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19 捜索とハプニングー2

「んーーっ、良い天気だ」


 一歩外に出た瞬間に気持ちの良い日差しが飛び込んでくる。夏を感じさせる雲と共に。


「あっつぅ…」


 しかし清々しい景色とは裏腹に不快な暑さが全身を支配。ずっとクーラーの効いた車内にいた反動もあってか一気に汗が出てきた。


「どこにいるかな…」


 改札を出た所で立ち止まる。待ち合わせ相手を探そうと。


「あ、いた」


 人が少なくなったタイミングで発見。小さく手を振る短パン姿の男性に近付いた。


「久しぶり。元気だった?」


「うん、元気だったよ。遠いところわざわざお疲れ様」


「えっと……さっき伝えた通り2人増えちゃった」


 丸山くんと会話しながら振り返る。同行者の存在を伝える為に。


「だから何で一番人気の水着がスク水なんすか。どう考えてもビキニでしょうよ!」


「恵美ちゃんは男心を分かってない。野郎ってのは誰もがスク水を愛しているんだ!」


「あんなの学校で着るヤツっじゃないっすか。デザインも地味だし可愛くないし」


「グラマラスな女性が着てたら興奮するじゃん。胸のパッツンパッツン具合を気にする女の子とか最高だぜ!」


「あぁ、もうっ! これだから変態は!」


 けれど背後から聞こえてきたのは激しい叫び声。2人は何故か口論を繰り広げていた。


「……あの、あんまり気にしないでね」


「あはは…」


 あまりにも先行きが不安すぎる。とりあえず互いを紹介。簡単な挨拶を済ませた後はこれからの予定について話し始めた。


「どこで水着買おう。この辺って水着売ってる店とかある?」


「だから海水浴に来た訳じゃないって言ってるじゃないか。泳ぎたいなら颯太1人で行ってよ」


「分かってるって。ちょっとしたジョークだっつの」


「はぁ…」


 協議が序盤から脱線している。友人の悪ふざけのせいで。


「まず先に荷物どうにかしようぜ。邪魔になっちゃうだろ」


「そだね。この駅ってロッカーあるかな?」


「……あ、うん。あっちにあるよ」


 地元民である丸山くんに案内をお願い。彼の先導の元、4人で駅の中を歩いた。


「全部埋まってるわ。1個も空いてない」


「あっちゃあ…」


「仕方ねぇな。俺のピッキング技術見せてやんよ」


「これ以上、罪と荷物を増やしてどうするのさ」


 すぐにコインロッカーを発見。だが多数並べられた四角い箱からは全ての鍵が抜き取られていた。


「この辺ってまだどこかにロッカーある?」


「あるけど、荷物預けたいならうちに置いておけばいいけよ」


「え? 本当?」


 悩んでいると友人から思わぬ意見を持ちかけられる。ありがたすぎる提案を。


「家ってここからどれぐらい?」


「20分くらいかな。歩きだと」


「へぇ。ならまだ近い方だね」


 自転車を押す丸山くんと並んで移動。すぐ後ろでは颯太と紫緒さんが理想の水着デザインについて熱い議論を交わしていた。


 観光地なので辺りには人が多い。ロータリーにもタクシーが多数停車していた。


「じゃあここに置いておくね」


「こんな場所に置いておいて良いの? 邪魔にならない?」


「平気平気。昼間は出掛けてて誰もいないから」


 しばらくすると昔ながらの木造家屋に辿り着く。3人分の荷物を玄関へと置かせてもらった。


「んで、これからどうすんだよ」


「また昨日みたいに街中を駆け回るしかないかな。華恋のいそうな場所を」


「温泉に行ってるかも! 旅館を巡ろう!」


「……だとしても一緒に入浴は出来ないからね」


「ガッデム!」


 見るもの全てが初めて。山も海も街並みも。


「何やってるの?」


「荷物整理っす」


「ん?」


 作戦会議を開いているとバッグを漁る紫緒さんの姿が目に入る。彼女は中から白いビニール袋を取り出した。


「やっぱりチョコバーは必須なんで」


「え? これ全部持っていくつもりなの!?」


「もちろん。当たり前じゃないっすか」


「君、凄いね…」


 どうやら持参していくつもりらしい。売店で購入した大量の商品を。


「はい、メガネ先輩もどうぞ」


「あ、ありがと…」


 彼女は取り出した大好物の1つを丸山くんに付与。その袋にはゴボウのダシ味という奇っ怪な文字が記されていた。


「とりあえず別れて捜そうかな。その方が効率的だし」


「はいはい。うち、先輩とが良い!」


「おい、雅人と行動するのは俺だぞ!」


「えっと……僕が丸山くんと組むのはダメ?」


「ダメーーっ!!」


「そんな…」


 人様の自宅前で盛り上がる。迷惑も考えずに。


「まずはどこ捜すのか先に考えようぜ。別行動はそれからでも遅くないだろ」


「そ、そだね。行き先や集合場所とか予め決めておいた方が良いかも」


「だろ? 特に俺達3人はこの街の事とか知らない訳だし」


「えっと……この辺りで若い子が行きそうな場所ってあるかな? 溜まり場的な」


「溜まり場…」


 華恋が親戚の家にお世話になっているのならそこを探すべきなのかもしれない。だが住所も分からなければ向こうさんの連絡先も不明。マンションやらアパートを1軒1軒回って聞き込みするのも効率が悪いだろう。下手したら不審者扱いされて通報される可能性もあった。


