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13 メイド服と機関銃ー2

「雅人は何か欲しい物ないの?」


「ん?」


 誕生日の翌日、部屋までやって来た華恋が唐突に質問を飛ばしてきた。プレゼントのリクエストを。


「欲しい物ねぇ。まぁ色々あるけどさ」


「例えば?」


「主に漫画」


「そういうんじゃなくってさ、もっとこう貰ってありがたみのある物にしなさいよ」


「どうして? 何か買ってくれるの?」


「……うん。せっかくの貴重な誕生日なんだし」


 彼女が顔を赤らめる。照れくさそうに頬をポリポリと掻きながら。


「でも誕生日のお祝いは2人で旅行に行くって話だったんじゃ…」


「それはそれ。やっぱり別でプレゼントしたいじゃん。形に残る物として」


「なるほど…」


 何かをくれるというなら貰えるに越した事はない。ただその場合、自分も贈り物を用意しなくてはならなかった。


「で、欲しい物あるの?」


「あるよ」


「何?」


「可愛い可愛い彼女」


「……あ?」


 適当に思い付いた言葉を口にする。直後に対話相手の目尻がピクピクと痙攣した。


 また拳で殴られるかもしれない。そう予想して身構えたが攻撃は飛んで来なかった。


「ノート1冊借りるわよ」


「え? あ、うん」


 代わりに近付いてきて机を漁り出す。ペンとノートを手に持ったかと思えば椅子に座った。


「一応、アンタの希望を聞いてあげるわ。どんな子が好みなの?」


「え? 何の話?」


「だ~ぁから、雅人が付き合ってみたい女の子のタイプよ」


「はぁ?」


 意味の分からない質問が飛んでくる。思考回路を全力で混乱に陥れてくる内容の台詞が。


「アンタ、彼女欲しいんでしょ? だからどんな子が良いのか聞いてあげるって言ってんの」


「聞いてどうするの? その希望に見合った子を紹介してくれるの?」


「まぁね。雅人のリクエスト通りの子が知り合いにいればだけど」


「え、えぇ!?」


 衝撃と動揺が止まらない。彼女は椅子の上に片足を乗せると豪快に口でキャップを外した。


「年齢は? 年上か年下か」


「どっちでも。ただ上でも下でも2歳差までで」


「ロリコンじゃなかったのか。ちっ」


「あ、当たり前じゃないか。あと理想は同い年ね」


 冗談かと思ったが本当にアンケートがスタートする。細かな性癖を調べる調査が。


「性格はおとなしめか派手か」


「大人しい子で。やかましい女の子は苦手です」


「なら智沙は違うか…」


「智沙はやめてくれ。向こうだって僕なんか嫌だろうに」


「おしとやかな性格と寡黙な子ならどっちよ?」


「う~ん、難しいなぁ。でもずっと黙りこくってる子も苦手かも」


「なるほど」


 返事を聞いた華恋がスラスラとノートに記入。勉強中の時でも見た事がない程の真面目な顔付きだった。


「つまり口数が少ない子の方が良いけど、意図的に喋らない子は苦手って事ね?」


「そうだね。会話が出来ないと意志の疎通が図れないわけだし」


「ふ~む…」


 更に眉間にシワを寄せて唸り始める。どうやら本気で検討してくれているらしい。


「理想の髪型は?」


「これといって特には。その人に似合ってるなら何でも良いです」


「ロングかショートならどっち?」


「ロングで。短いより長い方が女の子っぽいかなぁと」


「ほう」


 なのでこちらも真摯に対応。一瞬、華恋の口元が綻んだ気がした。


「じゃあ胸の大きさは?」


「そこまで聞くの? てかそれ関係あるの?」


「いいから答えて」


「えぇ…」


 どう告げるべきか悩む。だがやはり今回も正直に答える事に。


「お、大きい方でお願いします」


「はあぁっ!?」


「ダ、ダメなんですか。やっぱり」


「男のクセにバストの大きさを気にするとか生意気なのよ。相手に合わせなさい、相手に!」


「……自分から聞いてきたんじゃないか」


 彼女が怒りを露わにしながら睨み付けてきた。ペンの端をガリガリと噛みながら。


 相変わらずの暴君っぷり。理不尽を感じずにはいられなかった。


「恋人と妹が断崖絶壁の崖にぶら下がっています。2人は今にも手を離して落ちてしまいそうです。アナタはどちらを助けますか?」


「それ好み関係あるの!?」


「道端で女の子がうずくまって泣いていました。しかしアナタは会社に遅刻ギリギリの状態です。さぁどうしますか?」


「ねぇ、これ心理テストになってない?」


「アナタの目の前には柵が立っています。その柵の高さは何メートルありますか?」


