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13 メイド服と機関銃ー4

「ねぇ、どうどう?」


「ん~、可愛いんじゃないかな」


「本当!? やった!」


 メイドがその場でクルクルと回転する。丈が短いスカートを翻すように。そのせいでフワリと捲れ上がったレースの下から下着がチラチラ見えていた。


「やっぱり買って良かった。さっきまで凄く後悔してたもん」


「良いリアクションしてくれなかったから?」


「うん。予想ではスカートの下の絶対領域に見とれると思ってたし」


「だから太ももを露出するような衣装にしたのか…」


「えへへ、ちょっぴり恥ずかしかったけどね」


 計算してミニを選んでいたなんて。まんまとその策略に引っかかってしまった思考が情けない。


「……あ」


「ん?」


「あ、あの……ごめんなさい。ご主人様にタメ口を利いてしまって」


「いや、別に構わないから」


「自分で今日1日メイドに徹すると宣言したばかりなのに。本当に申し訳ありません」


「だから気にしてないってば」


 会話の最中に彼女の陽気なテンションが急降下する。再び申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「えっと、まずは何をすれば良いですか?」


「特にこれといって無いかな。お腹も空いてないし」


「ではお部屋のお掃除とかは…」


「別に良いよ、散らかってないし。ていうか普段から華恋が掃除機かけてくれてるじゃないか」 


「そんな……なら私はどうすれば?」


「やる事ないから好きにしててくだせぇ」


「えぇ…」


 無許可で部屋に侵入して掃除。食事の用意をしてくれるし、洗濯だってこなしてくれている。よくよく考えれば華恋の日常がメイドそのものだった。


「め、命令があるまでここで待機しています」


「……どうぞご勝手に」


 解放宣言を出すが床に正座してしまう。仕方ないので無視してやりかけの宿題に手をつける事に。


「ん…」


 シャーペンを手に持ちノートに文字を記入。難解な数式を解きながら。しかしその集中力はそう長くは持続しなかった。


「……何ですか?」


「視線が気になって集中出来ない。やっぱり部屋から出てってくんない?」


「そんな……今日1日はずっと旦那様のお側にいると決めたので、それは出来ません」


「僕の言う事なら何でも聞くって言ったじゃないか。あと呼び方がコロコロ変わりすぎ」


「出ていけという命令以外なら何でも聞きます。だからここにいさせてください」


「側にいられるのが困るんだけどな…」


 振り返ると目が合う。部屋の隅で頑なに籠城を決行している不審者と。


「華恋は宿題やらなくて良いの?」


「明日やります。だから心配してくれなくても大丈夫ですよ」


「……そっか」


 どうにかして部屋から追い出す方法を画策。意識は完全に別の方向に持っていかれていた。


「今、漫画読んでなかった?」


「い、いえ。読んでないですよ」


「そうかな…」


 再び振り返って彼女に話しかける。不自然な物音がしたので。


「やっぱり出て行ってくれ。集中出来ない」


「す、すいません! もう邪魔したりしませんから」


「漫画読んでも良いからリビングか自分の部屋に移動してよ。黙ってそこにいられると気になって仕方ない」


「もう読むのやめます。やめますからお許しください」


「読んでた事を認めるんだね?」


「……あ」


 ペンを握るがまたしても不自然な音が反響。カマをかけるとまんまと引っ掛かってくれた。


「ごめんなさい。つい魔が差してしまいまして」


「どうだった? それ面白かったでしょ?」


「あ、はい。まだ序盤しか読んでませんけど」


「三巻から盛り上がるよ。トーナメント始まるんだ」


「それは楽しみですね。ワクワクします」


「……もう君、帰って良いや。召使いの才能ないわ」


「ごめんなさいぃぃぃぃ! もうサボったりしませんからぁっ!」


 コソコソ動き回ったり、喚いてきたり。邪魔以外の何物でもない。そして集中力を奪われながらも何とか宿題を完了させる事に成功した。


「んーーっ、終わったぁ」


「お疲れ様です。肩でも揉みましょうか?」


「いや、大丈夫。それよか小腹が空いちゃった」


「ならご飯を用意しましょう! 何でも作りますよ」


 時計を確認すると正午過ぎと判明。空腹感を意識する時間だった。


「じゃあ頼もうかな。香織もそろそろ起きてるかも」


「私の分も合わせて3人分作れば良いんですね」


