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19 捜索とハプニングー3

「どうだった?」


「……ダメ。いなかった」


 辿り着いた本屋で華恋を捜索するが不発。その後に巡った別店舗にも。


 仕方ないので街中を散策する事に。途中で何度も休憩を挟みながら。スーパーや雑貨屋にも立ち寄ってみたがこれといった成果は上げられなかった。


「やっべ、チョコバー溶けてきた」


「そんなにたくさん持ってくるから…」


 気が付けばあっという間に空がオレンジ色に。時間が惜しい時に限って過ぎるのが早い。


 腕を見たら降り注ぐ日差しのせいで真っ赤に変色。日焼け止めを塗っておけば良かったと後悔するぐらいに焼けていた。


「これからどうするよ?」


「う~ん、もうすぐ日が沈んじゃうなぁ…」


「帰るかまだ捜し続けるか、そろそろ決めないとな」


「……そうだね」


 帰宅に費やす時間を考えたら行動に移らないとマズいだろう。何より猛暑の中を歩き回っていたせいで全員の疲労が限界にまで達していた。


「どっか泊まっていこうかな…」


「帰らないって事? 明日もまた捜すのか?」


「うん。その為に着替えとか持ってきてるし、それに…」


「ん?」


「華恋はこの街にいる気がしたから」


 以前に見た夢の存在を思い出す。妹が失踪した日に見た夢を。


 なんとなくその時に出てきた街がこの場所のような気がしていた。知らず知らずのうちに華恋と記憶を共有しているのかもしれない。そんな都合の良い妄想が頭の中に広がっていた。