「もう女の子すら出てこなくなったね」


 意味不明な問い掛けの連続。そしてそんな無駄なやり取りを数十回繰り返した後、華恋が大きく口を開いた。


「よし、出来た」


 手の甲でノートをパシンと叩く。どうやら調査が終了したらしい。


「どうだった。知り合いに僕に合いそうな子いそう?」


「う~ん…」


「自分で答えといてなんだけど理想が高かったかも…」


「あれ? これ私じゃね?」


「はぁ?」


 期待と緊張感を膨らませていると彼女が口から酷すぎる台詞を吐き出した。意見を無理やりねじ曲げて生み出した悪回答を。


「ど、どうしてそうなるのさ!」


「何よ。文句あんの?」


「僕の答えと全然違うじゃないか!」


 間違いだらけの分析結果。再審査を申し込まずにはいられなかった。


「私、大人しいじゃん。おしとやかじゃん」


「学校ではね。家だと暴れん坊将軍じゃないか」


「髪だって長いし。胸だってバイーンだし」


「曲解っていうんだよ、そういうのは。納得出来ないって、こんな結果」


「雅人の理想の女の子は私以外にいません。はい、残念~」


「……ブス」


「あ?」


 つい口から悪態が漏れる。その瞬間、顔面目掛けてハイキックが飛んできた。


「うぉっと!?」


「くっ!」


「あぶね~、ギリギリセーフ」


 反射的に両腕でガードする。見事と自画自賛したくなるレベルで。


「ぐぎゃああぁぁぁっ!?」


 しかし悦に入っている所に第二撃が飛来。ボールペンで頭頂部を刺されてしまった。


「アンタ、今何て言った!?」


「いっつうぅ…」


「口にして良い事と悪い事があるでしょうが。人が傷つくような発言はやめなさいよ!」


「やって良い事と悪い事の区別がついてない奴に言われたくない…」


 血が出てるんじゃないかと思うぐらいの激痛が走る。どうやら本気で刺しにきたらしい。


「せっかく人が厚意でプレゼント用意してあげようとしてたのにさ……バカ」


「さっきの診断結果だとプレゼントはどうなるの? 華恋になるの?」


「そっ、私がプレゼント」


「い、いらない…」


 服を脱いで全身にリボンを巻いている妹の姿を想像。どう考えても危ない人だった。


「雅人は私に何くれるの? 初めての誕生日なんだからプレゼント頂戴よ」


「プレゼントは今ないが、代わりに良い事を教えといてあげる」


「は? 何よ」


 怪我が無い事を確認すると頭から手を離す。そのまま自信に満ち溢れた顔を指差した。


「僕がなびかない最大の理由は、その暴力的な性格が原因なんだよ!」


「え?」


「前から言おう言おうと思ってて、ずっと我慢してきたけど…」


「ど、どうしたの? 急に…」


「何かあるとすぐ暴力。文句言うとすぐ暴力。口答えするとすぐ暴力。くっ付いてこようとする前にまずそれを直してくれよ」


 日頃から溜め込んでいた不満をぶつける。戸惑う彼女のリアクションを無視して糾弾した。


「そういう性格してるうちは一生好きになんかならないからね。女に殴られて喜ぶなんて一部の変態だけだし」


「私はそんなつもりじゃ…」


「独裁政治で自分に従わせる。そんなワガママが貫き通せると思わないでくれよ!」


「ち、違…」


「華恋、さっき言ったよね。相手に合わせろって。その言葉そっくりそのまま返すから」


「うっ…」


「いつもいつも迷惑してるんだよ、この暴力女っ!」


 反論すらさせない勢いでまくし立てる。ディベート中の話し手のように。


「……あ」


 けれど言い終わったタイミングで言葉が詰まった。すぐ目の前にある表情が予想以上に雲ってしまったので。


「と、とにかく僕の言いたい事はもっと女性らしく振る舞ってくれって事だよ」


「む…」


「見た目は悪くないんだからさ、その荒々しい性格を直そうよ。ね?」


「ん…」


「すぐに手を出したら自分だって痛いし、彼氏が出来ても別れる原因に…」


「……バカ」


「は?」


 犯人を宥めるような説得を開始する。その途中で彼女は暴言を吐いて廊下へと出ていってしまった。


「怒らせちゃったか…」


 部屋に1人で残される。久々となる喧嘩が原因で。ただいつもと違うのは自分が華恋を言い負かしてしまったという点。


「ん?」


 ふと机の上に置かれたノートが目についた。先程、アンケートに利用していた筆記用具が。


「何じゃこりゃ…」


 手に取って中身を確認してみる。そこには殴り書きした数多くの単語が存在。更に雅人と華恋という名前の相合い傘まで記されていた。

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