表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/354

17 裏切りと涙ー1

「んっ…」


 ウーロン茶の入ったグラスを口元に持っていく。中身を乾燥した喉に流し込む為に。


「え~と、久しぶり」


「そうですね」


「元気……だった?」


「……まぁ」


 すぐ目の前には2ヶ月ぶりに顔を合わせる人物が存在。ソファの上に体育座りしている元後輩がいた。


「ん~…」


 鬼頭くんに誘われて家に遊びに来たのに何故かその本人は外へ。1人取り残されて狼狽えていると優奈ちゃんが声をかけてきてくれたのだ。


「そういえばもう夏休みだね。そっちの学校も?」


「はい。怠惰な日々を過ごしています」


「最近暑いよね。もう外に出るのが億劫でさ」


「私はクーラーの効いた涼しい部屋に1日中いるので暑さを感じていません」


「ふ、不健康すぎやしませんかね。それ…」


 空気が微妙に気まずい。ケンカをした訳でもないのに見えない隔たりが存在。


「最近どう? 何か変わった事とかあった?」


「いえ、まったく。新しいバイトも見つけてないですし」


「なかなか良い条件の場所って無いよね。学生は特に」


「というより探してないんです。やる気が起きなくて」


「そ、そうなんだ…」


 以前に鬼頭くんに聞いていた通り彼女からは覇気が感じられなかった。オーラが完全にゼロの状態。最初は暗い室内にいるせいかと思っていたがそうではなかった。


「先輩はまだバイト続けてるらしいですね。恵美から聞きました」


「特にやめる理由もないからね。とりあえず高校いる間は続けようかなと」


「はあぁ…」


 会話中に溜め息が発生する。部屋の空気を更に重い物へと変化させる仕草が。


「そういえばお兄ちゃん遅いね。どこまで行ったのかな」


「地獄じゃないですか」


「どうしたんだろう。何かトラブルにでも巻き込まれたとか」


「もういっそこのまま帰って来なければ良いのに」


「それは色々と困るような気がするんですが…」


 話が上手く噛み合わない。彼女から返ってくる答えは全てこちらの思惑を打ち砕くような内容だった。


「……先輩は自分の人生楽しいですか?」


「へ? さ、さぁ。どうだろうね」


「ん…」


「どうしていきなりそんな事を聞くの?」


「意味はありません。何となくです」


「そ、そう…」


 話題を模索していると相手から質問を振られる。中身のない問い掛けを。


 ご両親は揃って外出中らしい。夏休みとはいえ平日だから仕事なのかもしれない。


「紫緒さんってなかなか面白い人だよね。騒がしいけど慣れると楽しい子だ」


「あの子、基本的にお馬鹿ですからね。元気なのが唯一の取り柄なんです」


「最近も毎朝一緒の電車で登校しててさ。うちの妹達とも仲良くなっちゃって」


「……それは良かったですね」


「あっ…」


 咄嗟に手を顔に移動。口を塞いだ後に失言だと気付いた。華恋の存在を出すべきではなかった事に。


「え~と……優奈ちゃんは夏休みの予定ってある?」


「1ヶ月間、一度も外出しない耐久レースにチャレンジする予定です」


「や、やめようよそれ。体に悪すぎ」


「もう私には他にする事が残されていないので」


「じゃあどこか遊びに行こうよ。せっかくの夏休みなんだからさ」


「遊びに……ですか」


 話を露骨に切り替える。断られるのを覚悟して。


「そうそう。海とか山とか遊園地とか」


「えっと…」


「プールとかも良いかも。涼しくて気持ち良さそう」


「……プール」


「女の子の可愛い水着姿とか拝めるかもしれないしね、あはは」


「むぅ…」


 冗談めかしで高笑い。だが目の前にいる人物はクスリともしていなかった。


「ご、ごめんなさい…」


「どうして謝るんですか?」


「……なんとなく」


 へこんでいる後輩を励まそうとしたハズなのに。自身にダメージを蓄積しただけで終了してしまった。


「私なんかと行っても楽しくないと思いますけど…」


「そ、そんな事ないって」


「プロポーションも悪いですし。水着を着ても子供にしか見えないので」


「別に構わないよ。胸が小さくても平気平気」


「……そうですね。背も小さいし胸も小さいし器も小さいし、ダメダメですね」


「すいませんでしたぁあぁぁっ!!」


 彼女が膝を抱えて顔を埋める。その姿を前に土下座して必死に謝罪した。


「なら遊園地は?」


「この時期はどこも混雑してると思いますよ」


「それは仕方ないって。人混みにウンザリするとしても家に引きこもってるよりずっと有意義だと思う」


「でも先輩の妹さんに悪いですし…」


「良いよ、そんな事いちいち気にしなくても。黙ってたらバレないもん」


 もし華恋に外出現場を発見されたら怒られるだろう。けれど悪事を働いてる訳ではないのだから堂々としていれば良い。


「先輩は良い人ですね。私なんかの為にわざわざ気を遣ってくれて」


「そんな事ないよ。ただ最後の夏休みだから全力で満喫したいんだ」


「なら私なんかより他の人達と遊ぶ事をオススメします」


「優奈ちゃんとどこかに行きたいんだよ。バイトしてないなら大抵の日は暇なんだよね?」


「まぁ、そうですね…」


 抵抗する意見をはねのけ遊びの約束を取り付ける。半ば強引に。


 それからしばらくして鬼頭くんも合流。家を出てから1時間以上も経過しての帰宅の原因は立ち読みだった。


 3人になった後は適当にゲームで遊び、夕方頃に退出。駅前の本屋に立ち寄ると雑誌を1冊購入。夕焼けが綺麗な住宅街を歩いて帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング 面白いと思ったらクリックしてもらえると喜びます(´ω`)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