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13 メイド服と機関銃ー3

「行ってきます…」


 翌日、両親と朝食を食べると単独で自宅を出発する。険悪な雰囲気を味わいたくないという理由から。


「おはよ」


「はよ、かおちゃん達は?」


「まだ家にいる。先に行っちゃおう」


「はぁ?」


 そして駅にやって来ると智沙と合流。彼女と共にいつもより早い電車へと乗り込んだ。


「どうして2人を置いて来ちゃったのよ。アンタ、今日って日直?」


「違うよ。ただ華恋と顔合わせたくなかっただけ」


「またケンカしたのか。相変わらず仲良いわね」


「本当に仲が良かったら頻繁に争いなんてしないと思うけど」


 車内はそれほど混雑していない。けれど席がほとんど埋まっていたので立つ事に。


「喧嘩の原因は?」


「誕生日プレゼント」


「あぁ、そういえばもう18になったんだったわね。おめでとう」


「サンキュー」


 会話中にお祝いの言葉が飛んでくる。照れくさくなって視線を窓の外に逸らした。


「んで、顛末は?」


「華恋が『プレゼントは私』とか言い出してさ」


「……さすがに冗談よね?」


 答えに対して怪訝な表情が返ってくる。明らかに信用していない反応が。


「それで泣かしてしまったという訳さ」


「おう。お前が悪い」


「いやいや…」


「普通の兄妹なら距離を置きたがる年頃なんだけどね。アタシ達ぐらいの年代で男女が一緒にいたらカップルにしか見えないもん」


「うん……だからずっと側にいるのは嫌なんだよ」


 流れで昨夜の出来事を説明。駅に着く度に乗客が少しずつ増えていった。


「何かのショックで記憶喪失にでもならない限り変わらないかも。ずっと雅人の後を追っかけてそう」


「ひいぃっ…」


「しっかし妹にストーカーされるとか……面白すぎ、ププッ」


「笑い事じゃないんだってば。前に僕が彼女を自宅に連れて来るって例え話をしたら、その子を刺すとか言い放ったんだよ?」


「キャーーッ、怖い」


「絶対、他人事だと思って楽しんでるでしょ?」


「うん」


「はぁ…」


 友人がニヤけ面で大ハシャぎ。とはいえ他にこの愚痴をこぼせる相手がいないから困っていた。


「てか雅人はどういう状況になるのが理想なのよ?」


「ん~、華恋が僕に付きまとわなくなって、ヤキモチ妬かなくて、自分に彼女が出来たら良いなぁと」


「最後のはアンタ自身が努力するしかないとして、残り2つはあの子が心を入れ替えない限り無理じゃん」


「なんだよね。この障害をどうやって乗り越えるかが問題だ」


「華恋の理想的展開は雅人と一緒にいられる事なんでしょ? アンタ達の希望が真っ向から対立してんじゃない」


「……確かに」


「頑張んなさいよ、お兄さん」


「心が折れそう…」


 まずは泣かせてしまった事を謝るべきなのかもしれない。しかしそれだと振り出しに戻ってしまうだけ。どうしようか悩んでいると彼女の方から先に接触してきた。




「……何すか、これ」


「あ、あの…」


 休日の昼間。訪問者が部屋の入口で立ち竦んでいる。ただし違和感バリバリの格好で。


 黒いドレスに白いフリフリのレース。頭部には可愛らしいカチューシャが存在。それはまるでアニメに登場するキャラクターのような衣装だった。


「なぜメイド服着てるのさ……それ、メイド服だよね?」


「あ、うん。買ってみたんだけど……どうかな?」


「どうって聞かれても、どうしたんだとしか言いようがない」


「やっぱり変?」


「いや、それは…」


 彼女が衣類の裾をつまんで持ち上げる。極端に短いスカートを。


「自分で買ってきたの?」


「うん。高かったけど可愛かったから奮発しちゃった」


「いかがわしいバイトとか出来そうな衣装だ。それで何で急に?」


「んんっ、え~と…」


 状況が理解出来ない。説明を求めると小さな咳払いが響き渡った。


「きょ、今日1日だけはアナタの忠実な下部です。何なりと御命令くださいませ、ご主人様」


「……は?」


「だから今日は雅人のメイドさんで…」


「え、え……え?」


「何でも言う事聞きますので宜しくお願いします」


 続けて彼女が頭を下げてくる。目上の人にお辞儀でもするかのように。


「えぇ…」


 その言動で思考回路の混乱はますます加速。テレビのドッキリ企画に出演しているような心境だった。


「……あの、聞いてる?」


「いや、待って待って。何ごっこなの、これ?」


「ん~、ご主人様とメイドさんごっこ?」


「なるほど……じゃなくてどうしてこんな事してる訳!?」


「わ、私がやりたかったから。せっかくの誕生日だし」


「……もしかして前に言ってた誕プレの件?」


「うん」


「やっぱり…」


 質問に対して彼女の頭が上下に動く。そこで初めて行動の真意を把握した。


「意味が分からないよ。何を考えていきなりそんなふざけた真似を…」


