していた本心を。


「足がパンパンだぁ」


 全員が体力的にも限界。日焼けで全身も真っ赤。言葉は無かったが自然と駅のある方に向かって歩いていた。


「ではでは帰りますか」


「ただ散歩しただけで終わっちゃいましたね」


「次に来る時は海に飛び込みたいな。浮き輪とか持ってきてさ」


「えぇ……モッサリ先輩と海水浴はちょっと」


「どうしてだよ! 俺と一緒の事の何が不満だってんだ!」


「主に顔が」


「ガッデム!」


 ロッカーから荷物を取り出した後は券売機へとやって来る。切符を購入したりICカードをチャージする為に。


「はぁ…」


 結局、何一つ進展させる事が出来なかった。華恋に会う事も、手掛かりを見つける事も。


 家にいる香織にも電話して状況確認。だが予想通り捜し人は不在だった。


「じゃあ行くか。腹も減ったし」


「売店でチョコバー買って行こうっと」


 颯太と紫緒さんが改札に向かって歩き始める。重い荷物を引っさげながら。


「……んっ」


 本当にこのまま帰ってしまって良いのだろうか。クーラーの効いた家で華恋が戻って来るのを待つだけで。


 もし帰って来なかったら。ずっと連絡が取れなかったら。本当にそうなったら二度と会う事が出来ない。


「華恋…」


 彼女は諦めなかった。結ばれるハズのない相手との恋の成就を。それは自分が見習わなければいけない姿勢。強情な性格の中から教わった教訓の1つだった。


「あ、あのっ!」


「ん?」


「やっぱりまだ残るよ。もう少しだけ捜してみる」


「え? ここまで来てか?」


「うん。お金ならまだ残ってるし。それにまだ行ってない場所もたくさんあるからさ」


 2人に声をかけて呼び止める。胸に抱いた決意を口にしながら。


「う~ん、なら俺も残るわ……って言いたいとこだけど、いい加減父ちゃんの仕事を手伝わないとマズいんだよね」


「あぁ。そういえば仕事を手伝う事を条件にバイク買ってもらったんだっけ?」


「おう。3日連続で休んじまってるからな。さすがにそろそろ戻らないと」


「そういえばずっと付き合ってもらっちゃったね。ゴメン」


「気にすんなって。好きで行動してたんだからよ」


 感謝と謝罪の言葉に対して颯太の表情が変化。屈託のない笑みを浮かべてきた。


「あっ、ならうちが一緒に残りましょうか? まだ持ってきたお金残ってるんで」


「いや、いいよ。それにそろそろ戻らないと店長に怒られちゃう」


「大丈夫ですって。うちがいてもいなくても変わんないですから」


「そ、そこまで自分を卑下しなくても…」


 バイト学生が2人揃って欠勤している分、瑞穂さんに負担がかかっているハズ。他のパートの方々にも。


 無理やり連休を貰ってしまっているからひょっとするとクビになってしまうかもしれない。それでも紫緒さんと2人で休み続ける状況だけは避けたかった。


「ちぇっ……仕方ないなぁ」


「ゴメンね、わざわざこんな所まで付き合わせちゃって。お店の方よろしく」


「明日からどうやってサボろう。そろそろ親戚を殺していくかな」


「……物騒な子」


 どうにかして後輩を説得させる。少々の不安を抱きながらも。


「なら俺達、先に帰るから。昼間の連中に見つからないようにしろよ」


「ん、ありがと。気をつけて帰ってね」


「先輩、またです。生きてたら向こうで会いましょうね」


「勝手に殺さないでくれ…」


 改札の中へと入って行く2人を単独で見送り。その姿が消えるまで何度も手を振り続けた。


「……行っちゃったか」


 今なら追いかければまだ間に合う。けどここで帰ってしまう訳にはいかない。


 颯太達がここまで付き合ってくれたのは親切心だ。彼らがいなければ華恋を捜しに来る事もなかったし、もしかしたら昨日のうちに帰ってしまっていたかもしれない。


「あつ…」


 駅を出ると再び日差しのキツい街中を歩き始める。赤く染まっている空の下を。


 以前に見た夢の中では隣に海が見えた。恐らく海岸線沿いを歩いていたのだろう。


 想像の内容を頼りに行動するとか馬鹿げていると理解している。しかしヒントも無い今となっては、それだけが心の拠り所だった。


「キレイだなぁ…」


 重い荷物を携えてある場所へとやって来る。海を見渡せる公園へと。


「すぅ…」


 そのまま息を吸った。腹の中に空気を溜め込む為に。


「華恋ーーーっ!! 絶対に見つけだすからねぇぇぇぇ!!」


 続けて自身の決意を示すように叫ぶ。水平線の向こう側まで轟かせる勢いで声を出した。


「ふぅ…」


 少しだけ溜飲が下がった気がする。迷いを振り切れた事で。


「……え」


 捜索を再開する為に体の向きを反対側へ変更。その直後に全身の動作が止まった。


 原因となったのはすぐそこに立っている人物。薄着で髪を縛っている女の子。


「そんな…」


 思いもよらない出来事が発生する。有り得ない邂逅が。それはホームラン級の奇跡と呼べる産物だった。

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