「ん、お願い。てか食事中もその格好なの?」


「え? それはもちろん。当然じゃないですか」


「……恥ずかしくないのかい?」


 もう1人の妹の名前を出す。そうすれば着替えてくれると思ったのに期待は大ハズレ。


 とりあえず一階へと下りる事に。2人してリビングに移動した。


「ぐわあぁあぁぁっ!?」


「おはよ」


「いつつ……ねぇ、背中にアザ出来てない?」


「あぁ、あるね。龍の形をしたアザが」


 しばらくすると全身傷だらけの義妹も登場する。彼女は挨拶を交わすとそのまま奥のキッチンへと突入した。


「華恋さん、その格好どうしたの。可愛い!」


「ふふ、ありがと。ちょっと派手かなぁと思ったんだけど」


「そんな事ないって。似合ってる似合ってる」


「香織ちゃんにも今度貸してあげるね。あ、でもサイズが違うか」


「私じゃユルユルになっちゃう。それに似合わないし…」


 2人が何事もなく会話を繰り広げる。ツッコミも戸惑いも無しで。


「えぇ…」


 自分がおかしいのかと考えたくなるようなやり取り。結局、そのよく分からない状況のまま3人で昼食をとった。



「んじゃ、リエちゃんちに行って来る」


「……今日は家に残らない?」


「どうして? 私がいなくなると不都合な事でもあるの?」


「ま、まぁ…」


 食事後に外出しようとする香織を見送りに玄関までやって来る。彼女が出掛けてしまえばまたメイドと2人きりに。その展開だけは何としても避けたいので引き留めた。


「そんなに心配なら一緒に出かける?」


「え? 良いの?」


「冗談だってば。まーくん連れてったら皆が驚いちゃう」


「で、ですよね…」


 有り得ない提案にすら食い付こうとしてしまう。その言動で自身の狼狽具合を確認。


「いや、やっぱり出かける! 1人ででもどこか遊びに行ってやる」


「……好きにすれば良いと思うよ。私はもう行くからね」


「とうっ!」


 玄関から出て行く義妹を背に階段を駆け上がって二階へ。自室で貴重品を装備した後は転ばないように一階へと戻ってきた。


「じゃあ出かけてくる」


 そして逃げ出すように靴を履く。外出を意味する台詞を吐いて。


「うぐあっ!?」


「ダメッ!」


「は、離し…」


「ダメッ!」


「出かけるんだって。だから離してくれよ」


「ダメぇぇぇぇぇぇーーッ!!」


 だが扉を開ける前に妨害の手が介入。背後から強烈なタックルを喰らってしまった。


「ずっと勉強してたから気分転換したいんだよ。外出させてくれ」


「やだ! 雅人が行っちゃったら1人になっちゃう」


「好きなコスプレ出来て楽しいじゃないか。どんな格好したって誰にも文句言われないんだし」


「今日はずっと一緒にいるって決めたんだもん。絶対に行かせないんだから!」


「ぐ、ぐぬぬっ!」


 脱出を試みるが体に絡み付く腕が離れない。やはり力では適わないらしい。


「待って待って、家の中が汚れる」


「んんっ、んんーーっ!!」


「分かったよ。もう出かけないから離してくれ」


「……ホント?」


 無理やり引きずられた事で靴の裏があちらこちらに接地。仕方ないので予定を断念した。


「あ~あ、廊下が土まみれ」


「ごめんね。すぐ掃除するから」


「いや、自分でやるから良いけどさ…」


 2人でフローリングの床に屈み込む。ほうきとチリチリを使って共同作業を始めた。


「良かった、残ってくれて」


「あんな状況でどうやって出掛けられるのさ。観念するしかないじゃないか」


「だって1人で残されるの嫌だったんだもん…」


「家にいてもやる事ないんだけど。残ったは良いけど何するの?」


 ついでに絨毯についた埃も払い落とす事に。両手で持って大きく揺らした。


「……ごめん。ただ淋しかったからつい」


「その泣きそうになる反応やめようよ。それされると何も反論出来なくなっちゃう」


「ごめんなさい…」


「はぁ…」


 こんな弱々しい華恋を見るのは久しぶり。転校を決意した時以来の出現だった。


「まだ着替える気はないの? そろそろ飽きてきたでしょ」


「ううん、全然。楽しいよ」


「でもまた口調が戻ってるし」


「……あ、ごめんなさい。つい忘れてしまいました」


「ツンデレドジっ娘甘えん坊メイド?」


「えへへ…」


 彼女が照れくささを隠すように頭を掻きだす。はにかんだその顔に不覚にもドキリとさせられてしまった。

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