「べ、別にふざけてないもん。真面目だし」


「これのどこが真面目なのさ。どこからどう見ても頭おかしいって」


「……そこまで言う事ないじゃん。これでも私なりに一生懸命考えたんだからさ」


「一生懸命考えて何故メイドになろうとする答えに行き着くんですかねぇ…」


 自分達は喧嘩していたハズだった。些細ないざこざが原因で。だから余計に目の前の光景が受け入れられなかった。いつもの華恋なら報復に来るハズだから。


「雅……ご主人様の身の周りのお世話を何でもやります。だからお側にいる事を許可してください」


「キャラ定まってないなら無理しなくても。今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」


「す、すみません。これからは気をつけます」


「いや、だから無理してキャラ作るのをやめなと…」


「ごめんなさい。どんな仕打ちでも受けますからお許しを」


「えぇ…」


 追及の言葉に対して再び頭を下げてくる。鹿威しのように幾度にも渡って。


「何でも言う事を聞くって、つまりどんな命令をしても構わないって事?」


「はい。私に出来る事なら何だっていたします」


「じゃあ着替えろって言ったら黙って着替える訳?」


「……私の着替えがご覧になりたいのですか?」


「違うって! 普段着に戻ってくれって意味だよ!」


 メイドの口からとんでもない勘違い発言が炸裂。思わず怒鳴り散らしてしまうスケベな台詞が飛び出した。


「申し訳ないですがそれは出来ません。ご主人様の前ではキチンと正装でいなければならないので」


「別にご主人様とか呼ばなくて良いし。いつも通りに戻ってくれて構わないから」


「今日1日だけは雅人様のお世話をすると決めたんです。これだけは譲れないんです」


「1人で勝手に決めないで。許可した覚えない」


「服を脱げと言われれば裸にだってなります。だからどうかお付き合いください」


「尽くそうとする前にまずそのエロ思考どうにかしようよ!」


 脱げないと言ったり脱ぐと言い出したり。主張がハチャメチャだった。


「頼むから変な真似事は勘弁してくれ。僕まで白い目で見られちゃう」


「私は笑われたって構いません。その覚悟は既に出来ています」


「そっちにはあっても、こっちには無いから。こんなプレゼントいらないし!」


「……どうしてもダメですか?」


「ダメです」


「今日1日だけ。1日だけで良いから付き合ってはもらえませんか?」


「しつこいなぁ。ダメって言ったらダメなんだってば」


「そうですか…」


 頑なに拒否の姿勢を貫く。さすがにこんな荒唐無稽な状況を受け入れる訳にはいかないから。


「ちょ……何する気?」


「……脱ぐ」


「へ? どうしていきなり。やめようよ」


 やりかけの宿題に手をつけようとしていると彼女の口調が変化。腰回りに付いている帯をほどき始めてしまった。


「やっ、離してよ!」


「ストリッパーかっての。どうして兄貴の部屋で素っ裸になろうとしてるのさ」


「だって似合わないって言われたもん。さっさと着替えろって言ったもん」


「いや、似合わないとまでは言ってないけど…」


 その行動を阻止しようと腕を掴む。狭い室内で奇妙な押し問答を展開。


「せっかくさ、雅人に喜んでもらおうとしたのにさ、見向きもしてくんないんだもん…」


「何の前触れもなく家族がこんな格好で現れたら誰だって戸惑うし。華恋は僕がいきなり水着姿で部屋に現れたら正常でいられるの?」


「そうだとしても邪険に扱う事ないじゃん。少しぐらい誉めてくれたって良いのに…」


「誉めたらまた調子に乗るじゃないか。だからだよ」


「似合うかなぁって思ったのに。それで思い切って買ってみたのに……なのに、さ」


「ちょっ…」


 揉めている途中で彼女がグズり始めた。芝居とは思えない態度で。


「ちっとも喜んでぐんないし、それどころか否定ばっかしてぐるし…」


「否定っていうか、つまりその…」


「雅人が気に入らないって言うなら脱ぐ。こんな衣装ビリビリに破り捨ててやる」


「いやいや、せっかく買ったのに勿体ないじゃないか」


「別に良いもん。こんなのいらない!」


「分かったよ。もう文句は言わないから落ち着いてくれ」


「え?」


 仕方ないので妥協する事に。口にした言葉に反応して目元を擦る動作が止まった。


「その遊びに付き合ってあげる。だから衣装破くのはやめよ」


「……ホント?」


「本当本当。たった今、気が変わったから」


「えへへ、やった」


「でも今日1日だけだよ。日付が変わったら中止だからね?」


「は~い、分かりましたぁ」


「ふぅ…」


 目の前にあった泣き顔は途端に笑顔へ。先程のぐずり声が演技なのではと疑ってしまう程の変わりよう。ただここで叫ばれるのは勘弁だった。隣の部屋ではまだ香織が寝ていたから。

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