「ふ~ん、なら俺はどうしようかな」


「颯太は帰った方が良いよ。家族も心配してるだろうしさ」


「別にそれは大丈夫なんだけどさぁ」


「うちは残りますよ。先輩と一緒にどっか泊まっていきます」


「いや、それはやめようか…」


「は? 何でですか?」


 さすがに彼女と2人きりにされる展開は勘弁したい。例え部屋を別々にとったとしても。


「紫緒さんは帰った方が良いよ。女の子なんだし」


「大丈夫ですって。最初から泊まるつもりで着替えとか持参してきたんすから」


「家族に何も言われないの?」


「ぜ~んぜん。夜中に帰っても文句一つ言われませんよ」


「自由に育てるのが君の家の教育理念なのかね…」


 無頓着なのか無関心なだけなのか。好き勝手にやらせてもらえるのは嬉しいが、興味を持たれていないのだとしたら悲しかった。


「それにバイトで稼いだ金も下ろしてきたから大丈夫っすよ」


「う~ん、でもなぁ…」


「恵美ちゃんが残るなら俺も残ろうかな」


「え?」


 会議中に颯太が意見を挟んでくる。真面目なトーンで。


「2人が残るのに俺だけ帰るのも嫌だわ」


「ほ、本当に残ってくれるの?」


「あっ、でもあんま金持ってきてないや。宿代いくらぐらいかかるんだろ」


「足りない分は僕が出すよ。昨日、バイクに乗せてもらったお礼もあるし」


「え、マジで?」


 それは願ってもない申し出。紫緒さんと2人っきりになるより彼がいてくれた方が幾分助かるから。


 話し合った結果、今日は3人で近くに宿をとる事に。丸山くんの自宅に戻ってバッグを回収すると適当なビジネスホテルに入った。


「僕はそろそろ帰るね」


「ん。今日はいろいろありがとうね。助かったよ」


「明日は夏期講習に行かないといけないから付き合えないけど、ごめん」


「大丈夫、大丈夫。荷物を預かってくれたり街を案内してくれただけで助かったから」


「じゃあメガネ先輩、また一緒にチョコバー食べまくりましょうね?」


「う、うん。また…」


 ホテルのロビーで丸山くんと別れる。彼の手元には紫緒さんから渡された大量の菓子があった。


「ベッド気持ちええぇぇぇ!」


 そして受付を済ませると部屋へ入る。中に入った瞬間に2人が寝具にダイブした。


「ひょ~、フカフカして最高」


「あの、そこ僕のベッドなんだけど…」


「ん? 先輩も一緒に寝ますか?」


「君の部屋は隣ですぜ」


「どうしてうちだけ違う部屋なんすか! つまんねぇっすよ!」


「男女で同じ空間はマズいからだよ。紫緒さんだって着替えとか見られるの嫌でしょ?」


「あ、そっか」


「……はぁ」


 確保した部屋は2つ。シングルとツインを1部屋ずつ。


 ただすぐに追い出すのも可哀想なので就寝時間までは共に過ごす事に。交代で隣の部屋に行きシャワーを浴びた。


「あぁ、気持ちよかったぁ」


 タオルで頭を拭きながら戻って来る。バスローブを身に付けて。


「何見てるの?」


「芸人ネタ祭り。なかなか面白い奴出てこないな」


「ふ~ん…」


 颯太が退屈そうにテレビ観賞。対して紫緒さんは大笑い。2人のリアクションは対照的だった。


「華恋さん見つからなかったな」


「だね…」


 成果を上げられなかった事に意気消沈。人を見つけ出す事の難しさを痛感しただけ。彼女と行くハズだった旅行は自然と中止に。ホテルに予約解消の連絡を入れたら既にキャンセルされていた。


「ん…」


 もちろんそんな事をした覚えはない。自分でないとすれば自然と犯人は決まってしまう。家出した時から既に行くつもりがなかったらしい。2人きりの旅行に。


「……はぁ」


 鏡台の前に置かれた椅子に着席。同時に大きな溜め息をついた。


 もし明日も見つけられなかったらどうすれば良いのか。予算だって無限大ではない。資金は数日で底をついてしまう。


「師匠に連絡取ってみたらどうっすか? 意外にすんなり返事くれるかも」


「メッセージはさっきも送ってみたよ。けど音沙汰なし」


「しかし妹を追いかけてこんな遠くまで来るなんて先輩も重度のシスコンだったんすね」


「う、うるさいなぁ…」


 CMになったタイミングで紫緒さんが話しかけてきた。抵抗のあるツッコミを入れながら。


「あん? 雅人と華恋さんは兄妹じゃなくて親戚だろ。しかも恋人同士」


「はぁ? 何言ってんすか。師匠と先輩は双子の兄妹ですよ。恋人って何すか」


「2人は付き合ってんだよ。知らないの?」


「付き合う? それ有り得ないっすよ。血の繋がった家族なのに」


「恵美ちゃん、勘違いしてるんだね。雅人と華恋さんは…」


「え、えっと……今日は疲れたからもう寝ない!?」


 友人と後輩が危険な話題を交わし出す。中断させる為に無理やり割って入った。


「俺、まだ眠たくないや」


「うちも~」


「そ、そっか。けど僕は疲れちゃったから横になりたいな」


 本当はまだ眠たくなんかない。足がくたびれて歩けないのは事実だけど。


「仕方ないなぁ。なら寝るか」


「え~、まだ12時前なのに」


「寝不足は肌に悪いよ。夜更かしするとブサイクになっちゃうかも」


「それは困る!」


 脅迫めいた台詞を口にする。その言葉に反応して紫緒さんが慌てて立ち上がった。


「んじゃ、おやすみなさい」


「おやすみ」


「あっ、いけね。鍵忘れた」


「はいはい…」


 パジャマ姿の女の子を廊下まで見送る。男2人でしばらくテレビを見た後はトイレを済ませて電気を消した。


「ん…」


 目を閉じるが眠気がやってこない。知らない場所だからという要素もあるが不安な気持ちが原因の大半を占めていた。


「雅人」


「……何?」


 考え事をしていると隣から声をかけられる。落ち着いた口調で。


「華恋さんといつから付き合ってたの?」


「え?」


「華恋さんが転校してきたのって去年じゃん? その時にはもうそういう関係だったの?」


「いや、どうかな…」


 そのまま会話を開始。目が慣れたせいで天井がハッキリと視認出来た。


「どっちから告ったんだよ。やっぱり雅人の方から?」


「んっ…」


「良いよなぁ、OKしてもらうなんて。俺も華恋さんと従兄妹だったらなぁ」


「はは…」


 上手く答えないと嘘がバレてしまう。親戚ではなく双子なんだと。


「あんな良い子を裏切ったりすんなよ」


「そうだね…」


「んじゃ、おやすみ」


「……おやすみ」


 彼の言葉が痛い。胸の奥底にまで響いてきて。


「はぁ…」


 スマホで地域のニュースを検索。未成年が巻き込まれた事件や事故を。幸いなのかそうでないのか、めぼしい情報は見つけられなかった。


「……華恋」


 今更になって後悔の気持ちが込み上げてくる。何故もっと傷心中の気持ちを考えてあげられなかったのかと。そんな自責の念に駆られながらも少しずつ思考は途切れていった。


「ん…」


 いつの間にか意識はホテルの部屋から夢の世界へ。すぐそこに立っているのは双子の妹。その綺麗な顔に触れようと手を伸ばす。けれど指先が届くより先に彼女は笑顔で走り去ってしまった。

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