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14 猜疑心と親切心ー4

「……本当にいるのかな」


 華恋と並んで住宅街を散策する。うちの近所と違って立派な門付きの一軒家が多い場所を。


「さっきの子がバイト先の新人?」


「ん? そうだよ」


「ふ~ん、随分と仲良さそうだったじゃない」


「うっ…」


「わざわざ遠い場所まで足を運んでポイント稼ぎですか。お兄様も色々忙しいですなぁ」


「こ、困ってる人の助けになってあげるって気持ちが良いよね。自分で言うのも何だけど、とても誇らしい事だと思うよ!」


 隣を歩いている相方がジト目で睨んできた。牽制と威圧の意味を込めた台詞を吐き出しながら。


「華恋は変質者に出くわした事ある? 前の学校とかで」


「ん~、無いかなぁ」


「そっか」


「けど痴漢なら何度かあるよ。電車の中でお尻触られたり」


「えっ、いつ!?」


「ここの学校に転校してきた時とか。ほら、私が一足先に家出て登校してたりしたじゃない」


「あぁ、あの頃か」


 どうやらまだ険悪な仲の時にいろいろ辛い目に遭っていたらしい。まだ友達もいなかった頃に。


「あれは怖かったなぁ。声は出ないし体は動かないし」


「やっぱりそういうもんなのか…」


「だからなるべくなら1人では満員電車に乗りたくない。二度と同じ目に遭いたくないもんね」


「うん。気をつけよう」


「ま、今は頼りにならないボディガードがいるから平気なんだけど」


「どうも…」


 言葉に言い表せない不快感が湧き出してくる。それが家族に対しての配慮なのか、それとも1人の異性に対する嫉妬なのかが分からなかった。


「お?」


 会話を弾ませていると不思議な光景が視界に飛び込んでくる。塀をよじ登って校内を覗き込んでいる男の姿が。


「ちょっと、あれさっきの子が言ってた不審者じゃないの?」


「え、え…」


「捕まえないと。ほら、早く」


「ま、待って待って!」


 突然の展開に思考が追いつかない。二重の意味で予想外だったのでパニックに陥っていた。


「そこのアンタ、そんな場所で何してんのよっ!」


「げっ、マズい!」


「こらーーっ!!」


 葛藤している間に華恋が声をかける。一片の躊躇いもない大声で。


「あっ、逃げた!」


「これで犯人確定ね。なんとしても捕まえるわよ」


「う、うい…」


 その行動で男が逃走を開始。自分達がいる方とは反対側の道路へと駆け出した。


「どうしよう。颯太達に連絡する?」


「んなの後々。そんな悠長な事してる間に見失っちゃうでしょうが」


「あぁ、確かに」


 助けを呼ぼうとしていた思考をすぐに改める。2人して狭い道路を爆走した。


「颯太、そいつ捕まえてーーっ!!」


「ん?」


「どけ、クソガキッ!」


「きゃっ!?」


「あっ!」


 そして進む先に運良く友人達の姿を発見する。だが男の手により強く突き飛ばされてしまった。


「紫緒さん、大丈夫?」


「いつつ……何なんすか、あの男」


「多分、あの人がさっき言ってた不審者だよ」


「え、えぇ!?」


 パッと見、30代か40代の男性。帽子を被っていたので断言は出来ないが。


「ちょっと何してんのよ。ボサッしてたら逃げられちゃう」


「あ、うん」


「つかどっち行ったのよ。姿が見えないじゃない」


「そこの道路を左に曲がったハズだ。引き返したのかもしれない」


 華恋と颯太が言葉を交わす。危機的状況だからか口調が荒くなっている事をお互い気にしていなかった。


「そうか、また学校の方に戻る気ね」


「だったら追跡する方と引き返す方に別れよう。僕はこのまま追いかけるよ」


「雅人がそっちに行くなら私もそうする」


「え? 華恋さんがこっちに行くなら俺も同じ方を選ぶぞ」


「ならうちも皆と同じ方に行くっす」


「どうして全員同じ方角を選択しちゃうわけさ!」


 統率力が無さすぎる。よく考えたら自分以外は勉強が苦手なメンバーだらけ。


「くっ…」


 とりあえず華恋と逆のルートを選ぶ事に。走ってきたばかりの道を全力で引き返した。


「先輩、待って待って!」


「紫緒さん、ダッシュ」


 後ろから後輩が付いてくる。重そうな鞄を携えながら。


「紫緒さんは格闘技や武道の経験はあるの?」


「いや、まったく」


「えぇ……なら何で変質者退治なんか名乗り出ちゃったのさ」


