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13 メイド服と機関銃ー1

「誕生日おめでとう!」


 かけ声と共に大きな音が鳴り響く。お祝い事にはかかせないアイテムの破裂音が。


 目の前にはロウソクの刺さったケーキや、湯気の立つ豪勢な料理が存在。そのどれもが食欲をそそる好物ばかりだった。


「いやぁ、おめでたいね」


「耳元でクラッカー鳴らすのやめてくれ。鼓膜が破れちゃう」


「あぁ、ごめんごめん」


「うりゃっ!」


「ぎゃあっ!?」


 ハシャぐ香織に注意を促す。同じ方法で仕返ししながら。


 今日は自分が18歳を迎える節目の日。この家族になってから何度目かになる1年に一度だけの記念日だった。


「ほい」


「ありがとう。何これ?」


 続けて彼女から大きめの袋を受け取る。中を確認するとブロックを組み立てて遊ぶ小学生用の玩具を見つけた。


「どうどう? 結構高かったんだからね」


「どうしてこれ選んだの…」


「ん? 前に好きって言ってなかったっけ?」


「子供の頃はね。今はもうこういうので遊ぶ歳じゃないよ」


「あら……ひょっとしてやらかしちった?」


「ここに対象年齢は6歳から12歳って書いてある」


「嘘!?」


 2人して箱の一部に注目する。誤って飲み込まないようにとか、踏んで怪我をしないようにと書かれた注意書きに。


「まさかこの歳になってこういう物を貰う事になるとは思わなかった」


「あは、あはは……ゴメンね」


「良いよ良いよ。後で童心に戻った気分で遊んでみるさ」


 中身はともかく行為が素直に嬉しい。ジャラジャラと鳴る箱をテーブルの下に置くと再び料理に手をつけ始めた。


「まーくんも18か。私と2歳差になっちゃったね」


「でもまたすぐ1歳差に戻るじゃん。半年もしないうちに」


「そだね。なんかマラソンしてるみたいだ」


「一生差が縮まらないマラソンだね」


「まーくんがリタイアしてくれたら私が追い付けるけど?」


「つまり死ねって事か」


 母親には事前に食べたい物のリクエストをされていたので中華料理と回答。父親からは誕生日プレゼントとして服一式を貰った。


 お祝い事だからか皆テンションが高い。ただ約1名だけが有り得ない表情で隣に佇んでいた。


「うぅ……私なんかの為にありがどうごじゃいます」


「も、もう良いから。泣いてばかりだと楽しめないでしょ。ね?」


「はいぃ…」


 母親に諭された華恋が両目を擦る。目尻から垂れる雫を拭うように何度も。


「ううぅ、ぐす…」


「泣くのやめようよ。早く食べないと料理冷めちゃうって」


「だって、だっでぇ…」


「お礼とか良いからさ。楽しもう?」


「……んぐっ、はぁ」


 最初に彼女が泣き出した時、いつもの嘘泣きなんだと思った。しかし鼻水をすするほどの勢いで嗚咽を始めたので本当なんだと判断。


 知り合って長い月日が経過したがこうしてお互いの誕生日をお祝いするのは今日が初めて。自分達がいかに異質な環境で育ってきたかを思い知らされた。


「うわああぁぁぁんっ!!」


「ぎゃーーっ!? ちょ、ちょっと!」


 慰めていると彼女が倒れ込んでくる。シャツに顔を埋める勢いで。


「ううぅ…」


「は、離れてくれよ! 何やってるのさ」


 家族の見てる手前恥ずかしい。もたれかかってくる体を力ずくで剥がした。


「うわぁ…」


 攻撃を喰らった箇所を見ると涙と鼻水で悲惨な状態に。風呂に入って着替えたばかりなのにもうベトベト。


「はぁ…」


 華恋も両親からプレゼントを受取済みだった。中身は恐らく自分と同じ衣類だろう。香織からも何かを受け取っていたが内容までは分からない。気にはなるが尋ねるのも無粋なので干渉しないと決めていた。