「ゲーセンとか古本屋とかカラオケとか」


「う~ん、あるにはあるけど…」


「本当? ならそこに連れて行ってよ」


「で、でもあそこだよ?」


 友人がある方角を指差す。太陽光を反射している大きな水面を。


「海か…」


 確かに海水浴なら若者が大勢存在。目に入れたくないレベルで。


「んじゃ、とりあえず海行く?」


「いや、やめとこうよ」


「なんで? あそこなら人たくさんいるじゃん」


「けどなぁ…」


「華恋さんの水着姿が拝めるかもしれないぞ!」


「さっきからそればっかり…」


 心配して捜しに来たのに呑気に泳いでいる光景なんか見たくない。とはいえ他に候補もないので向かう事にした。


「はい、次は漆黒のカラス味です」


「……どうも」


 自分は颯太と並び、すぐ後ろを紫緒さんと丸山くんが歩く。そして20分程の時間を費やして浜辺へとやって来た。


「おぉーーっ、広~い」


「すっげぇ人。これならナンパし放題だな」


「行ってらっしゃい。なら颯太とはここでお別れだね」


「悪かったって。ちょっとふざけてみただけだから怒んなよ」


 視界いっぱいに蠢く人間が広がっている。その先には綺麗な水平線が存在。駅前も騒がしかったが、ここも賑やかだった。


「……この中から捜し出すとか無理だよ」


 パッと見ただけで数百人レベルの人間が混在している。いくら知っている顔とはいえ、こんな場所で特定の人物を見つけ出すなど不可能。しかもいるかどうかすら定かではないのに。


「あっ!」


「ん? どうしたの?」


「いけね。俺達、靴じゃん」


 頭を抱えていると颯太が身嗜みの不備を指摘。彼の言葉で視線が各々の足元に集まった。


「このまま突撃したら中に砂入ってくるなぁ」


「それは嫌っす。ザラザラの靴とか勘弁」


「なぁ、丸山くん。この辺りにビーチサンダル売ってる店はないかね?」


「え? えっと……衣料品店に行けばあると思うけど」


「ならそこに行こう。早速案内してくれたまえ」


 どうやら彼は人混みの中に突入したいらしい。華恋を見つけ出したいのか、それとも水着姿の女の子に近付きたいだけなのかは不明だが。


「はい、次は氷山の一角味っす」


「……どうも」


 丸山くんを先頭に道路を歩く。意外だが紫緒さんと親しげだった。


「涼しい~」


 しばらくすると大型の量販店へと辿り着く。主に衣類を扱っているチェーン店へと。


「サンダルあった?」


「これとかどうよ。格好良くね?」


「デザインとか気にしないからどれでも良いや。適当に買っちゃおうよ」


 買い物をしてる時間がもったいない。こんな事をしている間にも華恋と遭遇するチャンスを逃しているかもしれないから。


「先輩、先輩」


「ん?」


「これとこれ、どっちが良いと思いますか?」


「はぁ?」


 商品を選ぶと一足先にレジへ。財布の中身を確認していたら後ろから声をかけられた。


「うち的にはこっちの形が良いんですよねぇ。けど色がなぁ」


「……何それ」


「え? 何って水着じゃないですか」


「いや、それは見たら分かるけどさ…」


 紫緒さんが持っていた物を突き出してくる。片方は花柄のビキニで、もう片方は白いワンピースタイプの水着を。


「先輩はどっちのが好みですか? てかどっちをうちに着てほしいですか?」


「その前に腹パンしても良いかい?」


「えぇ! ど、どどどどうしてっすか。うちのセンス気に入りませんでしたか?」


「そうだね。とりあえず海に蹴落としたくなったよ」


「そそそそ、そんなっ!?」


 睨み付けるように威圧。危険を察知したのか彼女は慌てた様子で逃亡を開始した。


「あっつぅ…」


 買い物を済ませた後は再び外へと飛び出す。日差しが照り返す地獄のような空間へと。


「んじゃ、どの辺から捜す?」


「海には来てないと思う。やっぱり違う場所に行かない?」


「えぇ、なら何の為にサンダル買ったんだよ。せっかく華恋さんの水着姿を拝めると思ってたのに」


「いや、だから…」


 意見の方向性に食い違いが発生。本気で颯太と紫緒さんを切り捨てる事を考えていた。


「この辺って本屋あるかな?」


「3軒くらいなら。一番近いのはこの道路沿いにあるよ」


「よし。ならそこに行ってみよう」


 華恋は漫画が大好き。もしかしたらそれ目的で立ち寄っているかもしれない。


「はい、じゃあ次は床に落ちた肉団子味っす」


「ど、どうも…」


「あ~あ、楽しそうだなぁ」


 海で元気にハシャぐ人達に視線を移す。学生の集団や家族連れに。無邪気に笑う人々を見ているうちに嫉妬のような感情が湧き出してきた。


「ん…」


 そして同時にある事も思い出す。今朝会った後輩と交わしていた遊びの約束を。


 断ち切ったハズなのに未練タラタラ。心の中は不安と後悔で埋め尽くされていた。

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