「もし格好良く活躍したら目立てるかなぁと。新聞やテレビに取材されたり」


「あ、友達の為じゃなかったのね」


 私利私欲にまみれた動機に唖然。本能に従順な人物だった。


「げっ!」


 曲がり角を2回曲がると足の動きが止まる。先程の不審者と正面から対峙する状況になってしまったので。


「すいませ~ん、この辺で怪しい人を見かけなかったっすか?」


「その人だよ!!」


「げっ、マジか!」


「ていうかあの人、何か持ってない?」


「え?」


 後輩がアホすぎるボケを披露。ツッこんでいる間に男が背負っていたリュックから棒状の物を取り出した。


「うりゃああぁぁぁっ!!」


「う、うわっ!?」


「ひえっ!?」


 それはどこからどう見ても大工仕事に使う物。釘を打ち付ける時に活躍する金属製の工具だった。


「いきなり何すんだ、アンタ!」


「お、お……俺の邪魔するなぁ!」


「はぁ?」


 突撃しながらの攻撃を間一髪で交わす。大して近付いて来なかったのが幸いして。


「そんな物使うなし。当たったら危ないだろうが!」


「黙れ黙れ!」


「女に手ぇ出す最低クズ野郎。くたばっちまえ!」


「なっ!?」


 そんな男に向かって紫緒さんが暴言を連発。勇猛果敢に向かい合っていた。


「黙れ、クソブス!」


「ひぃっ!?」


 だがその行動は火に油を注ぐ事に。怒りを露わにした男が再び金槌を持つ手を振りかぶった。


「あだっ!?」


「お、お前らだって金欲しさに体売ったりしてるクセに!」


「や、やめ…」


「頭叩き割ってわる!」


「先輩、助けてぇーーっ!!」


 肩を押された紫緒さんが地面に尻餅をつく。怯えた声で救いを求めながら。


「ちょっと待っ…」


「うぉらあぁあぁぁっ!!」


「……え?」


 咄嗟に庇おうと動いた瞬間にどこからか雄叫びが聞こえてきた。猛獣のようなけたたましい唸り声が。


「死ねーーっ!!」


「ごふっ!?」


 直後に目の前をスカートを穿いた人物が通過する。ジャンプを加えた豪快な飛び蹴りを男の顔面に炸裂させた。


「しゃっ、オラァッ!」


「か、華恋!」


「女に手を出す不届き者はね、この世からいなくなっちまえばいいのよ!」


「何やってんのぉ…」


 どうやら追いついて来た妹が助けてくれたらしい。技の成功に酔いしれた彼女は小さくガッツポーズを決めていた。


「お~い、みんな無事か」


「あ…」


「警備員の人連れてきたぞぉ!」


 やや遅れて颯太も到着する。後ろに青い制服を着た男性を連れた友人が。


「アナタ、大丈夫だった?」


「え?」


「どこか怪我とかしてない?」


「えっと、平気っす…」


 茫然としている紫緒さんに華恋が声をかけた。優しい口調で。


「……ったく、セクハラ野郎とか全員くたばっちまえばいいのに」


「暴力振るったね」


「あ…」


「いや、良いよ。むしろこれは感謝しなくちゃいけない出来事だ」


 さすがに今回は責め立てる訳にはいかない。彼女がいなければ誰かが怪我を負っていたかもしれないのだから。


「……かっ」


「ん?」


「格好いいぃぃーーっ!!」


 慌ただしい場に今度は後輩の声がこだまする。畏敬の念を込めたハイテンションの台詞が。


「凶器を持ってる野郎に一歩も怯む事なく立ち向かっていくなんて」


「ちょ、ちょっと!」


「しかもこの見た目にスタイル。アナタこそ、うちが求めていた究極の女性です!」


「はぁ?」


「お願いです。うちを弟子にしてください!」


 彼女はそのまま華恋の両腕を握り締めた。意味不明な単語を口にするのと同時に。


「よっしゃ、捕まえたぞ!」


「お?」


「どうだ、俺の力を見たか」


「あの、颯太…」


「これで可愛い女の子を紹介してもらえるぜ、ヒャッハーーッ!」


「……何もしてないのにどうしてそこまで誇らしげになれるんだ」


 そうこうしているうちに友人が不審者に寝技をかける。表情を思い切り緩ませながら。


「はぁ…」


 まさか無理やり付いてきたオマケにいいとこ取りされるなんて。友人共々、不甲斐なさすぎる結果だった。


 その後、男は警備員さんの手によって校内へと連行。自分達は面倒な警察が来る前にその場から逃走した。

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