「く、苦しい…」


「私もギブアップ…」


 それから5人で次から次に料理へと手をつける。胃袋を満たすように。


 耳に残るのは家族の笑い声。久しぶりにハシャいだ記憶と共に自分と華恋の誕生日を祝う食事会は終了した。




「いつまで泣いてるのさ」


「だって、だって…」


 自室に戻って来ると貰ったブロックを組み立てる。ドアの前に座っている双子の妹に話しかけながら。


「泣きっぱなしで全然食べてなかったじゃん。お腹空かないの?」


「それは大丈夫だけど…」


「けど?」


「……う、うわあぁあぁあぁぁっ!!」


 情緒不安定なのか唐突に絶叫。階下にまで聞こえるような大声で喚き始めた。


「泣くなら自分の部屋で泣いてくれよ。やかましいんだって」


「うえぇぇ……んぐっ」


「しかし凄い顔だ。妖怪みたいな面になってる」


「うぅう、酷い…」


 身内だけのパーティーだというのに彼女はバッチリメイク。そのせいで目の周りは真っ黒で口周りは朱色に。とても見ていられない顔がそこにはあった。


「洗ってきなよ。悲惨な事になってる」


「……そんなに?」


「こっち向いて。写真撮っておいてあげるから」


「やぁだあぁぁ!」


 スマホを向けると必死で顔を隠してくる。隙を見て1枚だけ撮影した。


「そんなに嬉しかったんだ。パーティー開いてもらった事」


「……うん。今まであんまりお祝いされた事とかなかったし」


「そっか…」


 彼女がこれまでどんな誕生日を過ごしていたのかは知らない。ただ家族と離れ離れだった生活を考えると、ある程度の予想は出来た。


「……さっきから何してるの?」


「ご覧の通り。お城作ってる」


「それは見れば分かるけどさぁ…」


 図面を見ながら様々な形をしたパーツを組み合わせていく。単調な遊びと高を括っていたが意外に夢中に。


「……楽しい?」


「楽しいよ。一緒にやる?」


「うん…」


 華恋が床にペタペタと手を突いて接近。ハイハイする赤ちゃんのような動作で近付いてきた。


「どうやるの、これ?」


「ここに書いてあるパーツと同じ形のブロックを探して、後は繋げていくだけ」


「……面倒くさそう。予め作っておいてくれたら良かったのに」


「最初から完成してたら楽しみが無くなるじゃないか。組み立てていく過程が醍醐味なんだよ」


「ふ~ん…」


 性別のせいか意見のすれ違いが発生。思い返してみれば女の子向けの商品にプラモデルのような制作式の商品は無かった。


「これ?」


「え~と、これこれ。あともう1つ同じ形のあるから探して」


「分かった」


 ガチャガチャと音を立てて様々な色のブロックを組み立てていく。紛失しないように気を付けながら。


「ん? 何?」


「……プッ」


「は?」


「わははははははっ!」


「ちょっ…」


「近くで見ると益々酷いや。ははははは」


「わ、笑うなぁ…」


 流れで間近に迫った妹の顔を直視。思わず吹き出してしまった。


「ブロック作ってるより華恋を見てる方が楽しい」


「そこまで言う事ないじゃん。せっかくおめかししたのにさ」


「鏡見てきな。本当に酷いから」


「あぁ、もう! 分かったわよ。洗ってくれば良いんでしょ!」


「い、いてら」


 立ち上がった彼女が部屋を出て行く。怒りを露にして。


 しばらくすると一階から悲鳴にも近い叫び声が反響。ガラスでも割ってしまいそうな声量だった。


「もう18かぁ…」


 その実感は湧かない。数字の上だけでのイベントなので。


 ただ無意識にこれまで歩んできた人生を想起。中でも一番色濃く浮かんできたのはその大半を別々に過ごしてきた双子の妹だった。

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