18 失踪と疾走ー2
「ただいま」
翌日もバイトに精を出して帰宅する。汗だくになりながら住宅街を歩いて。
「……あれ?」
玄関のドアノブに手をかけるが動かない。どうやら鍵がかかっているらしい。
「仕方ないな…」
不満を漏らしながら施錠を解除。扉を開けて中へと入った。
「ただいま~」
「お?」
洗面所で顔を洗ってると威勢の良い声が聞こえてくる。義妹の甲高い声が。
「おかえり。どこ行ってたの?」
「リエちゃん達と遊んでた。ファミレス行ってきたから晩御飯はいらないや」
「父さん達いないんだけど。今日って帰って来ないんだっけ?」
「昼過ぎまで家にいたから夜勤じゃない? あ~、楽しかった」
挨拶を済ませると彼女がすぐ横をすり抜け廊下へ。疲れた様子を見せずに階段を駆け上がっていった。
「……ご飯どうしよう」
母親不在の状況をどう乗り切ろうか悩む。デリバリーに頼るかコンビニに買いに行くかを。
帰ってきた華恋に頼んでも良いのだけれど、なるべくならそれはしたくない。なので素直に買い物に行く決意を固めた。
「ははは、この番組面白いね」
「……戦争記念特番で何笑ってんの」
「すいません…」
食事後はリビングで寛ぐ。母親がいないのを良い事に冷房やテレビのボリュームをガンガンにつけた状態で。
「ん…」
だが楽しかったのも途中まで。いつしか時計から目が離せなくなっていた。
「ね、ねぇ。もうすぐ12時になるんだけど…」
「ん? あぁ、本当だ。いつの間にかこんな時間になってたんだ」
「ちょっと遅くない? 電車だって止まっちゃうし」
「何が?」
「何がって…」
不安を共有するように話しかける。床に転がって漫画を読んでいた香織に。
「友達の家に泊まるって言ってたんでしょ。いつ帰って来るの?」
「あぁ、華恋さんの事か。そういえば遅いね」
「誰の家に遊びに行ってるのさ?」
「私に聞かれても知らないよ。同じクラスなんだからまーくんの方が詳しいんじゃないの?」
「……本当に知らないんだよね?」
嘘をついているとは思えない。それは素の人間の反応だった。
「今日もまた泊まってくるんじゃない?」
「2日続けて?」
「そうじゃないならとっくに帰って来てるでしょ? 連泊だって、絶対」
「それはマズいって…」
1人暮らしの社会人ならともかく自分達はまだ学生。外泊なんてしたらお世話になる相手だけでなく家族の人達にまで迷惑がかかってしまう。
「そんなに心配なら電話してみれば?」
「だね…」
言われてから気付いたがその通り。本人に直接確認してみればいいだけの話だった。
「……いや、ダメだ」
スマホを取り出したがすぐに仕舞う。帰宅するよう催促したとしても今は既に深夜。こんな遅い時間に外を歩かせるなんて危険極まりない。
ならまだ友達の家で泊まらせてもらった方が安心だろう。連絡を取ろうとした意志をすぐに掻き消した。
「う~ん…」
居場所ぐらいは尋ねてみるべきかもしれない。けど華恋だって小さな子供ではない。何より彼女が帰って来ない原因は恐らく自分にあるわけで。過剰に心配して調子に乗られる方が面倒だった。
「ま、いっか」
明日にはひょっこり帰って来るハズ。帰宅を促す簡単なメッセージだけ送信して眠りについた。




