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16 未練と失恋ー1

 授業と授業の合間にある貴重な休み時間。教室の片隅でゲームを持ち寄ってプレイする。


「丸山くんって夏休みってどうするの?」


「実家に帰るよ。夏期講習も向こうで受けるつもり」


「実家ってどこ? ここから遠いの?」


「熱海」


「へぇ。なら海水浴し放題だね」


「地元民は意外に海で泳がないけどね。基本的に観光客だけだよ」


「あ、崖から落ちた」


 クラスメートと2人でレーシングゲームの通信対戦に熱中。ボタンをポチポチ押していた。


 夏休み前だからか教室内は開放的な空気に。同時に受験前のピリピリした雰囲気も入り混じって奇妙な空間になっていた。


「赤井くんはどうするの?」


「バイト……ぐらいかな。他には予定が無いや」


「前に旅行に行くって言ってなかったっけ?」


「……あ、そうだった。忘れてた」


 泊まりで旅行に行く場合は必然的に週末になってしまう。だが休日に連続でバイトを欠勤する事が難しい為、華恋に夏休みまでの引き伸ばしを提案していた。


「どこに行くの?」


「まだ決めてないんだよね。具体的な希望とか無くて」


「宿泊施設は早めに予約しておかないと。時期によっては埋まってるかも」


「そうなんだよねぇ。早く決定しなくちゃとは思ってるんだけど」


「良いなぁ、僕もどこか行きたいなぁ」


「あ、また崖から落ちた」


 資金はそれなりに貯まっていた。後は予算に見合った予定を組むだけ。


「ふぅ…」


 今年が高校生ラストの夏休み。去年も一昨年もただ家でゴロゴロしていただけの毎日。だから最後の夏ぐらい何か1つでも楽しい思い出を作りたかった。




「うぉりゃあっ!! お前らまた明日な、うぉりゃあっ!!」


 1日の授業が終わると自由時間が訪れる。華恋と一緒に廊下へと移動した。


「旅行の行き先決まった?」


「まだ」


「やっぱり恋人の聖地が良いなぁ。鐘を鳴らせる岬とかさ」


「そういう所は彼氏を作って行ってくれよ…」


 今日はバイトが無い。颯太の所に行こうとしたが止められてしまった。


「ん?」


「あれ、智沙ももう帰り?」


 周りに聞かれたくない会話を交わしながら下駄箱までやって来る。そこでいつも一緒に登校している友人と遭遇した。


「そうよ。アンタ達は相変わらず仲良いわね、2人で並んで下校とか」


「違うよ。このストーカーが勝手に付いて来るんだってば」


「やだ、雅人くんたら。人前だからって恥ずかしがらなくてもいいのに」


「あががががっ!?」


 冗談に対して冗談で返す。直後に横から伸びてきた手が思い切り喉元を圧迫してきた。


「……見せつけてくれちゃって」


「ゴホッ、ゴホッ……智沙も一緒に帰る?」


「あ~、アタシは良いや」


「お?」


 彼女が窓の方に顔の向きをズラす。視線の先を追ってみたが何もなかった。


「アンタ達の邪魔しちゃ悪いから遠慮しておくわ」


「……そっか。なら先に帰ろうかな」


「え? 良いの?」


「良いんだって。ほら、行こ」


「あ、うん」


 驚いている華恋の腕を引っ張る。上履きからスニーカーに履き替えるとそのまま外へ出た。


「納得するの早かったじゃない。そんなに私と2人で帰りたかったんだ」


「あのお嬢さんもいろいろ忙しいんだよ。察してあげて」


「何の用事だろ。委員会とかって訳ではなさそうだし、部活にも入ってないのに」


 そして校庭に出たタイミングで会話を再開。相方が人差し指を口元に添えながら頭上を見上げた。


「でも下駄箱まで来てたしなぁ。職員室とかに用事なら靴に履き替える訳がないし」


「あんまりアレコレ詮索するのやめよ。華恋だって人に知られたくない秘密ぐらいあるでしょ?」


「趣味の事とか?」


「そうそう、智沙にも人に言えない事情があるのさ。だからソッとしておいてあげて」


「ほ~い」


 またいつものように野球部の見学に出向くと予測。この暑い中よくやるなと感心してしまった。


「部活か…」


 今は夏の大会の真っ只中。しかしうちの野球部は地区予選で敗退。彼らにとっては甲子園に出場する事がずっと掲げてきた目標だったハズ。それが途絶えてしまった時の心境を想像すると不思議と切なくなってきた。

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