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15 暴力と女子力ー2

「どうして駅で待ち伏せなんかしてたの?」


「ん?」


 バイトの暇な時間中に後輩に話しかける。朝の続きを再開するように。


「そりゃ先輩の妹さんに用があったからっすよ」


「弟子入りがどうとか言ってた件?」


「そう、それ。あの人の女子力を吸収したいんです」


「女子力ねぇ…」


 周りの人間達から見たら華恋は才色兼備な女子高生なのかもしれない。ただ本性を知っている立場から言わせてもらえば背伸びした子供。暴言は吐くし、人使いは荒いし、すぐ人を騙すし。器が良くても中身が伴ってなければダメという良い見本だった。


「やっぱり紫緒さんもオシャレとか気になる方?」


「当たり前じゃないっすか。見た目が悪かったら男子にもモテないし」


「付き合ってる人とかいないの?」


「中学の時はいましたよ。でも2ヶ月ぐらいで別れちゃいました」


「そうなんだ。案外短いね」


「そっすか? 皆、そんなもんでしたよ」


「……へぇ」


 今の話が本当だとしたら自分はかなり遅れている。交際期間どころか交際経験自体がほぼゼロだから。


「先輩は今までに何人ぐらいの人と付き合った事ありますか?」


「さ、さぁ……何人ぐらいでしょう」


「ちなみに華恋師匠の方は?」


「向こうも多分いないよ」


「ふむ。けどさすがにずっとフリーだったなんて事は無いっすよね?」


「いやぁ、どうかな…」


 まさか兄妹間で告白したり口付けを交わしたなんて。そんなブッ飛んだエピソードを打ち明けられるハズがなかった。


「誰か良い男いないっすか? 彼女募集中の人とか」


「颯太は?」


「あぁ、あの人はお断りで。男としての魅力が壊滅的に破綻してますもん」


「そ、そうですか…」


 悔しいがその言葉に反論が出来ない。自分も似たような感想を抱いているから。


「この人とかどう?」


「うわっ、イケメン!」


「ならこの人は?」


「ん~……あんまタイプじゃないっすわ」


「じゃあこの人」


「誰っすか、このオジサン」


「僕のお父さん」


 その後はスマホの画像を見せながら盛り上がる。店長に見つからないように警戒しつつ。どうやら彼女はかなりの面食いらしく鬼頭くんの写真に釘付け。丸山くんや他のクラスメートには見向きもしなかった。




「ちいっす、ちいっす」


「はよ~」


 そして翌日の登校時間にも乱入者が車内に現れる。まるで空気を読まずに。


「先輩達はいつも一緒に行動してるんすか?」


「そうだよ。地元同じだし」


「良いなぁ、そういうの。男女が一緒に仲良く登校とか」


「紫緒さんはいつも1人なの?」


「そですぜ。孤独に一匹狼通学ですわ」


「ふ~ん、やっぱり喋り相手がいないのは淋しいよね」


 人見知りしない性格のせいか言葉をガンガン発信。よく喋る香織や智沙より口数が多かった。


「今日もキレイですね、師匠。一段と美人さんです」


「あ、あの…」


「化粧はしてるんですか? 素顔に見えますけど」


「ちょ、ちょびっとだけ。チークとか」


「あぁ、やっぱり。ほっぺのピンク色が可愛い」


 挨拶を済ませた紫緒さんは積極的に華恋に話しかける。タレントに詰め寄るレポーターの如く。


「もし良かったらうちにも教えてください。化粧なかなか上手くならなくて」


「え、えぇ…」


「ダメな所とか指摘してほしいんです。女子力を磨きたいんす!」


「……突然そんな事言われても」


 そのまま突発的な意見を提案。言い寄られた華恋が助けを乞うように視線を送ってきたが見て見ぬフリを通した。


 このやり取りは翌日も、そのまた翌日も続く事に。帰宅する度に自分が妹に怒られ、バイト先では後輩に根掘り葉掘り聞かれる始末だった。


「師匠ぉぉぉぉっ!!」


「ひいぃっ!?」


「女子力向上の為の指導、ダメですか!?」


「ダメっていうか、その…」


「ダメなんですか!?」


「あ、あんまり近寄らないで」


 紫緒さんがしつこく迫る。ストーカーを彷彿とさせる勢いで。これで相手が男だったなら容赦なくビンタを浴びせているハズ。しかし女子となればそうはいかなかった。


「良いじゃん、弟子にしてあげたら」


「ねぇ?」


「ちょっと、2人とも無責任な事言うのやめてよ!」


「アンタに会いに毎日来てくれてるのよ? お願い事叶えてあげなきゃ可哀想じゃないのよ」


「だからっていきなりこんな…」


「可愛いじゃないの。アタシだったら喜んで受け入れてあげるのになぁ」


「で、でもさ…」


 智沙と互いに顔を合わせる。紫緒さんのキャラに慣れてしまった彼女はすっかり平常運行になっていた。


「……はぁ。分かりましたよ」


「本当ですか!? やったぜ」


 そして激しい攻防戦の末に華恋が妥協する。その顔は諦めに満ちていた。


「で、具体的にうちは何すれば良いんすか?」


「さ、さぁ? 私に聞かれても」


「とりあえず一緒に遊んでみたら? 何するにも親しくなるのが一番の近道よ」


「あ、なるほど。そのアイデア頂きます」


「ちょっと…」


「じゃあ、そういう事でいいっすか、師匠?」


「……お好きにどうぞ」


 智沙のアドバイスで2人での外出が決定。ギャラリーからしたら笑いのネタでしかない。


 会話の流れで出かける日付も設定。連絡先の交換をすると紫緒さんは満足そうな表情を浮かべていた。

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