19 捜索とハプニングー1
「先輩、チョコバーうすしお味食べますか?」
「いらない」
「ならチョコバーカレー味は?」
「いや、いらない」
「お菓子とかあんまり食べないタイプっすか? チョコバー激辛ドリアン梅味美味しいっすよ」
「一体、何種類あるの…」
紫緒さんから差し出された袋を手を振って拒む。彼女の膝の上には売店で購入した数多くの菓子類があった。
「あっ、なら俺が貰って良い?」
「えぇ……仕方ないなぁ」
「どうして雅人は良くて俺はダメなんだよ。差別ですか?」
「だって先輩さっきから元気ないし。それにお腹空いてそうな顔してたから」
「いや、朝ご飯ちゃんと食べてきたから大丈夫だよ…」
同行者の2人が大盛り上がり。電車の中はちょっとした行楽気分に包まれていた。
「んじゃ、も~らい」
「あーーっ!? うちのハイパーグランドチョコバーDX!!」
「え? これ取ったらマズかったの?」
「当たり前じゃないっすか! 77本買ったうちの1本だけしか無かったんすよ!」
「それはいくら何でも買い過ぎだぜ」
紫緒さんが颯太を怒鳴り散らす。恐らく本気であろうと思われる怒り具合で。
「そんなにチョコバー食べたいなら自分で買ってくれば良かったのに」
「なんか店員さんに聞いたら売り切れって言われちゃってさ」
「マジっすか! チョコバー大人気なんすね」
「いや、どう考えても君が買い占めた犯人だろ」
「モッサリ先輩も甘い物好きとか意外っすわ」
「モッサリ先輩って何? 俺の事?」
「そですよ~。何かモッサリしてる感じなんで」
「ガッデム!」
そのやり取りに付いて行けない。控え目な態度で彼らを見守っていた。
「あ~あ…」
頬杖をつきながらケータイを取り出す。そのまま画面を操作した。
「……やっぱり来てないか」
送信したメッセージの返事が届いていない。既読した痕跡すら皆無。どう考えても避けられていた。
「向こう着いたらどうするんすか?」
「1人、友達と合流してそれから街を歩き回る予定」
「先輩のクラスメートの人っすよね? 荷物とかどうするんっすか?」
「え~と…」
当初は自分の分だけを駅のコインロッカーに預けておく予定だった。だが今は3人分の鞄がある。しかも紫緒さんのバッグはかなり大きめ。これから向かう先は有名な観光地なので収納場所を確保出来るかは疑問だった。
「もし師匠に会えなかったらどうするんすか?」
「一応見つけるまでは帰らないつもり。ホテルにでも泊まれば良いし」
「おぉ~、ホテルとか大人」
「けど予約してないから泊まれるか分からないんだよね。当日でもいけるのかな…」
今までに自分で受付を通って宿泊した経験はない。保護者なしでの遠出も。
全てが手探りな状態。それに本日中に華恋を見つけられなけば旅行先のホテルの予約も解消しなければならなかった。
「俺、あんまり金持って来てないぞ」
「僕も無駄遣いはしたくないかな。なるべくなら今日中に目的を果たしたいや」
「うちもお金の浪費は抑えたいっすね。宿泊とかするなら尚更」
「は?」
紫緒さんの発言に友人と2人して食いつく。膝元に置かれている物体を指差しながら。
「こ、これは?」
「チョコバーは必要な物じゃないですか。これから真夏の街を歩き回る為に必要なエネルギーを摂取してるんです」
「エネルギー摂取ねぇ…」
きっと遠足気分で買い込んだのだろう。彼女のお金だからどう使おうが本人の自由なのだが。
それから何度かの乗り換えを済ませ数十駅という区間を移動。4時間近く車両に揺られて隣県の駅へとやって来た。




